第5話 若いって凄い
次の日朝、2日酔いから復活した父に叩き起された。理由は、母が俺に魔法の修業をした事への嫉妬心だそうだ。相変わらず父は、明るく元気である。
「(それにしても、叩き起こされたのは、地味に痛かった……父ちゃん、理不尽でだよ……)」
「わっはっは! 朝っぱらから悪かったな、リオ。昨日、出来なかった修業をこれからするぞ」
父は笑いながら俺の頭をわしゃしゃと撫でる。
「父ちゃん! 起きんのも、修行すんのも良いけどせめて起こすなら叩き起こすのはやめてよ! 地味にいたかったんだからね!」
そんな父に俺は、プイッと顔を逸らしふくれっ面になりながら答えた。
「すまん、すまん! 悪かったから後で、母ちゃんには内緒に何か食い物買ってやるからな。なっ? それで、許してくれよ?」
父は、謝っている最中も笑顔だった。そして、自身の顔の前で、右手を前後な動かしながら謝罪した。
「本当! じゃあ、許す。何買ってもらおうかなぁ〜」
俺は、さっき迄の怒りは頭の外へ行き、ウキウキしながら買い食いを楽しみにする。
「(自分でもチョロい性格していると思う。それでも、前世でも、今世でも、食うことは楽しみなんだよ……合併症引き起こしてからは制限あったから……制限のない今は楽しみたいんだ……!
それに、中世ヨーロッパみたいな世界観、技術力のくせに食文化だけなんか分かんねぇけど、前世基準でレベルが高ぇんだよなぁ。出店でも、値段の割には、良いもの売っているし、不思議だと思う)」
この国がおかしいのか、それとも、この世界がおかしいのか。建造物や製造技術は、中世に近い感じがする。しかし、食へのこだわりは、前世とも張り合うほど高い為に、チグハグ感があった。
「わっはっは! 俺に似て単純だなぁ。じゃあ、修行すっかー。今日から俺が、リオに教えるのは、体術だ。母ちゃんから頭が良いことは聞いているが、武器は流石に危ねーし、前衛にも後衛にも必要な体術を学べば、無駄にはなんねーだろ」
父は、笑っていた顔を引き締めて、真面目な表情で俺に語りかけた。俺は正直似合わないと思った。父は、笑っていた方が、父らしいと思った。
「先ずは、体を温めてから走るか……これを続けていくと"筋力向上Ⅰ"の技能が得られる。この技能は、強度が上がる時に能力補正をかけてくれるから、取るに越したことは無いんだぜ。
技能にも、強さがあるのは知っているだろ? "筋力向上Ⅰ"を上限まで上げると、強度が1上がるにつれて、最大で5追加で補正が入る」
「それは凄すぎない? その技能って走らなくちゃ上がらないの? 型の練習や素振りとかでも上がるの?」
俺は、そのヤバさに驚きながら、父に疑問を投げかけた。
「いや、勿論上がるぞ! でも今は、走った方が効果的なんだよ。1番は戦闘時が上がりやすい事で、2番目は海って言う、とてもでっかい水溜りで動いたときなんだ。
走るのは3番目くらいに上がりやすい。素振りの様な変に癖を付けず、年齢に見合わない負荷を体に掛けるよりかは、走った方が強くなるには、効果的なんだよ」
父は、やっぱり似合わないくらい論理的に一つ一つ話し、俺の疑問を解消した。そして、俺に準備が出来たかを問いかけた。
「よし。少し歩いて体の節々を温めて走るかー。準備は良いか? リオ」
「おう、父ちゃん。今日はよろしくな!」
「こちらこそ、よろしくな! リオ」
俺と父は互いに笑いながら、挨拶を行い走り出した。
俺は、50m走っては歩いて、走っては歩いてを繰り返した。そして、おそよ500〜600mくらい走ったところで力尽き、父に背負われていた。
正直、5歳だから200m行ったから良いのかなと思っていたが、意外と走れた。
父に背負われる前、俺が300mくらい走った所で、もう無理と思った矢先、突然体が軽くなり、呼吸が楽になった。父に背負われたのは、調子に乗って走ったらぶっ倒れてしまったからだ。
その後、俺を背負って果物ジュースみたいなものを買ってくれた父は、俺を見て笑いながら、褒めてくれた。
「わっはっは! よく頑張ったな、リオ。その年にしちゃよく走ったもんだ」
俺はジュースを飲みながら体力回復に努めた。決してにやけていない。いないったらいない!
「リオ。そう言えば、途中無理そうだったけど、突然体が軽くなる様な感覚は無かったか?」
「えっ!? なんで分かったの?」
俺は、ジュースを吹き出さない様にしつつ、父の問いに驚いた。
「そりゃ、多分"筋力向上Ⅰ"の技能が発現したんだよ。後で家に帰ったら、確認してみると良い。今は、やめておけよ? 折角の買い食いだから、そっちに集中しとけ。な?」
俺は、父の言葉に頷き、確認しようとしていたステータスをやめて、買い食い集中した。
「うん。分かったよ。さてと、何食うかな〜。あっはっは」
俺は歩く父の背中から、キョロキョロと周囲の店を見て回りる。
「父ちゃん。待って! あの紫色の丸っぽい果物って何?」
偶々見かけた果物屋を通り過ぎようとしていた時に、紫色の林檎っぽい形の果物が気になり、声を上げた。
「あれはな〜リゴンって言ってな〜……見た目が、悪いのに甘酸っぱくて美味いんだぜ! 俺も母ちゃんも好きなんだが、皮だけではなく実の方まで紫色だからあまり子供に人気なくてな。
ただ、よく育つもんだから、低価格で市場にもよく出る果物なんだよ。リオは、そう言うの気にしないのか?」
父は笑みを浮かべていたが、少しだけ残念そうにリゴンについて教えてくれた。
「俺はそう言うの気にしないかなぁ〜。父ちゃんや母ちゃんが美味いって言うなら、リゴンが食いたい! あれを買って帰ろう」
俺がそう言うと残念そうな顔をやめて、嬉しそうな表情でリゴンを買ってくれた。
「それじゃぁ、買って帰るか。リゴンなら、買い食いせずに母ちゃんの分も買って、家で食おうぜ。序でに、家帰って朝飯を食べようぜ。腹減ったぜ」
そう言うと俺たちは、一緒に家に帰る。しかし、朝修行する事を母に伝えていなかった父と俺は、母に説教を食らった。朝飯食ったのは、それからだいぶ後の話だった。
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