第115話 オバケの結集

7月9日の明け方前、封木神社の下社にはたくさんの者達が集まっていた。


たくさんの者達といっても人々が集まっているわけではなかった。


人ではない様々なオバケ達が封木神社の境内に集まっていたのだった。


その様子を見ながら二実が横にいる三緒に言った。


「なによこれ百鬼夜行か何かかしら?神聖な封木神社の境内がオバケで埋め尽くされているわ。」


それを聞いた三緒が二実に言った。


「二実?そんな言い方はないでしょう??みんな私達に味方してくれたオバケさん達なのよ、感謝しないとダメでしょう??」


二実が三緒に言った。


「もちろん分かっているんだけど、何というか、巫女としてはすごく複雑な気分だわ。」


すると二実のもとに晴南達がやって来た。


晴南が二実に言った。


「二実さん、今戻りました。」


晴南達に気がついた二実が晴南に尋ねた。


「学校のオバケさん達はどうだった??」


晴南が二実に言った。


「九木礼小学校と中学校のオバケさん達もあらかた味方についてくれました。」


三緒が晴南に言った。


「それは良かったわ。」


二実が柚羽に言った。


「そうだ柚羽ちゃん、この前は本当にありがとうね。助かったわ。」


幽霊の柚羽が二実に言った。


「いえ皆さんが無事でよかったです。」


三緒が柚羽に言った。


「柚羽ちゃんのおかげで無事に戻って来られたわ。」


すると二実の近くにいた黒輪(こくりん)が柚羽に言った。


「柚羽殿、本当にかたじけない。おかげで助かり申した。」


大蛇の姿の無色(むしき)が黒輪に言った。


「全く黒輪(こくりん)ともあろうものが千亡(せんもう)を封印に行って逆に取り込まれてしまうとは情けない限りだ。」


黒輪が無色に言った。


「返す言葉もない。」


三緒が柚羽に言った。


「でもよく千亡(せんもう)さんを説得する方法に気がついたよね。」


二実も頷きながら柚羽に言った。


「本当によく気がついたわよ。物音を立てずに壁ごしに筆談すれば交渉できるって。」


柚羽が二実に尋ねた。


「二実さんも気がついていたんじゃないですか?」


二実が柚羽に言った。


「まあ私も千亡さんと交渉しようと思って九木礼トンネルの中に入ったんだけど。その交渉方法には最後まで気がつかなかったわ。」


すると三緒が二実に尋ねた。


「ちょっとノープランで九木礼トンネルに入ったわけ??」


二実が三緒に言った。


「うん、そうだけど?」


三緒が二実に言った。


「考えがあるから私に任せてみたいな事言ってたでしょ?」


二実が三緒に言った。


「ああでも言わないと中に入らなかったでしょ?」


「柚羽ちゃんが助けてくれたから良かったもののあやうくみんな行方不明になるところだったのよ??」


「もちろん危険なのは分かってたけど、オバケさん達は私達みたいにポリシーを持ってるから、そこをうまく聞き出せば千亡さんと交渉できるって思ったのよ。まさか静寂が大好きなオバケとは思わなかったけど。」


「まあどのみち千亡(せんもう)さんとの交渉は二実は無理だったわよね。」


「どういう意味よ?」


「静寂が大好きなオバケじゃ二実じゃ絶対無理だって意味。なにせ二実はやかましいのが取柄だもんね。」


「ちょっと三緒??一言多いわよ。」


するとリグロの後ろからオバケが2体ほどやってきた。


そして晴南達の方を見ながらリグロに尋ねたのだった。


「リグロ様??もしやこちらの方々が勇者様方ですか??」


リグロが後ろからやって来たオバケに言った。


「ああこちらの方々が大託宣(だいたくせん)に預言されていた勇者様達だ。」


晴南達はリグロの後ろからやってきたオバケに気がつくとリグロに尋ねた。


「あれっ??見た事ないオバケさん達ですね。」


優斗がリグロに尋ねた。


「もしかしてリグロさんが言ってたドルイアから来た魔王軍の方々ですか?」


リグロが優斗に言った。


「ああ先ほど異世界門を通ってここに到着した我が配下達だ。」


髪の毛が蛇の姿をしている美しい姿の女性が晴南達に言った。


「私はリグロ様の配下の一人でメデューサのリサーラでございます。」


甲冑姿の首のない騎士が右脇に自分の首を抱えながら晴南達に言った。


「それがしのリグロ様の配下の一人でデュラハン(首なし騎士)のパテウスでございます。お会いできて光栄でございます。勇者様。」


晴南が二人に言った。


「はい、よろしくお願いします。リサーラさん、パテウスさん。」


メデューサのリサーラが晴南に言った。


「この度は勇者様と同じ陣営である事を大変喜んでおります。」


麻衣子が二実に言った。


「そういえば封木神社を出る前よりもオバケさん達の数が増えてますね。」


二実が麻衣子に言った。


「うん、リサーラさんとパテウスさんが異世界ドルイアからスケルトンさん達とゴーストさん達をたくさん連れて来てくれたから、この神社の中にはオバケさん達がいっぱいいるわ。」


「パテウス、リサーナ。遠路はるばるご苦労だった。ゆっくり休んでくれ。みなにもそう伝えてくれ。」


リグロが二人にそう言うとリサーナとパテウスは後ろに下がっていった。


すると晴南がリグロに言った。


「リグロさん、九木礼で回れる所はほぼ回り終わりました。」


晃太が晴南に言った。


「さてオバケ解放作戦もかなり進んだな。一時的には危険な状況もあったがこれで九木礼にいるオバケはあらかた味方についてもらえたはずだ。」


冬湖が晃太に言った。


「オバケさん達が続々と集まってきてますよね。」


リグロが晴南達に言った。


「オバケ解放作戦は巫女殿や晴南殿の全面協力もあって順調に進んでおります。」


晴南がリグロに尋ねた。


「それじゃあ今度は明井田にいるオバケを解放していくんですか?」


リグロが晴南に言った。


「それなのですが、明井田での作戦は見合わせるべきと考えております。」


晃太がリグロに尋ねた。


「どういう事ですか?」


リグロが晃太に言った。


「予想以上にオバケ達を味方につける事に成功している。それに加えて我が配下の者達も無事に呼び寄せる事もできました。九木礼は闇の勢力圏として維持できているので自由に動き回わっても問題ないのだが、これが明井田で動き回るとなると話は変わってくる。」


優斗がリグロに言った。


「確かに明井田でオバケ解放作戦を進めるのはリスクが高すぎますね。明井田は三象が支配している地域ですし。」


晃太が優斗に言った。


「そうだな明井田に入ったら強制力で操られて殺されてしまう可能性も十分に考えられる。これだけのオバケ達が集まったのなら、危険を冒してまで明井田で動き回る必要は確かにないかもしれないな。」


リグロが優斗に言った。


「仰る通りでオバケ達が集まらない事を想定して明井田での作戦も考えていたのだが、予想以上のオバケ達が味方についてくれた。これならば当面の明井田での作戦は必要ないだろう。」


優斗が晴南に言った。


「僕達にとって時間を稼ぐ事は有益になる。逆にセルティア側にとっては不利にしかならない。僕たちが生きている限り逆転の切り札がいつまで経っても切れない訳だからね。」


晃太がリグロに尋ねた。


「それじゃあ三象(さんしょう)がやってくるまではしばらく待機って事ですか?」


リグロが晃太に言った。


「そうなるな。」


すると晴南がリグロに尋ねた。


「でもリグロさん?三象(さんしょう)が九木礼にやって来ても、私達じゃ分からないですよ。」


二実が晴南に言った。


「そうよね、気配もないんじゃ私ですらお手上げだし。」


リグロがみんなに言った。


「それならばフウキ殿が知らせてくれるそうだ。もし三象が九木礼にやって来る兆候があれば直ちにフウキ殿のお守りを通じてみなに伝えると言われていた。」


麻衣子がリグロに言った。


「それなら安心ですね。」


晴南がリグロに言った。


「それじゃあフウキ様のお守りは肌身離さず持ち歩かないとね。」


冬湖が晴南に言った。


「そうですね。」


二実が三緒に言った。


「それじゃあそれまでは一休みって事か。」


三緒が二実に言った。


「ずっと忙しく動き回っていたから、少し休むのもいいかもね。」


二実が三緒に言った。


「そうねえ、そうしましょうか。」


すると麻衣子がみんなに尋ねた。


「私達はどうする??」


晴南が麻衣子に言った。


「そういえば土曜日なのよね。どっかに遊びにでも行きましょうか?」


麻衣子が晴南に言った。


「行くってどこに??九木礼の外には行けないわよ。」


すると晃太が晴南に言った。


「悪い晴南、ネットで明井田の情報を調べようと思ってるから一緒には行けない。」


晴南が晃太に言った。


「えー??別にそんな事しなくてもいいでしょ??」


晃太が晴南に言った。


「いや時間があるなら少しでも調べておいた方がいい。三象(さんしょう)の情報は多いに越した事はないからな。」


優斗が晃太に言った。


「なら僕も手伝うよ。」


晃太が優斗に言った。


「頼む。」


拓也が晴南に言った。


「ずっと忙しく動き回ってたから、のんびり休ませてもらっていいか??」


長孝が晴南に言った。


「俺も休ませてもらいたいっす。」


晴南が二人に言った。


「えー??別に休まなくてもいいでしょ??」


麻衣子が晴南に言った。


「だから晴南の基準でものを言っちゃダメだって、ずっと気の張りっぱなしだったからみんな疲れてるに決まってるでしょ?」


晴南が不機嫌そうにみんなに言った。


「もう分かったわ。それじゃあみんな自由に過ごしてちょうだい。」


晴南が麻衣子に言った。


「ああー、せっかくみんなで遊びに行こうと思ってたのに。」


麻衣子が晴南に言った。


「もう、むくれないでよ。晴南??ああ頼んだのは私から一つお願いがあったからでもあるんだ。」


晴南が麻衣子に聞き返した。


「お願い??」


麻衣子が晴南に言った。


「美咲に付き合ってあげようかなって思ってるの。ほら美咲が今日の正午にベリエに集まるように招集をかけてたでしょ?最近美咲とあんまり話せてなかったし。」


晴南が麻衣子に言った。


「そういえばお昼の時間にベリエに集合してねって言ってたわね。いいわよそれなら美咲に付き合いましょうか。」


晴南が麻衣子に言った。


「それじゃあ一寝入りしたらベリエに行きましょうか?」


晴南達は仮眠をするために第一社務所に向かうのだった。


そして仮眠をすませるとベリエに向かったのだった。

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