memory

howari

第1話

20XX年


私たち人類は、人の記憶の中に入る事が出来る様になる。

人によってその記憶の迷路は様々である。

一回100万円と高額なので、簡単に入る事は出来ない。



私には関係ない話だったのに、まさか使う事になろうとは今の私は知るよしもなかった。





◇◇




彼と手を繋いで地下鉄を待っていると、もうすぐ三年が経つんだなぁと記憶が巡ってくる。  



「大丈夫?」


「うん」



前付き合っていた彼は、線路に落ちた老人を助ける為に地下鉄に跳ねられて亡くなった。電車を見る度、まだ彼の事を思い出してしまう。電車が通り抜けて風が頬を切る度に胸が切り裂かれて痛い。

隣に居る彼の事は大好きだけど、まだ亡くなった彼を忘れられない。こんな気持ちのままじゃ駄目なのは分かっているけど、それでも彼は私を愛してくれている。



彼の温かな手をぎゅっと握ると、優しい空気の中ふわっと微笑んで握り返してくれる。

そんな笑顔を見ると胸があったまり、彼とこの先もずっとずっと一緒に居たいと思う。 

 



——ねぇ聡、私は幸せになってもいいのかな?







今日は聡の三回目の命日。

お花を供え、お墓の前で両手を合わせて俯く。

今日はある決心を話そう、と思って来ていた。




「今日ね、裕翔くんにプロポーズしようかなって思ってるの。どうかな?私からなんて笑っちゃうかもしれないけど、彼と幸せになりたいと思うんだ。私、幸せになってもいいかな?」




『いいよ、美乃梨。』




聡の声が耳元で聞こえる。

見上げた空からは柔らかな春風がやってきて、私の背中をそっと押してくれた気がした。



「ありがとう、聡」



私は聡に背中を向け、彼に向かって一歩、一歩駆け出していく。自然と駆け足に変わっていく。

早く裕翔くんに会いたい。



ポケットからスマホを出し、彼の番号を指の腹で探していると彼の名前が表示され、急いで電話マークを押す。




「もしもし、裕翔くん?」




聞こえて来た声は知らない女の人の声だった。

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