第132話 王都騒乱②

ラージャグリハ王国の王都マガダに魔法陣から転移してきた八部衆、フェーリスとルプス。そして、それを迎え入れるカニス。


フェーリスは攻撃をやめさせようとカニスへ説得を試みるが、瞬間移動の能力を持つカニスに敗北してしまった。


第一陣で転移してきた魔獣を引き連れ、狼男カニスは騎士団と交戦し、大狼ルプスは、騎士団長ロドデンドロンのニオイを覚えて追跡を開始した。


転移魔法の魔法陣が設置された屋敷を包囲した騎士団だったが、精鋭を全て魔王討伐連合軍に集めてしまった結果、彼らは烏合の衆と言っても過言ではなかった。


集団戦闘で各個撃破しようにも、その実力すらない者たちが多数だった。したがって、騎士による死体の山が出来上がることになってしまった。


「大したことはねぇなぁ!!王国騎士団もよ!!これなら、オレたち第一陣だけで、王都を制圧しちまえるんじゃね!?」


開戦から20分もしないうちに周辺の騎士団を壊滅させたカニスと魔獣は、街中へと侵攻を開始した。


既に戒厳令が敷かれていたことと、突如立ち上った不思議な光に民衆が驚いたことにより、ほとんどの住民は家の中に隠れていた。城下町を歩いているのは、それでも物珍しさで見物にやってきた野次馬と、何があっても飲みに出かけたい酔っぱらいだけだった。


危機感の無かった彼らは、憐れなことだが、突然、目の前に出現した漆黒のモンスター群に襲われることとなった。


あちらこちらで阿鼻叫喚の様相を呈する王都。


だが、それも無理からぬことだった。凶悪な魔獣の侵入を許す事態など、王国が建国されて以来、初めてのことだ。前代未聞。全く想定外の大事件なのである。


ところが、勝利の連続に酔いしれているカニスに予想外の反撃が来た。


魔獣たちが、謎の攻撃を受けはじめたのだ。


ドッゴォォォン!!!

 ズッパァァァンンッ!!!


シュゴゴゴゴォォォッ!!!

 ドシュドシュドシュッ!!グシャァァッ!!


巨大な爆炎。鋭利な水の刃。ピンポイント竜巻。そして、地面を隆起させた何本ものヤリ。


一つ一つが上位魔法であり、魔獣の急所に向かって正確に狙われた魔法は、どれも一撃で魔獣を絶命させていった。火、水、風、地、それぞれの精霊魔法の最上級が惜しげも無く使われているのだ。


「なんだなんだぁ!?これは!?どこからこんな大量の魔法が撃ち込まれているんっ……!!!」


次々と魔獣が倒されるのを不思議そうに観察するカニスだったが、独り言の愚痴を最後まで言い切る前に息を呑んだ。


突如として、目の前に魔法陣が浮かび上がり、発動の光を放ったのだ。


「だぁぁぁぁっっっっ!!!!」


反射的に【影狼望月シャドウ・ムーン】を発動し、自身の影の位置に瞬間移動するカニス。時を同じくして、彼の頭部が今まで存在していた箇所が大爆発を起こした。


ドッカァァァァァンンッ!!!


カニスは冷や汗をかきながら、10メートルほど離れた位置でそれを見つめる。


「あっ!あっぶねぇっ!!!目の前に直接、魔法陣だとぉ!?た、確か!魔法の遠隔発動ってヤツだ!!瞬間移動できなかったら、今ので死んでたかもしれねぇ!!ちっきしょう!!どこだ!!どこからこんな器用なことをやってくるんだ!!!」


近くに魔導師かシューターがいると睨み、カニスは周辺に目を配った。しかし、逃げ惑う人々と生き残っている魔獣がいるだけで、攻撃を仕掛けた人物は発見できなかった。


「どうなってんだ!?近くにいないってことは、遠くから狙撃してんのか!?それでも、敵は少なくともオレを見ることのできる位置にいるはずだが……」


そう言って、カニスは遠方にまで警戒心を強めた。狙撃されていると推測すると、その敵は高い位置にいるはずだと考えて集中する。


すると、宮殿内にある塔の上から、自分に向けられた視線を感じた。そこに注意を凝らすと、かすかに人影が見える。美しい女性の姿がそこにあった。


「あ、あんなところから狙い撃ってきてるだとぉぉっ!?」


カニスは、慌てて近くにあった家の陰に隠れ、そこから顔を出して狙撃手の正体を見極めた。


闇夜に紛れるために黒を基調としたローブに身を包み、頭に被ったヴェールからはピンク色の綺麗な髪がわずかに見え隠れする。


まるでマジシャンのように、両手の指と指の間に挟み持った、合計8個の宝珠だけが不気味に輝き、彼女の美貌を照らしていた。


彼女こそ、大賢者の血を受け継ぎ、王国一の魔導師と称される王女。ラクティフローラであった。


「あれは!確か、第一王女のラクティフローラだ!!とんでもねぇ姫さんがいたもんだなっ!!完全にダークホースじゃねぇか!!!」


ラクティフローラの宝珠が輝くたび、近くで上位魔法が発動し、魔獣が撃破される。彼女からは3キロ以上、離れているにも関わらず、その攻撃はあまりにも正確だった。


「くそっ!なんてこった!見つからねぇようにこっそり近づくしかねぇ!!」


カニスは物陰に隠れながら、宮殿に向かって移動を開始した。



そして、その宮殿で防備に当たる第一王女は、マナを使い果たした宝珠を持って、毅然と立っていた。腰のベルトにぶら下げたバッグを開けると、そこには大量の宝珠が詰め込まれている。


「こんなこともあろうかと!(本当は思ってないけど!)研究素材と称して、大臣を騙しながら、買い集めておいた上位魔法の宝珠!全部で256個!!今の私は、王室の財力に物を言わせた、歩く武器庫よ!!マナが枯れるまで、惜しみなく使っていくわ!!」


と、大宣言するする王女の傍らには、一人の剣士が控えている。


「さすがでございます。姫様。これほどの精度の遠隔魔法狙撃。当代随一のシューターと言われる”闇の千里眼”も舌を巻くことでしょう」


護衛として付き従っている侍女長のフリージアだ。


彼女もまた、戦闘用の出で立ちとなり、侍女としてのスカート姿から、剣を腰に帯びたパンツスタイルになっていた。


全体的に青が多い服装に、群青色の髪を露わにし、ポニーテールでまとめた姿は、騎士顔負けの凛々しい美剣士であった。


「私は、ピアニーみたいに強力な上位魔法を使うことはできないけど、それは宝珠で補えばいいことよ!お爺様は、宝珠を嫌われていたけれど、今はそんな時代じゃないわ!宝珠の魔法陣を遠隔地に出現させる裏技!かなり計算が難しいけど、私にとってはどうってことない!そして、遠方の敵の気配を捉えるコツをフリージアに教わった私は、数キロメートル先も狙い撃てる、無敵のスナイパーなのよ!!」


ラクティフローラが高らかに宣言するとおり、彼女は王国随一の狙撃手だった。


宝珠を発動する際、魔法陣の出現する位置をコントロールし、魔法を遠隔発動する技術は、白金蓮も発見して実践していたことだ。魔法研究の第一人者として、王国の精霊神殿に通い、日々探求している彼女がそれに気づかないはずはなかった。


また、宝珠の遠隔発動を正確に行うには、複雑な計算を必要とするのだが、理数系の頭脳を持つ彼女にとって、それは苦ではなかった。


実は彼女は、白金蓮ほどの論理的思考能力は無いものの、単純な暗算能力は彼を遥かに上回っていた。ゆえに白金蓮はシステムを構築するまで、遠隔発動の限界を数百メートルとしていたが、ラクティフローラは自力の計算で数キロメートルを可能としていたのだ。稀に見る優秀な理系女子である。


白金蓮とラクティフローラの両名は、様々な不運さえなければ、非常に意気投合できる男女だったはずなのだ。


ちなみに余談だが、世の中では、理数系イコール計算が速い、と思われている節がある。しかし、実際に理数系の学部や職業を選ぶ人間は、論理的思考が得意なだけで、意外と数値計算は苦手だったりする。


白金蓮もまたこのタイプで、何かあるといつも計算機に頼る人間だった。細君である百合華はそれをよく不思議がり、「え?蓮くんって計算機使う人なの?」と驚いたそうだ。それに蓮は平然と答えたという。「いちいち計算するの、めんどいじゃん」と。



「ところで姫様、先程の魔族らしき影は、その後、どうなりましたか?」


カニスの動向が気になるフリージアは、それを王女に尋ねた。


「そうなのよ、フリージア!さっきの魔族、いきなりパッと移動して避けられたわ!あれって何!?」


「おそらく魔族固有の魔法能力だと思われます。ヤツらは、1体1体が、特殊な能力を持っているのです」


「何それ。こわっ!あんな移動をされたら、私でもどうしようもないわよ!」


「ですが、そのお陰で敵の能力の一端が見えました。もし近づかれた場合には、私が対策を講じましょう」


「わかったわ。でも、フリージ……」


何かを言おうとするラクティフローラだったが、突如、彼女の背後に漆黒の虫型モンスターが現れた。他の魔獣と比べるとそこまで大きくなく、人の半分くらいの体長しかない。蠅の魔獣だった。


ブーーーーン……


背中の羽を小刻みに震わせ、空中で静止している。高速で飛行してきた小型の魔獣だったため、まだ実戦に慣れていないラクティフローラの気配感知から漏れてしまったのだ。


「えっ!?」


振り返ったラクティフローラは、魔獣の不気味な姿に絶句する。


その瞬間、超スピードで蠅が彼女に突進してきた。

――と思われた時、既に魔獣は、一刀両断にされていた。


キンッ……


いつの間にか蠅の向こう側に移動し、横薙ぎに斬り払った剣を鞘に戻すフリージア。


彼女は、刹那のうちにラクティフローラの背後に回り、蠅の魔獣を真っ二つにした勢いで、その向こう側に着地したのだ。蠅の魔獣は、まるで斬られたことにすら気づかなかったかのように無言で地面に落ちた。


「さすがね!フリージア!!女性でありながら、元ゴールドプレートハンター!俊足の剣で、相手に気づかせる暇も与えず仕留めることから、”青き鎮魂歌”の『ブルーベル』と呼ばれただけあるわ!」


ラクティフローラが称賛するとおり、フリージアはレベル42の凄腕剣士だった。


”女剣侠”ローズと違い、女性であることを隠していたため、その存在が彼女ほど噂に上ることはなかったが、誰ともパーティーを組まずに数々の武勇伝を残した孤高のハンターだったのである。


昔の名で呼ばれたフリージアは、照れ笑いした。


「姫様、ハンター時代のその名は、あまりおっしゃらないでください。今となっては、少々、恥ずかしい感じがしますので……」


「そう?私はカッコいいと思うけど?」


「本名では、女であることがバレてしまうので、『ブルーベル』と登録したのです。あの頃は、今以上に女性ハンターが忌み嫌われておりましたから」


「お陰でフリージアが元ハンターということが誰にも知られずに済んでるものね。……それにしても、これ…………うひゃぁ……こんな気持ち悪いモノ、よく斬ってくれたわ。本当にありがとう」


蠅の死骸を見ながら、ため息をつく王女に侍女は決意を述べる。


「姫様のお美しいお体に、このように汚れたモノを近づけさせるわけには参りません。姫様が撃ち漏らした魔獣は、わたくしが全て追い払います。どうか安心して、遠隔魔法狙撃に集中なさってください」


改めて安心感を抱いたラクティフローラは、先程、中断されてしまった話を再開することにした。


「ありがとう。でもフリージア、このままこんなことを続けててもジリ貧よ。一刻も早く転移魔法そのものを潰さなければ、どんどん敵が送り込まれてくるでしょ。さっきの光の場所、わかる?」


「申し訳ありません。方角はわかるのですが、正確な位置までは……」


「私も同じ。さっきは地上から光を見たから、方角しかわからない。騎士団もバラバラになっちゃったから、動きを見てもアテにできない。この高さにいれば、もう一度、転移が行われた時に位置を特定できるけど、できればその前に叩きたいわ」


「では、姫様、僭越ですが、これでいかがでしょうか」


「え?きゃっ!」


ラクティフローラが聞き返す間もなく、フリージアは彼女を抱きかかえた。

お姫様抱っこである。


「姫様を抱えて、わたくしが走ります。屋根伝いに行けば、魔法陣を見つけることも容易いでしょう」


「ちょっと複雑な気持ちだけど、これしかないわね!お願いするわ!」


「かしこまりました!」


鍛え抜かれた元ゴールドプレートハンターであるフリージアは、女性一人を抱きかかえたまま、屋根から屋根へ跳躍移動することも容易だった。塔から階下の屋根に飛び降り、屋根伝いに走り出す。


ラクティフローラは、抱きかかえられたままの状態で、遠方に発見する魔獣を次々と撃破して行った。



少しずつ近づきながら、彼女たちの様子を見ていたカニスは、悔しそうに呟いた。


「くそぉ……かなり珍しい蠅の魔獣なら、気づかれないかと思ったが、護衛の女も強ぇじゃねぇか……やっぱオレが行くしかねぇな……ん?姫さんが動いた?どこに向かってるんだ?」


王女たちが移動を開始したことに疑問を持った彼は、その方角に何があるのかを理解すると、愕然とした声を上げた。


「うぉぉぉぉいい!!ちょっと待て!!まさか魔法陣を狙ってるのか!?冗談じゃねぇぞ!!!アレが破壊されたら、オレたち、ここに孤立しちまうじゃねぇかよ!」


慌てたカニスは、ラクティフローラの追跡を急ぐことにした。




さて、王女と侍女がこのように奮闘している頃、騎士団を指揮するロドデンドロンは、騎士たちの不甲斐ない働きぶりに落胆していた。


「なんということだ!いくら精鋭が不在とはいえ、これでは騎士団の名折れだ!」


宮殿の警護に当たる彼はつい愚痴をこぼしたが、その間にも宮殿入口には次々と魔獣が押し寄せる。自ら率いる近衛部隊に指示を出しつつ、それに応戦し、集団で包囲して1体ずつ撃破することに彼は忙しかった。


「くそっ!1体1体が強い!!これでは王都が蹂躙される一方だ!!」


焦燥感に駆られる彼に、近衛部隊の大隊長が進言した。


「騎士団長、我々も城下町に出撃した方がよろしいのでは?」


「いや、それはできない。民衆を救うことは大事だが、近衛部隊は王家をお守りするのが役目だ。持ち場を離れることはできん」


ロドデンドロンも歯がゆい気持ちだが、騎士団の使命から、そう決断することしかできない。そうしているところに街中から爆発音や轟音が鳴り響き、魔獣の断末魔までかすかに聞こえるようになった。


「なんだ?何が起きている?」


疑問に思うロドデンドロンのもとに伝令が走ってきた。


「ご報告します!現在、宮殿西の塔より、ラクティフローラ殿下が、遠隔魔法狙撃を行われております!城下町の魔獣が次々と撃破されている模様です!」


「なんと!よもや女性たる王女殿下に助けられてしまうとは!!」


報告内容に愕然とする騎士団長。


彼は、かつて白金蓮に対し、女性を戦いの前面に出すことは男としての恥だ、という趣旨のことを言った。その言葉が、今、自分自身に跳ね返ってきたのだ。


「どうしますか?騎士団長!!」


部下から指示を要求され、考え込むロドデンドロン。騎士団が第一に守護すべき王族が、戦いの前線に出て騎士団以上の働きをしているという。しかも、それが女性であるのだ。


それを恥と考え、直ちに王女を避難させることは簡単だ。だが、それでは城下町は再び魔獣に蹂躙されてしまう。彼の家族や知人も多く生活しているのだ。


今は、王女こそ、最も頼りになる戦力。

それを認めざるを得なかった。


この時、ロドデンドロンは白金蓮との会見を思い出した。そして、白金百合華を勇者だと主張する彼に最後の質問をした時、彼が言い放ったセリフが頭の中で蘇った。


「妻こそが勇者であり、僕はただの従者です。僕は、妻のサポートをしていくだけです」


それを男として最低の言葉と受け取ったロドデンドロンだったが、今、その意味をハッキリと理解した。


騎士団長は、先程の大隊長に命じた。


「近衛部隊より、一個小隊を王女のもとに差し向けよ!今、ラクティフローラ殿下こそが、戦略的にも最重要人物である!!命を賭してお守りし、殿下の戦いを全力でサポートせよ!!」


「了解しました!!」


命令を受け、王女のもとに50名ほどで構成される一個小隊が向かうこととなった。彼らは西の塔に到着後、既に王女が移動を開始したことを知り、慌ててそれを追いかけて行くことになる。


そして、宮殿の入口を守るロドデンドロンには、もう一つの影が迫っていた。突如、上空から攻撃の気配を感じた彼は、部下に向かって叫んだ。


「何か来る!!全員、散れ!!」


彼の発言と同時に、満月を背にした巨大な狼が、狼らしくなく、右の拳を突き出して上から叩いてきた。


ドゴォォンッ!!!


ギリギリでそれを躱したロドデンドロンだったが、代わりにパンチを受けた地面が抉れ、自分が今まで立っていた場所に直径3メートルほどのクレーターが出来上がってしまった。


その勢いによる衝撃波と土埃で、部下の騎士たちは後ろに飛ばされてしまう。ただ一人、それに耐えたロドデンドロンは、突然の来訪者に向けて剣を構えながら、身震いした。


(なんだ!!このモンスターは!?パワーもスピードも尋常ではない!!これほどの存在、見たこともないぞ!!)


一撃目を躱された大狼、ルプスは月に向かって吠えた。


「アゥオオオオォォォォンンンンッ!!!!」


そして、2本の足で立ち、拳を構えるように立ったルプスの姿を見て、ロドデンドロンは確信した。


(違う!!こいつは魔族だ!!!ベイローレルから報告のあった『八部衆』の1体!ルプスというヤツに違いない!!情報どおりなら、レベル49の強敵だ!!!)


対するロドデンドロンはレベル45。王国内では、”勇者”となったベイローレルに次ぐ剣の使い手だが、満月の光によってさらにパワーアップしているルプスとは互角に渡り合うのも難しいだろう。


彼は、一対一の戦いを避けるため、部下に号令をかけた。


「全員、距離を取ってヤツを囲め!!!こいつは魔族だ!!!」


一度は吹き飛ばされた部下たちだったが、立ち直って円を描くようにルプスを囲む。包囲されたルプスは、顔色一つ変えず、ただロドデンドロンを見つめるだけだ。


「グルルルルアッ、ガオン!!(お前、命令で殺す!!)」


コミュニケーションが取りづらい代わり、命令に対して非常に忠実なルプスは、標的以外には目もくれない魔族だった。


ここまで、純粋にロドデンドロンだけを追いかけてきたため、無駄な戦闘を一切していない。ゆえにラクティフローラに気づかれて遠隔狙撃されることもなく、ここに到着したのだ。


ただし、生まれて初めてやってきた王都の煌びやかな街並みに心を奪われてしまったため、しばらく見物をしていた結果、追跡が遅くなってしまったことは、秘密である。


そのルプスが、叫びながら一直線に突撃してきた。

凄まじい勢いに息を呑むロドデンドロン。


(これは!避ける避けない、というレベルじゃないぞ!!)


回避行動すらままならないスピードを前にして、彼はそれを受けて立つ覚悟を決めた。超スピードに乗った超パワーの拳が、騎士団長に炸裂する。



ズガン!!!



次の瞬間、ルプスの一撃によって跡形もなく砕け散ったのは、ロドデンドロンの右側に配置されていた石造りの庭具だった。


「……?……??」


渾身の力を込めた正確な一撃だったにも関わらず、攻撃が逸れてしまったことに理解が追いつかないルプス。


素早く背後に回ったロドデンドロンは、大狼の実力を警戒して無理に反撃することはない。ただ一言、不敵に笑って問うだけだった。


「さぁ、巨大な狼よ。お前に私の剣技が見破れるかな?」

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