第27話
姉の彼氏は、僕のストーカーだった。
それに気が付くと、僕はより深い恐怖に襲われた。
自分がストーキングされていたことに、ではない。
このストーカーは僕を狙っていて、姉の彼氏になってなおかつそれを姉に聞かれている、ということにだ。
ストーカーがいるってだけでも十分な恐怖ではあるんだけれども、僕はそれよりも姉にこのことが全てバレている、という事実が一番怖かった。
上の兄弟がいる子供なんてそんなものだよ。一番怖いものも、嫌いな人も自分の姉だったからね。
そして、僕が、現状を把握している間も姉の彼氏改め僕のストーカーは話を続けていた。
「君は僕に向かって、石を蹴飛ばそうとして、でも、届かずに二メートルぐらい前のところで止まったんだ。覚えてないかい?あれから、君の姿が頭から離れなくて、ずっとずっとその石をもって歩いていたんだ……今も持ってるよ?ほら、この石さ。思い出しただろ?僕は君のくれた石をこの半年間肌身離さず持ち歩いていたんだ。この石を見ながら君を思い出して、何度自慰にふけったことか……この石を白く穢す瞬間が最高に気持ちがいいんだよ。まあ、君みたいな小さな子には、わからないよな。そうしたら、なんだか君に似たような……ああ、もちろん君のほうが可憐だし、美しいよ?勘違いはしないでくれ。君には数段劣るけれど、君に似た子が周りをうろついていてね。もしかしてと思って家に入って、十四回目に君にまた出会えた時は運命という言葉をついに信じることになったね。僕は神に感謝してるんだ。君という、運命の相手にこうして巡り合えた事実を。だから君のお姉ちゃんにはよくこういってあげてるんだ。君は僕の恋のキューピットだよ、運命なんだよ……ってね?面白いだろ?」
それから、ずっと一人でこの部屋の内装のことだとか、僕の可愛さについてだとかずっとしゃべっていた。
けれど僕は、何も言いだすことが出来ず、この後の未来に来るであろう姉からの暴虐に身を震わせていた。
そして、ストーカーはある程度一人でずっとしゃべっていると、満足したのかこういって部屋から出た。
「まだまだ、満足したりないけど、ここで君とまた会うために今日は帰るね。バイバイ?」
そして、またずかずかと、僕の部屋から出ていった。
姉の部屋にストーカーが入ると、「今日はもう帰って!」という姉の声が聞こえた。
やっぱり、聞こえていた。絶望した。
廊下をどたどたと乱暴に歩く音が聞こえる。僕の心臓がバクバク言っている音も。
どうしよう、どうしようと回り続けるばかりで思考が前に進まない頭は、母親がいつの間にか帰ってきて部屋に晩御飯ができたのを伝えてくれるまで動き続けていた。
晩御飯が来た、ということは姉はそれまで僕のところには来なかったということだ。
怒りが、来なかったのだろうか。怖い、怖い。おびえながら僕はリビングに向かった。
姉は静かだった。
静かすぎた。
いつもは明るく両親と話しているのに、今日は一言も話さず、僕のことをずっと、ずっと縫い付けるようににらんでいた。
目を、合わせられない。
ごはんなのに、大好きだったハンバーグなのに、味は何にも感じなかった。
しまいには箸を持つ手が、震えたりもした。親にばれないように、頑張って収めたけどね。
姉は、ご飯を食べている間ずっと、僕のことを見ていた。
生きてる心地がしないってのはこのことを言うんだなって、そのときに思った。
晩御飯が終わって部屋に戻って、お風呂に入って歯を磨いて、布団に入って。
その日は何もされなかった。
それが逆に恐ろしく感じたけど。
次の日の朝、姉はいつものように僕より先に家から出ていった。
僕の小学校より姉の中学校のほうが遠いのだ。
それから、少しだけ危機が去ったような、心が落ち着ける時間になった。
恐ろしい姉も、今はここにはいない。
落ち着いて学校へと向かった。
僕の学校までの道のりには横断歩道がある。
だから、そこで僕は信号が青……緑?になるのを待っていた。
そして、そこに姉は現れた。
少し離れた物陰で隠れて僕のことを待ち伏せしていたのだ。
なんで?先に出たはずでは?疑問はたくさん出てきたが、それよりも大きく心の中で膨れ上がったのは、やっぱり恐怖の感情だった。
体が震え始めた。
姉は、僕に近づいて怒鳴りながら続けた。
「なんで、初めての彼氏なのに、あんたが取るのっ!?」
「ごめん、なさい、ごめんなさぃ」
「あんたの顔なんて見たくもない!男のくせに女の子の恰好なんてしてっ!」
「ごめんなさい……」
瞳孔が開き狂気の走っている目。怒りで震えた拳。口角だけが釣り上がった不自然な顔。
そう、
ここが、僕と
姉は、僕に走りながら近づいてきた。僕は恐ろしくなって逃げようとした。
しかし、そこは男女といえど小学生と中学生。僕はすぐに追いつかれて、背中を、加速の力も加えて思いっきり押された。
「絶対に、絶対に許さないぃぃぃぃっっ!!」
背中を押された僕は、もちろん前に突っ込む形になった。
赤信号の、車が無造作に通る道路のど真ん中に。
そこで僕が景色は、水色のワゴン車が、ものすごいスピードでむかってきている、というものだった。
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