第9話

 ある日のダンジョンの帰り道、俺はふと疑問に思った。

 神様wikiは本当に百パーセント正しいのだろうか、と。


 いや、言い訳のようにもなってしまうが、別に神様wikiを信じていないわけではない。むしろ完全に正しい情報しか書かれていないんだろうと思う。

 そう、人間たちの中で間違った捉え方をされているものとかも、間違いなく正確に書かれていることだろう。


 流石に神様がそこまで融通を聞かせてくれているとも思えなかったしな。


 だから、試しに聞いてみようと思ったのだ。


「薬屋」


「ん、なんだ?」


「いまから超常識的な質問をするから答えて」


「なんでまたそんなことする必要があるんだ?」


「いいからやる」


「せめて質問する権利ぐらい用意して?」


 いつもの軽口をいくつか交わしたのち、質問を開始した。


「一つ目、この世界に戦争はある?」


 一応神様wikiによれば昔は多かったが今は戦争はない、と書かれている。

 正直日本という安全な国出身の身としてはものすごくありがたいのだが、市民たちにはどう伝わっているのか?


「戦争なんてここ数百年起こってなかったと思うぞ?少なくとも俺が生まれてからはそういう話を聞いたことはないな」


「うん」


 大丈夫、神様wikiと同じだ。


「いやーでも戦争をなくしたやつは頭いいよな。俺だったら思いつかないぜ?すべての国の王子を一箇所に集めて教育することで仲を保つ、なんて方法」


「確かに、その考えはすごくいいと思う」


 これも神様wikiに書かれている。最初に知った時は驚いた。

 でも、子供のうちに喧嘩して逆に戦争が起こるとかありそうだけどないんだね。


 王同士が小さい時からの友達だから、何処かの国が危機に瀕するとそれ以外のすべての国が助けに回るらしい。

 頭お花畑かよ。素晴らしい世界だな。もっとお花畑してけー?


 さて、次の質問だ。


「教育ってどうなってる?」


「教育?……んー学校とかはあるが、基本的には金持ちしか入れないぞ。俺も行ってなかったし」


「文字の読み書きは?」


「数字とか、単語程度なら多少は……だけどほぼ出来ない。ってかそれが普通だぞ?教会関連の人間か、学校行ってたやつじゃない限り文字の読み書きなんてまず知る機会ないからな」


「ちなみに私はできる」


「まじかよ!?」


「文字読めないなら依頼どうしてるの?」


「下に絵が描かれてるじゃん。それで判断するんだよ。たまに描く人が下手だとなんの魔物かわかんなかったりするけどな」


 ここら辺も神様wikiと一緒だ。よかったよかった。


「お、お前もしかして貴族のご令嬢だったりするのか……?」


「ちがう」


「よかった……じゃなくて、じゃあなんで文字の読み書きなんてできるんだよ」


「できるからできるの。気にしたら負け」


「煙に巻きやがって……」


「人生なんてそんなもん」


 んじゃあ、次だ。


「福祉は?」


「ふくし?ってなんだ?」


「……いや、なんでもない」


 神様wikiにも福祉についてはなかったが、福祉がないってのは少し怖いな。

 おそらく、治療院的な個人営業の病院のようなものがあるのだと思うが、いくら取られるかわかったものではない。

 気をつけなければ。


 ……まてよ、回復魔法とかはないのか?神様wiki曰く……ある。それを受けるには修道院でシスターに頼めばやってもらえて、お布施という形でお金を渡す、と。


「修道院のお布施ってどのくらい?」


「修道院……?ああ、教会か。ちょっと高いな。まあ、治療院ほどではないが。ちょっとの怪我で行くようなところではないかな」


「治療院はどれくらい値段かかるの」


「行ったことないから知らんが、平民にゃ到底払えない額らしいぞ?」


「なんで治療院と修道院でふたつもあるの?」


「修道院は見習いのシスターが多いから回復魔法の効果も弱いんだよ。だから、ちょっと安めの値段。でも、治療院に派遣されるシスターはプロだから高くなるんだ」


 やっぱりそんな感じか。神様wikiだけだとちょっと情報量足りないかもしれないなぁ……まあ、怪しまれたら煙に巻く形でなんとかするか。

 めんどくせ。


「疫病とかは?」


 正直これはかなり怖い。黒死病とか、ペストとかね。

 病気で苦しんで死ぬのだけは勘弁だ。


「あるけど……対処法は、ないわけではない。完治はできないが薬を使えば生きながらえさせることはできる」


 薬屋の顔が少し曇った。

 やっぱり薬屋だから、健康へのことは気になるのかね?

 ……冗談はともかく、地雷踏んだっぽいな。早くこの話題から離れるか。


「そっか。……怖いね」


「ああ」


 なんか雰囲気が暗くなってしまった。うーん、人の地雷ってどこにあるか分からないから難しいよな。

 さっさと話題を変えるとしよう。

 俺は急いで質問を変えた。


「ダンジョンってここ以外にどこにあるの?」


「あ、ああ。ダンジョンは大きな街に一つずつあるぞ」


「他には?」


「他に?それしかダンジョンはないはずだ」


 やっぱりこういうパターンあると思ったんだよなあ。

 情報がありすぎるパターン。今のうちに気づけてよかった。


 管理者にとっては秘密も秘密になり得ないし、未開の地も海の底も関係ないんだろうなぁ。人間にゃ到達できない領域だ。


「うん。ありがとう」


 恐らく、大きな街にダンジョンが出来たんじゃなくて、ダンジョンがあるから大きな街にまで栄えたのだろう。


 次だ次。質問は多いんだから、さっさと聞いてかないとダンジョンの出入り口に着いてしまう。


「宗教って何がある?」


「エクィラ様を祀ってるエクィラ教だけしかない」


「へえ……薬屋もエクィラ様信じてる?」


「まあ一応エクィラ教だが……冒険者やってると、本当に神様なんているのか、疑問に感じることはあるかな」


 またこのパターンだ。神様wiki情報過多案件。しかも割と危なめな感じだ。

 この世界に邪教徒がいるなんて流石に口が滑っても言えないわな。

 ちなみに邪教の正式名称はアグィル教だ。


 アグィル教はエクィラ教の教えを真っ向から全否定してる。恐ろしいから絶対に近づかない。


 やっぱり神様wikiの情報と人が知ってる情報では齟齬があるようだ。

 それが知れただけでも大きい収穫だろう。

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