第40話 ユミーコ、本気出す。

「ぐはッ……」

 悪代官スイングバイの直撃を受けたマサムーシは血を吐いた。粘り気のあるアスパラガス色のペンキのような……それでいて真夏の日差しを燦燦と浴びた深い森の様に落ち着くような。でも真夏の山なので、けたたましく鳴く蝉がとてもうるさい。落ち着かない。でも七年も土の中で耐えて、長くともひと月しか生きられず、その間に交尾を行って子孫を残さなければならない。彼等も必死だと考えればそれなりに許容しても良いはずなのだ。


 そんな慈悲の心が芽生えたユミーコは、マサムーシに口付けをした……と思いきや、回転するちくびを凝視した所為で目が回ってくらくらした拍子のハプニングだ。


 だが、やはりヒロインの接吻には何らかの力がある。これはどんな異宇宙でも普遍的な事実であり、キス力学の第一法則だ。死にかけていたマサムーシは奇跡の復活を遂げ、しかしその代償に記憶の一切合切をまるごと失うというハプニングが起きた。


 ユミーコにとってはこれはチャンスである。


 ちょっと生真面目すぎて扱いに困っていたマサムーシを一から育て直して自分好みの男に育てあげるという、主人公メイキングの暁である。宇宙中の女性という女性は自分の理想の男性が思うがままに命令を聞くようになると聞けば触覚が唸るはずだ。


「ふははは!そーれ!それそーれ!どうだ私のスウィングバイは!」

 調子に乗った宇宙悪代官が、これ見よがしにスイングバる。確かに強力な技で、ユミーコと倒れているマサムーシの周辺にスイングバられたものが次々と飛んできてはそれなりの爆発を起こすが、正直鬱陶しいし、何よりいちいち「スウィング」と発音するのがかなりムカつく。


「私の邪魔をしないでくださるかしら……?」 

 そんなこんなで遂に怒りの頂点に達したユミーコがゆらりと立ち上がった。

 折角、悲願が叶いそうになっているところにちょっかいを出されては堪らない。


 転生したのに特に何かの能力を得た訳でもなかった様に見えたユミーコの、真の力が発揮されてしまう時が来たのかもしれない。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る