第60話 黒い部屋


寿恵(すえ)と二実達が階段を上って二階にやってきた。


寿恵がみんなに言った。


「ここが明洋(あきひろ)の部屋よ。鍵は開いてるわ。」


明洋(あきひろ)の部屋は階段を上がってすぐの所にあった。


家の中は白を基調とした明るい感じの内装になっていた。


壁紙と天井は白で統一されており、清潔感のある内装であった。


それは2階も同様で白の清潔感のある内装で整えられていた。


寿恵(すえ)と二実達が明洋の部屋に入ろうとしたとき1階からプルルルルという音が家中に流れた。


寿恵(すえ)が慌てて一階へ降りていって固定電話の受話器を取った。


二実達は2階で待っていた。


すると1階から寿恵(すえ)の声が響いてきた。


「はい、白焼(しらやき)でございます。あら?あなた?何か分かったの?」


「うん。うん。」


「ええっ!!本当なのあなた??!!!分かったわ、私もすぐにそっちに向かうわ!!」


寿恵(すえ)は慌てた様子で受話器を置くと二階の二実達に大声で言った。


「ごめん二実ちゃん?急用が出来たから出かけてくるわ。」


二実達が1階をのぞき込むと、寿恵(すえ)は顔を真っ青にして出かける準備をしていた。


そして寿恵(すえ)は慌てて玄関から外に出るとそのまま車に乗り込んで出かけてしまった。


二階の残された二実達は寿恵をただ見送った。


二実がみんなに言った。


「寿恵(すえ)おばさんどうしたんだろう?顔が青ざめてたけど?」


優斗が二実に言った。


「二実さん、僕達はどうしますか?」


すると晴南が優斗に言った。


「せっかくだから明洋(あきひろ)さんの部屋を見せてもらいましょうよ?」


麻衣子が晴南に言った。


「ちょっと晴南?せっかくって何よ。」


晴南が麻衣子に言った。


「大丈夫よ、寿恵(すえ)さんの許可は貰ってるんだし。」


二実がみんなに言った。


「そうだね、私もすごく気になるんだよね。あの夜に明洋(あきひろ)が部屋の中で何をしていたのか。」


二実のこの言葉で明洋(あきひろ)の部屋の中に入る事になった。


二実達は明洋(あきひろ)の部屋の扉を開けて中に入った。


部屋の中に入った二実達はすぐにその部屋の異常さに気が付いた。


ただ異常といっても部屋の中が荒れていた訳ではなかった。


ちゃんとテレビやベッドや机やパソコンが整然と置かれており部屋の中は整理整頓がされていた。


では何か変だったのか?二実達が違和感を感じたものそれは部屋の明るさであった。


部屋の中が異様に暗かったのだ。


二実が言った。


「暗いわね?窓が閉まってるのかしら?」


だが部屋の中を確認すると窓からは光が差し込んでおり、窓が閉まっている訳ではなかった。


すぐに二実が部屋の照明のスイッチを入れた。


部屋の天井に据え付けられてる電灯がすぐに明かりを照らした。


だがその明かりはとてもよわよわしく感じられた。


「おかしいな?なんでこんなに暗いの?」


そう言い終わった二実に優斗が言った。


「違います、これ暗いんじゃありません。黒いんです。」


一同はすぐには優斗の言った言葉の意味を理解できなかった。


だが徐々にその意味を理解しなければならなかった。


この部屋は暗いのではなく、部屋の壁や天井が黒くなっているのだ。


部屋一面が黒くなっており二実達は暗いと勘違いしていたのだった。


部屋の壁が真っ黒になっておりその異様さに不気味さが漂っていた。


晴南が言った。


「何?この部屋?」


優斗が二実に言った。


「他の部屋とは全然雰囲気が違いますね。他の部屋は白を基調としてて清潔感がありましたけど?この部屋は黒一色ですね。明洋さんは黒色が好きなんですか?」


二実がみんなに言った。


「おかしいな?前に来た時はほかの部屋と一緒でこの部屋の壁は白かったんだけど?いつの間に壁紙変えたんだろ?」


すると麻衣子が壁を見ながらとある事にきがついた。


壁の黒色にムラがあるのだ。


麻衣子が由香に言った。


「あれ?ここ少し白くなってるわ?」


由香が麻衣子に言った。


「本当ですね。ここが他の所より少し白くなってますね。」


麻衣子が二実に言った。


「あちこちにムラがあるからもしかするとペンキで塗ったのかもしれませんね?ねっ二実さん?」


だが二実は麻衣子の問いかけに答えなかった。


麻衣子が二実さんの方を見ると二実の瞳が壁のとある箇所に釘づけになっていた。


麻衣子が二実に尋ねた。


「二実さん?どうかしましたか?」


優斗や晃太も黒い壁の白くなっている所を凝視していた。


晴南が二人に言った。


「晃太に優斗もどうしたのよ?」


すると麻衣子が優斗に尋ねた。


「ねえ優斗君?この壁ペンキで黒く塗られてるのかしら?」


優斗が麻衣子に言った。


「たぶん違うと思うよ。」


晴南が優斗に言った。


「ちょっと優斗?どういう事よ?」


優斗が晴南と麻衣子に言った。


「この白い所をよーく見てみて?」


晴南と麻衣子は二実達が凝視している箇所を見てみた。


優斗が晴南と麻衣子に言った。


「何か書いてあるのが見えない?」


麻衣子が優斗に言った。


「本当だ。何か字が書いてある。」


優斗が麻衣子に言った。


「たぶんマジックか何かで書いたんだと思うよ。」


晴南が優斗に言った。


「ちょっと優斗?確かに文字が書いてあるけどそれが何だっていうの?」


優斗が晴南に言った。


「何て書いてあるか確認してくれる?」


晴南が優斗に言った。


「えっと?2019年6月11日19時19分。」


麻衣子が優斗に尋ねた。


「これどういう事?ここに書いてある日時って何か意味があるのかな?」


晃太が麻衣子に言った。


「麻衣子?そこだけじゃないぞ?その右横の所にも書いてあるだろう?」


麻衣子は晃太に言われた場所を見てみた。


するとさきほど文字が書かれていた場所のすぐ横の壁にも2019年6月11日19時19分と書かれていた。


麻衣子が言った。


「あっ本当だ。こっちにも書いてある。」


すると麻衣子はある事に気がついた。


「あれっ?その下にも書いてあるし?こっち側にも書いてある?あれっこの横にも?」


麻衣子は驚いた様子で言った。


「なんでこんなあっちこっちに?」


晃太が麻衣子に言った。


「あっちこっちって表現も正しくないな。」


優斗が麻衣子に言った。


「ざっと見た限りだけど他の文は書いてなかったよ。書いてある内容は多分全部一緒だと思う。」


麻衣子が優斗に聞き返した。


「えっ??」


麻衣子は優斗の言った事に驚いてすぐに窓際の壁の白さが残っている所をよく観察した。


びっしりと文字が書かれている事が確認できた。


そして麻衣子が背筋が凍り付いた。


麻衣子の目に入ってきた文が全て同じだったのだ。


2019年6月11日19時19分・・・・2019年6月11日19時19分・・・・2019年6月11日19時19分・・・・2019年6月11日19時19分・・・・2019年6月11日19時19分・・・・2019年6月11日19時19分・・・・

2019年6月11日19時19分・・・・2019年6月11日19時19分・・・・2019年6月11日19時19分・・・・

2019年6月11日19時19分・・・・2019年6月11日19時19分・・・・2019年6月11日19時19分・・・・2019年6月11日19時19分・・・・2019年6月11日19時19分・・・・2019年6月11日19時19分・・・・

2019年6月11日19時19分・・・・2019年6月11日19時19分・・・・2019年6月11日19時19分・・・・

2019年6月11日19時19分・・・・2019年6月11日19時19分・・・・2019年6月11日19時19分・・・・2019年6月11日19時19分・・・・2019年6月11日19時19分・・・・2019年6月11日19時19分・・・・

2019年6月11日19時19分・・・・2019年6月11日19時19分・・・・2019年6月11日19時19分・・・・


この日時だけが延々と途切れることなく書かれ続けているのだ。


ひたすら2019年6月11日19時19分 2019年6月11日19時19分 が何度も何度も壁に書かれていたのだ。


そして2019年6月11日19時19分を何度も何度も書き続けられた事で黒い壁へと変えていったのだ。


晴南が麻衣子に尋ねた。


「な、なんなのよこれ??」


麻衣子が晴南に言った。


「そんなの知る訳ないでしょうが!!!」


優斗が晃太に言った。


「ねえ状況的に考えると明洋さんがやったとしか思えないんけど。晃太はどう思う?」


晃太が優斗に言った。


「確かに明洋さんしか考えられない。だがそうすると明洋さんは油性マジックか何かで訳の分からない日時を一晩中ひたすら壁に書き続けた事になる、壁が真っ黒になるまでな!もう変わってるとかそういうレベルじゃないぞ?明らかに常軌を逸している!」


晃太はそういうとマジックで真っ黒になっている黒い壁を見つめた。


二実がみんなに言った。


「明洋は一睡もせずに一晩中訳の分からない日時を部屋の壁にひたすら書き続けていた。一体何がしたかったの?もしかして私達に何かを伝えようとしていたのかしら?」


優斗が二実に言った。


「いえ、二実さんに伝えるだけならメールを送るとかSNSを使うとかもっと簡単な方法がいくらでもあります。こんな事をする理由がありません。」


二実が優斗に言った。


「そうだよね。」


すると晃太が二実に言った。


「二実さん、そろそろ帰りませんか?明洋さんの部屋は見させてもらいましたし?」


二実が晃太に言った。


「そうね、そろそろ帰りましょうか。ただこのまま帰っていいのかな?おばさん慌てて出てっちゃたし。玄関の鍵とか開けっ放しで帰っちゃまずいよね。」


二実はすぐに寿恵に連絡を取った。


すると玄関はオートロックだからそのまま帰って構わないとの事だった。


二実達は明洋の家を後にしてそのまま九木礼の封木神社へと帰ったのだった。


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