第24話
「ここが妹の部屋だ」
「うん」
薬屋の妹――テイカという名前らしい――の部屋の前についた。
やっぱり、知らない人とはじめて会うっていうのは胸がドキドキする。
どんな人なのだろうか、嫌われやしないだろうか、みたいな。
懸念が沢山浮かんでしまうのだ。
まあ、薬屋と同じ血なんだから十中八九性格が悪かったりすることなんて無いと思うが、もしそうだとしても新しく人とか変わるのはひどくエネルギーがいるのだ。
特に異性との対面なんて……って、え、異性?
あああああ、そうかそうかそうだったっ!!!!妹って女だ!!!!
え、どうしようもしかして近づいたら離れようとしてベットから落ちたりされるのか?なんて悲しい結末っ!?
待て待て、さすがにそんなことはされないだろう。
今までの俺を避けてきた女性たちの様子を見た感じ全員無意識に動いていた。そう、動ける状態だったからこそ無意識に離れる、という行動ができていたのだ。
しかし今回のパターンはどうだろうか。
ベットで寝たきりの状態、つまるところ動けない状態と言い換えてもいいだろう。その場合は、無意識に動かないようにする、ということができない。
で、あれば?
もしかして??
覚えてる限り初の???
女性に近づくチャンスっっ!!!!
俺の時代、キターーーーー!!!!!
ううう、そう考えるとうずうずしてきたぞ……苦節数年余り、全く女性に近づけない日々に終止符が打たれるというのだから。
今からにやにやが止まらん!!
「お、おい大丈夫か?なんか、口がぷるぷるしてるし、ってか全体的に振動してるし」
「もんだい、ない。人生史上、最っ高」
「それならいいんだけど……病み上がりだし、無理すんなよ?」
心配してくれてる薬屋には悪いが全くのモーマンタイだ。
この振動はただの武者震い。
サムライバイブレーションだ。なんだそれかっこいい。
うーむ、それにしても感慨深い。今まで、女性に近づけないことでどれほど悩んだことか。
悩みすぎて性別を女性にしたぐらいだ。
よくよく考えたら頭おかしいアピールの仕方だな……
それがようやく、ようやく近づける日が来るとは……!
感動だな……っ!
意気揚々とドアを開け、中を見た。
少し蝶番がきぃ、となく音がやむと、小さな部屋と、真ん中にあるベットと、そのうえで横たわる女の子。
彼女が、テイカ――薬屋の妹にして、俺が初めて近づくことになる女の子か。
黒い髪に、イチゴみたいな色の赤め。体調が悪いからなのか、頬の血色はあまりよくないが、とんでもない美少女だった。
ごくり、と喉を鳴らし、ドアを越え、はじめの一歩を踏み出そうとして……いやいや、待て待て。
いきなり近づかれても怖いだろう。
まずは挨拶だ。そうだろう?出来る男は挨拶を欠かさないってね。
やっぱり初めましてかな?言うとしたら。
さぁて大きく息を吸い大きく背伸びのうんど……ではなく初めましての挨拶!
「っ……!」
あれ?
話そうとしたら、言葉が詰まった。
俺も緊張しているということだろうか。
挨拶が無理ならば仕方ない。とりあえず接近しなければ。
ベットに近づこうと足を動かし……動かそうとした。
足は、動かなかった。
しかもよく見てみたら勝手に震えていた。
今までのような武者震いとは、違う。
何かが、明確に違うことを俺は心のどこかで理解していた。
何故?初めて女の人に近づける機会ができて緊張してるのか?動けよ、動けよ俺の足っ!
「お、おい。大丈夫か?シルヴァ」
「だい、じょうぶ。大丈夫なのに、足が……足が動かない」
「そんなに不安なら、背中押してやろうか?」
困った時は物理さんがやっぱり役に立つのだ。
ここは背中を押してもらって物理的に近づかなければ。
「おね、がい」
「了解、よっと」
「っ!!」
薬屋は俺の背中を押し、俺は背中に衝撃を感じて、前に倒れ込むように倒れる――あの時のように。
あの時、あの時、あの時?
そうだ。忘れていた。あの時、
なぜ思い出した。思い出さなければよかった?いや、それも違う。でも、思い出したくなかった。
近づかないでもらいたい記憶が、津波のように
「あ、あああああああああああああァァァァああぁあ――!!!」
「おい、おい!大丈夫か!?」
倒れたうつ伏せの格好のまま
いやだ、嫌だ、イヤだ。
そうして
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