月よりの使者
巨大宇宙船が、雪の平原に降り立った。
着替えたボクたちも、船を迎える。
入り口が開き、中からウサ耳の女性が出てきた。シズクちゃんをグッと大人にした感じの女性である。肌が密着したドレスを着ていた。
女性は、複数の護衛を連れている。
「はじめまして。シズクリスタの母です」
シズクちゃんのお母さんは、月の都のお妃様だという。
月にはウサギが住んでいると、聞いたことがある。
まさか、本当だったなんて。
お妃様は、ボクや仲間たち、ヴォーパルバニーのご家族に、心から感謝の言葉をくれる。
「あなた方がいなければ、シズクは凍えて死んでいたでしょう」
雪山で見つかった船は、宇宙ステーションだった。
当時小学生のシズクちゃんが寝泊まりする、修学旅行先だったらしい。
大勢の子どもたちが、ステーションによる地球への到着を楽しみにしていた。
「だから、あんなデカイプールがあったんだな」
オケアノスさんが、アゴをさする。
「はい。トレーニングルーム兼、娯楽施設だったのです」
しかし、隕石の激突により、ステーションはこの星に墜落した。
「その日、他の子たちは起きていたんです。が、私は泳ぎ疲れてすぐに寝ちゃいました。カプセルで一休みした途端、何かが激突した音と衝撃が」
「どうやら、その時のショックで記憶をなくしたみたいね」
シャンパさんのいうとおりだろう。
隕石の衝撃なのか、死体を見た恐怖と悲しみからか。とにかく、極度のストレス状態にあったのは間違いない。
シズクちゃんはどうにか生き延びる。雪の多い土地を歩いて消耗していたところを、ヴォーパルバニーさんが見つけた。そこからは、ボクたちが知っているとおりである。
「船に取り付けていた救難信号が何年振りかに作動したので、それを追ってここまで参りました。まさか、生きたシズクに会えるとは。皆様には、なんとお礼を言っていいか」
「家族一緒になれてよかったです」
「カズユキ様、ヴォーパルバニー族の方々、お礼を申し上げます。それで、申し上げにくいのですが」
お妃様は、シズクちゃんを月へ連れて帰りたいという。
やはり、という言葉を飲み込む。
「シズクは、王女という難しい立場にあります。我々に男子はおらず、跡継ぎがいません。とはいえ娘は死んだことになっていますから、世襲もなにもないだろうと。しかし、王家の立場もありまして」
シズクちゃんが生きていた以上、王家を継がせたいと。
誰も、反論できない。
「少し、時間をください。それまで、カズユキさんが見つけてきた秘湯などを楽しんでいただければと」
そうだよね。
いきなり「あなたはお姫様よ」なんて言われて、「はいそうですか」と受け入れるなんて難しいだろう。
「わかりました。娘とパートナーが探したという温泉の数々、試させていただきます。ですが、期日はそう長くありませんよ」
「心得ています」
シズクちゃんは、承諾した。
「カズユキさん。母を案内している間、距離を置いていただけますか? 戻るか留まるか、一人でよく考えたいんです」
ボクに伝えて、シズクちゃんは王妃と手を取り合う。
「……うん。わかった」
「ごめんなさい。行ってきます」
何も言えなかった。
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