第17話
「で、どうだった?久しぶりの休みは」
休みを挟んで次の日、いつも通りの時間に俺と薬屋は待ち合わせた。
「世の中の世知辛さを味わった……」
間違ってはいない。
あの服屋、なかなかにえぐい売り方してきたし。
あの売り方、店側がわざとあの話を漏らしてるって気付かなければもう一度あそこで服を買ってもおかしくない。
てか、優しい人だったら買いにいく。
……おっそろしい会社だ。
ただまあ、昨日の休みで世知辛さを知ったことが全てかと言われるとそうではないだけだ。
見ると、俺の返答に薬屋は少しあきれていた。
「休日すらも殺伐とするってどう言うことよ?」
「好きでなってるんじゃない」
「好きでなってたらやばい人だよ」
確かにその通りだ。
まあ、逆説的に俺がやばくないことも証明されたわけだし、意味のある会話だったな。
やばくないよ?
「まあ、ダンジョン行くか」
「ん、潰す」
「もう少し女の子らしい言葉選びを覚えような?」
「ぐちゃぐちゃみんち?」
「もっと悪意が高まってるんだよなぁ……?」
オノマトペを上手に使える女の子はかわいいって絶対。
「まじピカピカ~!」みたいな。
やべえなギャルっぽさしかない。
そんな感じで今日も出発した。
ある意味でいつも通りの日々だ。
少し安心した。
「今日も二階層?」
「それなんだけど、もうとりあえずなんたら作戦なしで行けるところまで行っちゃおうかと思ってるんだが、いいか?」
「討伐作戦」
「そうそうそれそれ」
「別に、問題ない」
「うっし。それじゃ、進めるとこまで進んでみるか」
いつにも増してやる気が入っている。昨日一日で何かあったんだろうか?
「そういえば」
「なんだ?」
「薬屋は何階層まで一人で行けるの?」
「帰りも考えたらソロの荷物持ちなしじゃ二十階層までが足を伸ばせる限界だからなぁ……限界に挑戦したことはないが、もう少し先なら行けるんじゃないか?」
「じゃあ今日は二十階層まで行く」
「おいおいなんの用意も無しに……無茶言うなよ」
「無茶じゃない。二人なら、行ける」
単純に労力二倍だからな。余裕だろ。俺なんて金属塊を持ち上げて下ろすだけの簡単な作業だ。
しかしなぜか、薬屋は少しハッとした顔をしながら俺を見た。
「そ……そうだ、な。俺らなら、行ける」
ん?どうしたこいつ。いきなり感動し始めた?
いみわかんねぇ。
「ん、じゃあ行こう」
「ああ、行こう!」
なんだか妙に嬉しそうな表情を浮かべながら薬屋は揚々とダンジョンに向かっていった。
俺?いつも通り、横を歩いている。
薬屋が結構早足だから、ついていくのだけでも一苦労なのだ。
それにしてもなんかさっきから薬屋が
めちゃくちゃ嬉しそうなのはなぜだろうか。
下手したらいきなりスキップ始めそうなレベルだ。
ほんと、どうしたんだろ?
その後、何故か機嫌が良い薬屋が頑張ったお陰で階層はすぐに次に進むことができた。
「何でそんな速い?」
「そりゃあ毎日通ってたら速くなるわ。十階層ぐらいまでなら地図なしで行けるからな」
ダンジョンの内部を覚えるって?
道が整備されているわけでもない、ただの獣道だぞ?
目印とかあんのかもな。
いつか一人立ちする日のために俺も覚えておこう。
一人立ちするかわからないのはご愛嬌だ。
「すごい」
「慣れだよ。お前だって一階層ならある程度わかるだろ?」
「ちょっとだけなら」
「そのちょっとを何度も何度も繰り返してるだけだ」
良いことをいって絶妙にドヤ顔しているのが非常にムカつくが、まあ言いたいことは理解できた。
「最悪、あまりにも深い階層じゃない限り、地図も売ってるしな」
初耳だ。地図が売っているのなんて一ヶ月いて見たことがない……と思う。
「どこで売ってるの?」
「ギルドで売ってるぞ?」
「ギルドに何か売ってるの?」
「そっか、換金も俺がやってたもんな……ギルドの換金所のとなりに、色々役立つものが売ってるんだよ」
そうだったのか……。ギルドに何があるかあんまり知らないからなぁ。
「何が売ってるの?」
「地図だろ?あと、傷薬とか、毒の薬とか、ちょっと高いけど一時的に筋力とかを少しあげる薬とかな」
「さすが薬屋。薬しか言わない」
「薬しかないんだよ」
冗談めかしてからかったが、確かにギルドで――毎日のように戦っている人達がどんなものを買うかということを考えると、薬ぐらいしかない気がする。
ギルドで服とか売っててもどうするの、って感じだしな。
「なるほど」
「そもそもなんで俺が薬屋なんだかがまず疑問なんだがなあ」
「薬屋が薬屋であることに理由なんて、いる?」
「そこだけ聞くと俺が変な質問してるみたいになるのが不思議だよ……」
不思議も何も、なんの不思議もないだろう?
薬屋は薬屋だし、俺は俺。
みんな違ってみんないいってやつだ。
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