第5話

 監視対象の2人は、事あるごとに細かな対立を繰り返し、とうとう険悪なムードになってしまっている。

 2人の名前は黒田と桃井、どちらも男子生徒だからロマンス的な展開は予想も期待もしてないんだけど、喧嘩も求めてなかったんだけどな……。

 火、風、地、水をどんな名前にする?水からスライムが誕生したから属性名と種族をどうする?桃井は後々ややこしくならないようにと慣れ親しんだ地球の呼び名をそのまま適用しようとし、黒田はそれを否定する。

 わかるんだけどさ……灰色の世界が1つもないって事は、地球も灰色の世界じゃないんだ。それなのに地球と同じにしてたら結果的に灰色の世界は作れない……理屈はすごく良く分かる。

 だけど、自分で気づいていないらしいんだ。

 黒と白の属性は、所詮は2つのグループによって起こされる戦争の枠組みなんだって事。

 魔族と人族が存在していようとも、そこに対立がなければ灰色なんだよ。

 つまり、桃井とこうやって意見の対立をしてる時点で、そこはもう灰色の世界でも何でもない。そうやって対立している様子を見せられている今の所唯一の生命体であるスライムは、知恵が高くなるにつれてどちらかの味方をするようになってしまうだろう……スライムが2匹になって、1匹目と違う方の味方をすれば、それだけで争いが始まる。

 そうなった時、世界を灰色の戻すには話し合いによる100%の和解しかない。

 100%の和解なんてあり得るのか?

 後、黒田は延々と桃井を百瀬と呼んでいる事も気になる。

 桃井も呼ばれる度に強張るくせに訂正しないし、黒田は地球と同じになることを嫌うがあまり喧嘩腰だ。

 「はぁ……」

 管理者は、対象者に対して何か助言をしたり、こちらの存在を示したり、メッセージ的なものを届けたりする事も出来ずに、ただ見守って記録を取る事だけしか出来ない。

 「大丈夫ですか?休憩ならいつでもしてください」

 カロンは他の24人を担当してるんだから忙しい筈なのに、ニッコリと笑みを称えながら俺を気遣う余裕があるのか。

 「少しやきもきしてるだけ」

 せめて2人のいる世界に娯楽的なものがあれば良いんだけど、誕生したばかりのあの世界には娯楽どころか生物もスライム1匹しか存在していない。

 「……彼らとは友人だったのかい?」

 友人……ではなかったかな?

 朝に顔を合わせたら挨拶する程度だったけど、ん?黒田だっけ?桃井とだっけ?あれ?どんな風に挨拶してたっけ?

 ん?

 もしかして、俺達はここに召喚されてから思いの外結構な時間を過ごしているんじゃないだろうか?

 日常的な朝の挨拶を忘れるほどには……。

 いやいやまさかな、俺は死んでる訳だから記憶とかが曖昧になってるだけだろう。

 「……まぁ、友人ではない、かな」

 でもさ、喧嘩してる様子を見てるとやっぱり助言っぽい事をしたくなるんだよ。やきもきするし、間に割って入って仲直りとかさせたくなる。

 「彼らの所に行きたいですか?」

 え?

 真意を探ろうとして見つめたカロンの顔はちょっとだけ寂しそうだった。

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