女神たちの夜話

「ユッキー、やっと出番やな」

「ホントだよ、主役のわたしを差し置いて話を進めるってなによ」

「だから主役はコトリだって」

「ちがうって、主役はわたし」


 とは言うものの小声で話しとる。シノブちゃんが伊集院さんと付き合って順調やったんよね。コトリもユッキーもゴールイン確実って見てたんや。見てたからこそ安心して冷かしてたんやけど、今日こそプロポーズだと思ったデートから帰ってきたら、ズタボロ。その夜から部屋に籠って泣き暮らしてるねんよ。


「世の中、思い通りにならんな」

「シノブちゃんを振る男がいるとは思わなかったわ」


 シノブちゃんは知らんけど、四座の女神の恋は脇目も振らず一直線。男に脇目さえ振らせないし、結婚してからも同様。あの異常な集中力を男に注ぎ尽くすって感じやねん。そんな四座の女神の恋が実らなかったのが今でも信じられへんぐらい。


「しばらくは放っておかんとしゃ~ないな」

「時間しか癒しようがないしね」


 そやけど三十階では笑い声どころか、大きな声も出されへんし、物音一つ立てるのもピリピリするぐらい。シノブちゃんも辛いやろけど、こっちもかなりしんどいわ。


「エミちゃんとこどうやったの」

「コトリが指導したんやで。バッチリや」


 コトリの読み通りの展開になってくれたみたいで、エエ発表になったみたいや。それにしても懐かしかった。明文館の時の班研究思い出してたもんな。


「でもあの時にはコトリは参加してなかったでしょ」

「そうやねんけど、歴史の面白さを学んだし、カズ君と知り合うキッカケにもなったやんか。あの四人の中で、一人でも歴史好きになってくれたらコトリは満足や」

「それもそうね」


 高校生が覚えるには大変やったと思うけどよく付いてきたくれたし、頑張ったと思うで。


「ピクニックも楽しかったみたいね」

「あんだけ感謝してくれたらサプライズやった甲斐はあったな」


 エミちゃんが服を気にしてたんはわかっとったんや。そやからユッキーもプレゼントしてあげようって話になってんやけど、問題はどうするかやってん。小林社長も奥さんも理由なく高価なプレゼントは絶対に受け取らなん人やからな。


「だからああしたんだけど、あのワゴンはアイデアだったね」


 最初は駅のトイレで着替えてもらおうかと思ててんけど、考えたら服だけやなく髪だって、化粧だってしたいやろって話になってんよね。お年頃だし。そやから、それが出来るワゴンを見つけ出してんや。


「思た通りやったな」

「当たり前よ。足りなければ足すつもりだったけど、全然必要なかったもの」


 コトリが想像した以上やった。


「エミちゃんの学校でのあだ名を知ってる?」

「シンデレラやてな」

「だったら、あのワゴンがかぼちゃの馬車で」

「コトリとユッキーが魔法使い」


 魔法使いやのうて女神やねんけど、人から見たら区別つかんか。でもエエ子やで。コトリはもちろんやけど、ユッキーもどんだけ目をかけてるかや。


「やったるん」

「そのつもりだけど、こればっかりは社長命令って訳にはいかないし」

「そうやなぁ、あれはちゃんと筋通さんとイカンし」

「でも、なんとかしてあげるつもり」


 それにしても、もうちょっとエミちゃんに余裕をあげたいよな。そりゃ、従業員じゃないから休みなしで働いてもエエようなもんやけど、高校生やで。あのピクニックが小学校から久しぶりの休日はやり過ぎの気がする。


「でもダメよ」

「わかってるって。でもなんかあったら協力するで」

「もちろんよ。たとえそれが女神の仕事であっても協力するよ」

「つうか、これ自体が女神の仕事になってないか」

「それは言える」


 実はって程やあらへんけど、コトリもユッキーもなんか予感してるんよ。ほいでもって、この予感はまず外れることがないんよね。


「ユッキー見えるか?」

「はっきりは見えないけど、なにかあるよ」

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