第74話 叫び声

満子は八堂集落(はちどうしゅうらく)に向けて角度があり舗装もされていない山道を進んでいった。


一方晴南達も満子を追いかけていた。


だが途中で満子を見失ってしまっていた。


拓也が言った。


「しまったな、満子さんを見失った。」


優斗が拓也に言った。


「この先は八堂集落(はちどうしゅうらく)しかないし、道はこの道一本だけだからたぶん大丈夫だよ。」


それからしばらくして晴南達は八堂集落(はちどうしゅうらく)へと到着した。


八堂集落(はちどうしゅうらく)は九木礼町の市街地からはかなり離れた場所にあり、山の中にあった。


この八堂集落に住人は誰もおらず、消滅集落(しょうめつしゅうらく)となっていた。


八堂集落には十軒ほどの民家が立ち並んでいた。


そのうちの一軒に旧大柳家(柚羽の引っ越す前の家)があった。


八堂集落はとにかく荒れ果てていた。


八堂集落の民家はすべて木造住宅であったが全てが廃墟といって差し支えなかった。


とある家は窓がたくさん割れており玄関の扉が外れて中の様子が丸見えだった。


またある家は雨風で変色した家具が散乱していた。


さらには壁が崩れ落ちた家や屋根が落ちてしまってもはや家としての形を保っていない民家も何軒かあった。


八堂集落の至る所に雑草が生い茂っており住人が誰も住んでいない事を物語っていた。


晴南がみんなに尋ねた。


「ねえ前から雰囲気はあったけど、ここまで荒れてたっけ??」


優斗が晴南に言った。


「たぶん最後に住んでた大柳家が引っ越しちゃって誰も管理しなくなったからだと思うよ。」


拓也が尋ねた。


「前に来た時は屋根とか落ちてる家はなかっただろう?柚羽達が引っ越して1年も経ってないのにここまで変わるもんか?」


晃太が拓也に言った。


「たぶん2月の大雪のせいだろう。ここの雪かきは誰もしてないだろうから雪の重みに耐えられずに屋根が崩れてしまったんだろう。」


拓也が晃太に言った。


「なるほどな。」


晴南がみんなに言った。


「元から雰囲気あったのに、さらに雰囲気出てきたわね。」


だが晴南達は八堂集落に到着しても満子を探す事はしなかった。


それは八堂集落中に満子の独り言が響き渡っていたからである。


「そうだ今日は柚羽の好きなビーフシチューを作ってあげましょうか?」


「そうよね!!柚羽はビーフシチュー大好きだものね!!」


「いいわいいわ作ってあげるわ!!待ってってね柚羽!!」


晴南達は八堂集落の入り口の所から大柳家を見張っていた。


晴南がみんなに言った。


「健太の家から満子さんの声が聞こえてくるわね。」


拓也が尋ねた。


「どうする??」


優斗が拓也に言った。


「ここで見張ってればいいんじゃないかな?ここは集落への出入口になってるから外に行こうとしたらここを通るしかないしね。」


満子は大柳家に入っていったきり外に出てくる事はなかった。


晴南達は待機して誠二郎達がやってくるのを待つ事にした。


時間が刻々と過ぎていった。


誠二郎の到着は予想より遅れていた。


そして八堂集落の周囲が暗くなってきた。


八堂集落には住人はだれもいないので明かりがつくわけもなく真っ暗闇が広がっていった。


満子がいるはずの旧大柳家からも明かりが灯る事はなかった。


そして周囲は完全に暗闇に包まれた。


そんな真っ暗な廃墟の中を満子の大きな声が響いていた。


「そうだ今日は柚羽の好きなビーフシチューを作ってあげましょうか?」


「そうよね!!柚羽はビーフシチュー大好きだものね!!」


「いいわいいわ作ってあげるわ!!待ってってね柚羽!!」


晴南達は同じ場所で待機していた。


拓也が優斗に言った。


「暗闇の中から満子さんの大きな声が聞こえてくるな。」


優斗が拓也に言った。


「かなり怖いね。」


晃太が晴南に言った。


「健太から連絡があった。誠二郎さんあと十分ぐらいでここに来るはずだ。」


晴南が晃太に言った。


「分かったわ。」


八堂集落の中は相変わらず満子の声が響いていた。


「そうだ今日は柚羽の好きなビーフシチューを作ってあげましょうか?」


「そうよね!!柚羽はビーフシチュー大好きだものね!!」


「いいわいいわ作ってあげるわ!!待ってってね柚羽!!」


同じような独り言が何度も何度も繰り返された。


何十回も何百回もビーフシチューの独り言が繰り返された。


再び真っ暗な廃墟の中から満子さんの声が聞こえてきた。


「そうだ今日は柚羽の好きなビーフシチューを作ってあげましょうか?」


「そうよね!!柚羽はビーフシチュー大好きだものね!!」


「いいわいいわ作ってあげるわ!!待ってってね柚羽!!」


すると車のライトが近づいてきた。


山道を進んでくる車の音が聞こえた。


ライトをつけた車が八堂集落の出入口へとやってきた。


車から誠二郎と健太が降りてきた。


そして誠二郎がみんなに言った。


「みんな本当にありがとう。」


誠二郎がみんなに尋ねた。


「満子はどこだ??」


拓也が誠二郎に言った。


「昔の大柳家に入っていきました。」


誠二郎が言った。


「満子め、こんな所で何をしてるんだ。」


誠二郎がみんなに言った。


「みんな迷惑をかけたね。あとは私が何とかしよう。健太もここにいなさい。」


そして誠二郎は旧大柳家の中に入っていった。


すると中から満子の絶叫が響いた。


「何しに来たのあなた???」


今度は誠二郎の声が響く。


「さあ満子帰るぞ!!」


満子の声が響いた。


「そうか柚羽を殺しに来たのね!!そうはさせないわ。柚羽はやく逃げなさい!!パパが柚羽を殺そうとしてるわ!!」


誠二郎の声が響いた。


「いい加減にしろ!!いつまでこんな事を続ける気だ!!」


真っ暗な八堂集落に誠二郎と満子の怒声が何度も響き渡っていた。


「あなた!!お願いよ!!柚羽を殺さないで!!」


「頼む、満子正気に戻ってくれ。柚羽の事を考えてやってくれ!!」


「ええ考えてるわ!!柚羽を殺そうとしてるあなたを止めようとしてるのよ!!!」


誠二郎がやってきても満子との口論が始まっただけで、一向に解決する様子をみせなかった。


晴南が拓也に言った。


「帰ろうかと思ったけどこのまま帰っていいのかしら??」


晃太が晴南に言った。


「いっこうに解決しそうにないぞ。」


拓也が晃太に言った。


「さすがにこのまま帰れないだろう。やっぱり親父を呼ぶか?」


晴南が拓也に言った。


「そうね勇雄さんに来てもらいましょ。」


晃太が拓也に言った。


「そうだな、もうそうするしかなさそうだな。」


晃太が健太に尋ねた。


「いいか健太?」


健太が晃太に言った。


「はい全然かまわないです。」


晃太が優斗に尋ねた。


「優斗はどうだ?」


優斗が晃太に言った。


「うん、いいよ。これは仕方ないと思う。誠二郎さんでも満子さんの説得が難しそうだもんね。」


拓也がみんなに言った。


「分かった、すぐに親父に連絡する。」


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