エミの青春
サヨコも退院してくれて、なんとなく日常が戻ってきた感じ。でも以前と違う。そりゃ、もう公認なんてレベルじゃないカップルに大伴先輩となっちゃって、サヨコはもうベッタリ状態。休み時間になると飛んで行って大伴先輩の車椅子押してるもの。
大伴先輩も退院時より回復してるけど、あれだけの大怪我だから、サヨコはつききり状態でお世話してるんだ。お昼ご飯だって。
『あ~ん』
この状態だよ。でも誰も冷かそうとも思わないぐらい。風紀からすると良くないかもしれないけど、教師だって口を挟む気が起らないと思う。お姫様のために戦った勇者って見方もされるけど、あの二人の世界を絶対に邪魔しちゃいけないぐらいかな。それでもサヨコに言わせると、
「ミツ兄ちゃんはオシモの世話をさせてくれないんだよ。どうしてあんなに恥ずかしがるんだろう」
そりゃ、恥しいと思うし、絶対にさせないと思うけど、サヨコの心は恋人レベルじゃないね。あれはもう完全に貞淑な奥様状態。そりゃ、長年の夢が叶っただけでなく、大伴先輩の火傷するぐらい熱い心も知っちゃったから、わからなくもない。
二人が公認なのは学校だけでなく家でもそう。サヨコは大伴先輩を家まで送るだけでなく、そのまま上がり込んでお世話してるんだもの。それでね、大伴先輩のお母さんから、大伴家の味付けとか、大伴先輩の好きな食べ物を習ってるんだってさ。
ここまでになれば、サヨコは大伴家でも既に嫁状態で良さそう。料理だけじゃなく、洗濯や掃除までしてるんだよ、
「洗濯ってまさか下着まで?」
「当たり前でしょ」
さらにだよ、週末は泊り込みだって言うんだからビックリする他ないのよね。とりあえず大伴先輩の体はあの状態だから清い関係にならざるを得ないだろうけど、
「キスぐらいしたの」
「ミツ兄ちゃんは、前歯が治るまで待ってくれって」
それでね、サヨコは勉強も始めたんだ。これも変な言い方だけど、前は摩耶学園大への内部進学希望だったみたいだけど、大伴先輩が港都大志望だからサヨコも目指すってさ。エミも港都大志望だから一緒になれたら嬉しいけど。
「ところで怖くない」
「正直なところね」
サヨコはレイプ寸前まで追い込まれてたから、アレするのに恐怖心が残ってるのよね。まだ高一だから焦ってやる必要はないけど、
「でも、治ったらやるんでしょ」
「ミツ兄ちゃんが大学に入ってからって言うから、それからにする」
さすがは大伴先輩と思った。サヨコの心の傷を癒すには時間と大伴先輩の愛だもの。愛は十分だと思うけど、時期をとりあえず大学入学までとしたんだと思う。いや、大伴先輩ならサヨコの心の傷が癒されるまでいつまでも待つと思う。
でもこの調子ならサヨコが高校卒業したら婚約になっちゃいそう。そして大学卒業とともに結婚とか。まだ気が早いかもしれないけど、他が考えられないぐらいだものね。
そして二年に進級。サヨコと一緒だったのは嬉しかったけど、あれだけ見せつけられるとエミも彼氏が欲しくなっちゃった。さすがにサヨコみたいにいきなり嫁状態は行き過ぎだとしても、好きになれる人が出来て、エミも好きになって夢中になれる関係かな。
でもね、それより前にやりたい事がある。家の手伝いがラクになったのは良かったけど、その分のエネルギーが燻ってる気がするのよね。これを完全燃焼させる様なことをやりたくて仕方がないんだ。
それが青春だと思ってる。笑われるかもしれないけど、仲間と一つの目標に向かって努力して、そこで汗と涙を流すってやつ。とにかくエミは中学どころか小学校の時からシンデレラ状態だったから無縁だったのよね。
恋もね、そこに生れるのが理想というか夢。そう思って部活も考えてるんだけど、さすがにハードル高いよ。とくに体育会系は中学から続けてるのが多いから、初心者のエミじゃさすがに厳しそう。大伴先輩も、
「高二からじゃ、基礎トレーニングだけで下手すりゃ終わる」
じゃあ文化会も考えたけど、ブラバンとかコーラスはまず無理。音痴じゃないつもりだけど、楽譜も読めないものね。美術部も考えたけど、ちょっと合ってない気がする。そんな時に声をかけてくれたのが野川君。
野川君は豆狸の班研究の時に一緒だった人。あの時は研究場所に家まで提供してくれたんだ。あの時にもめたのが、誰が発表するかだった。コトリさんが想定問答集まで作ってくれたけど、あの班研究の難所は豆狸のツッコミへの対応なのよね。みんな尻込みしたんだけど、
「ボクがやります」
鮮やかだった。豆狸の質問には誰が答えてもイイのだけど、野川君が一人で片付けちゃったんだもの。野川君は普段はおとなしくて、物静かと言うよりクールな感じさえするけど、あそこまで出来るのだと感心したもの。
ただ班研究後は顔を合わせれば挨拶するぐらい。とくに親しくなるって感じじゃなかったのよね。だからちょっと驚いたけど、
「写真なら初心者でも始められます」
ちょっと意外な提案だった。というか摩耶学園に写真部があったのさえ知らなかったものね。でも妙に心が魅かれる感じがした。エミも写真のプロを知ってるのよ。アカネさんが撮った写真にはビックリさせられたもの。あんな写真が撮れたら嬉しいだろうな。いや撮ってみたい。
なにか運命みたいなものを感じる。そんな大げさじゃないけど、写真部に何か待ってる気がしてならないの。そう、そこにエミの青春がありそう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます