第18話 帰宅
中継大陸にいる悪魔を殲滅した後、すぐにでもシーラの元に帰ろとしたのだがーー
「まさかこんなことになるとはな」
雲の上で腕を組んで嘆息する。体からは凄まじい熱量が絶え間なく排出され、肉体を守るのに手一杯で着ていた服は全部燃え尽きてしまった。
(マスターのエーテルに肉体が過剰反応をおこしています。体内に残留している活動エーテルを全て排出してください)
「分かっている。その台詞何度目だ? ……やれやれ。すぐに戻れないとなるとシーラに心配をかけてしまうな。地上で人間達が嬉しそうにしているのがせめてもの救いか」
中継大陸の近くに点在する小島では俺が転移した人間達と島で何やら監視っぽいことをしていた人間達が抱き合って、大人も子供も皆が嬉しそうにしていた。
「ここで俺が助けたんだと名乗り出れば凄く感謝された上、友達が百人くらい出来そうだな」
(ルド様の感性から外れた行動ですね)
「今は俺もルドなんだがな。……まぁ、いい。この様ではしばらくの間俺の存在は隠しておいた方が良さそうだ」
体を動かすたびに肉体が悲鳴を上げる。この状態で中位以上の悪魔と戦闘することになれば色々と面倒そうだった。
(それが賢明かと。悪魔は人の弱いところを嬉々として攻めます。マスターの正体がバレればシーラ様達が狙われます)
本来の力が出せれば守り切るなど造作もないが、百万かそこらの数の悪魔を殲滅しただけで動けなくなるようでは少々不安だ。
「肉体が安定するまで後どれくらいだ?」
(およそ十六時間ほどかと)
「下にいる人間達もそれくらい居ないかな?」
(後一時間もしないうちに箱庭に戻って行くかと)
「だよな」
そんなわけで誰もいない空の上で俺は大人しく体を休め続けた。そしてーー
「ようやく帰還か」
ルドが寝泊まりしている学生寮へと戻ってきた。
(全裸のマスターを目撃されるのではとヒヤヒヤしました)
「……ああ。そういえば忘れていた」
服は燃え尽きたままで俺はいまだに全裸だ。確か人間社会では意味もなく裸体を晒すのは違法行為だった気がするので気を付けねば。
「気付いていたなら忠告くらいすればどうだ?」
近くまで飛んできて、部屋の中には転移で入ったから良かったものの、危うくルドの名誉が無駄に損なわれるところだった。
(申し訳ありません。ルド様との融合直後に全裸を肯定する思考を検知していましたので、わざとなのかと)
「……まぁ全裸が気持ちいいのは真理だ。それよりもこの時間だとシーラに会いに行くのは明日にしたほうがいいと思うーー」
「ルド君!?」
「か!? って、し、シーラか、本気でびびったぞ」
明かりが一切ついてない部屋の中にシーラがいた。床に正座した彼女は大きく目を見開いて俺を見ている。
「鍵はどうした?」
「おかえりルド君。私ずっと待ってたんだよ」
「……ここでか? まさか学校も行かずに?」
「うん。だって突然ルド君どっか行っちゃうから、私不安で」
「帰ると言っただろう。まったく、その様子だとろくに飯も食わなかったな。何か作ってやるから部屋に戻る前に食べていけ」
とは言ったものの、料理なんてあまり経験がない。だが俺は是非とも奥さんに手料理を振るってみたかった。そんな人間みたいなことをとてもしてみたかった。
(そんな時の私ですマスター)
なんと頼もしいやつだ。とか思っていたら何やら背中に柔らかな感触。
(シーラ様に抱きつかれております)
賢者の石が分かりきったことを説明する。
「どうした?」
それにしてもシーラの奴は俺の裸に全く反応しないな。おかげで全裸が普通だと錯覚してしまいそうだ。
「私、あのね、ルド君。その、私……部屋に戻りたくない。ルド君と一緒に居たいよ」
「別に帰りたくないならここにいてもいいぞ」
「本当に? ほ、本当にいいの?」
「ああ、お前は俺の奥さんだからな。一緒にいてもおかしくはないだろう」
「嬉しい。……あ、あのね、ルド君。私、い、今からでもいいよ?」
「? 何がだ?」
「だ、だ、だから、その、こ、子、子作りだよ。ルド君。し、したいって言ってたよね?」
「ああ、なるほど。それで俺が裸でも突っ込まなかったのか」
なんて効率的な奥さんなのだろうか。常識という枠組みを作り、しかしそれに囚われない人間の逞しさには感動させられる。
「う、ううん。普通にそれは不思議だったよ。なんでルド君裸なのーーきゃっ!?」
「それでは早速するとしよう」
俺はシーラをベッドに運んだ。子作りが全裸でやる行為なのは分かっていたから、ベッドの上に寝かせたシーラの服を脱がしていく。
「アヒャ!? ル、ルルル、ルド君!?」
「なんだ? 変な声出して」
「う、ううん。な、なんでもみゃいよ!?」
何故かは知らないが衣服を脱がすたびに奇声をあげるシーラ。俺はそんな彼女から無事に全ての衣服を脱がすことに成功した。これで全裸が二人。ますます全裸が自然に感じられる光景だった。しかしーー
「ど、ど、ど、うしたの? そ、そんなにジッと見て」
「いや、何でもない」
体を丸めるシーラを不安にさせない為にあえてそう答えた。だがここから先は俺にとって未知の領域。無論、子作りくらい知っているが自分とは無縁すぎて細かいところが分からない。人間は心身ともに非常に繊細だ。変なミスをしてシーラを傷つけないかと少し心配だった。
(そんな時の私です、マスター)
「なんと頼もしいやつだ」
「へっ!? な、何が? えっと、ど、どういう意味なのかな?」
「ああ、悪い。お前に言ったわけではないんだ。それよりも、いいな?」
「う、うん。き、きき、きて。ルド君」
そんなわけで俺は賢者の石という叡智の力を借りてつつがなく子作りを行なった。
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