ポンコツ王女は餓死寸前

ミコはロザリア人。

そう言われてもいまいちピンと来ないミコだったが、こうして自身の身体の変化を感じるとじょじょに自覚も芽生えてくる。



そして、一週間前のグリッスルの醜悪極まりない姿。怪物だった。

あのイケメン男子がこの世の気持ち悪い生き物のあらゆるキモチ悪い部分を集約したような姿。

到底この世のモノとは思えないグロ。

スロッビング・グリッスル。そう呼ばれる形態。



ひょっとして自分の本当の姿はあんなものなのか、と頭をよぎって吐き気がするミコ。

そしてそんな事実を否定したい想いがあった。

まだ何かの間違いであって欲しいという気持ち。



「私のほんとの姿もあんなキモチ悪いやつなの?」

「さあ……。それは私に聞かれてもわかりません。

私とミコ様は出会ってまだ一週間ですし、

本来なら18歳の誕生日と共に覚醒するはずが未だしないポンコツですし、わかるわけがありません」



誕生日とともに覚醒。

ロザリア王家の血を引く者の確定事項らしいこと。それぞれ年齢にバラつきはあるが誕生日に覚醒する。

連綿と続く王家の誰もが通過してきた真の王家たる証拠となる覚醒。

ミコは誕生日と言われて、そんなことは頭にも過ぎらずただ今までの幸せなバースデーパーティーを思い出す。



それにしても、

「最近私への当たり強くない? ポンコツって……」

「言われ慣れてるかと」

「いやまあよく言われるようなことだし私の人生だいたいなにをやっても良くて平均程度の……って悲しくなるわ!」

「お気にされてたのなら以後気をつけましょう」


「はあ……あっところでじゃあヒコもほんとの姿は違うの?」

「お兄様は……あのまんまです。お兄様はもはや完成されています。あのままで素敵なのです」

「ちがっそうゆうことじゃなくて」

「お兄様はロザリアの王とこの世界の人間のハーフですから。

人間の血の方が強いのでしょう。私達と何ら変わりません。もちろん私達よりもあらゆる面で高みにありますし、本物のうんこも出ます」




なるほど。

ヒコはハーフということもありロザリア人や王家の持つ能力はほとんど持っていない。

王家の特権でもあるポータルを創造する鍵のチカラも持っていない。

グリッスルのようにその身を変化させ莫大とも言える力を放出することもない。

ロザリア人特有の不死の肉体にしてもダウングレードされたようなモノだ。

せいぜい普通の人間より身体能力が高い、という程度しかない。



「ちなみにお兄様はそんなハーフ故にこの世界の食事でもロザリアの魂塊こんかいでも、どちらの栄養摂取方法でも可能です。素敵でしょ。

と言っても今は食物からしか栄養を摂取していませんが」


「魂抜いちゃったらそのヒト死んじゃうから?」

「死にません。いえ、1人から大量に搾取すれば致命的ですが、ロザリア人もそういったことはしません。

そもそもお兄様は街賊です。

仮にそのような事をしたとしてもそこに何の罪の意識も持ちません。そうゆう所が格好いいですから。

お兄様が魂塊からエネルギーを得ればそれこそ世界が変わります。この街も。

それほど莫大なチカラを得ることができます。本来のロザリア人、しかも王族としてのチカラを持つでしょう。

が、ハーフ故に人間側の肉体がついていけなくなります。

まあお兄様にとってはちょうど良いハンデ程度にしかなりませんが。

で、ロザリア人ですが、通常は大勢から、支障がない程度に少しずつ魂を搾取していきます。それが1番良い方法なのでしょう。

ロザリア人にとってはこの街、島は牧場みたいなものなのですから」



牧場。そう言われて重苦しい気分になるミコ。

だけど実際のところそうだ。



ロザリア人は自分達が生きるための栄養をこの島の住人から得ている。

住人が気づくこともなく毎日少しずつ生命エネルギーになる魂塊を抜き取っていく。

そのための装置がいたるところにある特殊なポータルだ。

だいたいは大勢が集まる場所のゲートや建物自体がソレになる。

そこで魂塊の元となる生命エネルギーと電気だけをポータルでしかるべき多元界たげんかいの世界へ転送する。

そこで精製し魂塊にしてロザリア人はそれを摂取する。

そういった流れ、もはや営みと呼べる流れが何十年、何百年も前から続いている。



「しかし……困りました」

「え? 何が?」



「ミコ様が食すエネルギー、つまり魂塊がここにはございません」

「……ああ、そう……え!?」


「このままではミコ様は栄養をとれず餓死してしまいます」


「うそ? ちょっやだ。餓死ってまた。この時代に餓死って! てかなんで半笑いなのよ!」

「この場合時代は関係なさそうですが……」


「やだよ、マジで。あとマジで半笑いで言うのやめて。それでその魂塊ってどこに売ってんの?」

「売ってません。少なくともこの世界に売ってるわけないでしょう」

半笑いを通り越して嘲笑うかのような口調で顎をあげるカノン。

凍りつくような目がそのサドっけを存分に漂わせる。



「ど、どうしたら……餓死やだ」





「奪うしかねえ」

抑揚のない声がカットイン。

その方向に目をやると……リビングからコーヒーカップ片手にヒコが現れる。

涼し気な表情。爽やかすら感じる。


が、言ってることは過激だ。奪う。

まあほしいモノは奪って手に入れるのがデフォルトになっている街賊らしいと言えばそうだけど。

これはこの街のモノを奪うって話じゃない。



この街にはないモノを奪うって話だ。

ヒコがニヤリと笑って不敵に立つ。つまりセカイを奪うということに等しい話だ。

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