短篇集だなんていやそんな大層なものではないんです。ええ、本当に。
南 ヱ斗
晨風一過
───ゃあ、今日もハッ──に生─よっ!!
ポジティブすぎる絶叫に
「隣人だか知らんけど朝っぱらから近所迷惑やて‥‥」引越しの挨拶も済まんうちからまだ見ぬ隣人に愚痴ってしもうた。
ふと、ベッドの真向かい、アナログ式の壁掛け時計を見る。短針が
早朝。
「6時て‥‥」
〝───ガキのうちから怠けんの。はようお
「‥あい‥‥」
見計らったように
リビングのそこかしこに散乱している段ボールを足で
「母さん、父さん、おはよう」ベランダからの街並みはオフィスビルに高層マンション、その隙間を
最近の日課。
───ここはあっこやない。そう言い聞かせてる。こうやって毎朝毎晩、窓からの景色を目に刻みつけて。
「‥‥‥‥こんなに女々しいのは、やっぱり
『おれの苦労の半分は婆ちゃんのネーミングセンスの
『せやろか? うちは好きやで。小春って呼んでると心があったかくならん?』
『ハル、聞こえてんでー。さりげなくお袋ディスったやろ』
───不意に聞こえたやわらかな声に、つきりと息が詰まる。母ちゃん父ちゃんと話した色んなこと。おれにとって宝物や。
───ヤ、誰にとってもやな。
「ほんま全部やったんやなあ」
これから過ごすであろう四倍、五倍の時間、それに倍する密度の
───こうなってまうまで、気づけんかった。
「‥‥‥顔洗お」こんな顔しとったら、母ちゃんに頬つねられて、婆ちゃんから小言もらう羽目になる。笑い上戸の父ちゃんはそれ見て大爆笑やろな。
〝あほ。教えたやろ?〟
〝泣きたいときは下見んと、 顔あげてお天道さんに笑いかけんねんて〟
〝そしたら涙越しのお天道さんが腹立つくらいキラッキラに輝きはるから〟
〝今度やってみ〟
「───」
右の頬がひりついた気がして、思わず
ああ、これだけでええ。
充分、ひとりで生きてける。
悲しみも、苦しみも、寂しさも、人と触れおうて、思い出を積み重ねることで
悲しい。苦しい。寂しい。
やけど、そのおかげで忘れんとおれるんや。このままでええんや。
「親不孝モンやな、おれ」
春の
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