第6話 アズリア、危険な蜥蜴との遭遇

 それからの坑道探索は順調だった。

 ランドルの旦那に坑道の地図をあらかじめ用意してもらっておいたのと、集団だと思ったアイアンリザードが入口以降は鉄鉱石の採掘場所に一匹ずつしかいなかったからだ。

 アイアンリザード単体ならルーンを発動させないでも倒すことが出来る……んだけど。


「八匹目ッッ!……ってまだ探索終わりじゃないんだよなぁ……うへぇ。

 まったく、この坑道に何匹居座ってんだか……」


 そうなのだ。

 餌場にリザードが単体でしか遭遇しなかったのはありがたいが、行く先行く先どの採掘場所にもリザードがいるのにはさすがに辟易としてきた。

 倒したリザードの数が十を超えた辺りからは、もう作業的にリザードの頭に得物を振り下ろしていたと思う。


「ようやく最後の採掘場所かぁ……ん?」


 最後に残した採掘場所はこの坑道の一番奥にある、多分リザードに占拠される直前まで掘り進めていた場所なのだろう。

 しかしそこでこちらの接近に気づかずに一心不乱に鉱石を喰らっているリザードは今までのヤツらとは見た目から違っていた。

 まず体長だ。明らかに先ほどまで討伐してきたリザードより一回り以上大きい。

 そして表皮の輝き。あれは鉄じゃない。周囲の灯りに照らし出される金属光沢に最初は銀かと思ったが、二、三度遭遇したことがあるがシルバーリザードはもう少しくすんだ白か灰色をしていてあんなに光を反射しない。


 となるとあれは……金?


 するとアタシの動揺を感じ取ったのか、金色のリザードは百八十度展開してこちらを睨みつける。

 するとリザードはカチカチと歯を鳴らし威嚇……?


「違う!あれは火吹きブレスの準備だッ!」


 とっさにリザードの正面だった立ち位置から横に飛び退くと、さっきまでアタシが立っていた場所がリザードの口から吐かれた紅蓮の炎に包まれていた。


「ふぅ……噂聞いてなきゃ危ないトコだったよ」


 そう、金を餌にするメタルリザードは火を吐く噂。あれは噂やホラではなく本当だったのだ。

 金が鉄より脆く軟らかい金属だからゴールドリザードはアイアンより弱い、なんて説さえ冒険者の中には流れていたが、きっとそれはゴールドリザードに遭遇した事のない連中の戯言なんだと今身をもって理解した。


 その仮説を否定するために、今度はそこら辺に落ちている手に収まる程度の大きさの石を拾い、力を込めてゴールドリザードの胴体へ投げつける。

 アイアンなら鉄の鱗を少しへこませる位の損傷は与えられるのだが、金の鱗は石が命中し鈍い衝突音を響かせるものの鱗には傷一つ付いていない。

 やはり餌になった金属の硬さとリザードの強さは必ずしも一致しない、また一つ勉強になった。


「さて、感心してばっかじゃいられないねぇ……あの小さなドラゴンをどうやって倒すか、考えないとね」


 どうやらアタシがゴールドリザードを倒す方法を思案している間、向こうはその場から動こうとせずに待ってくれているらしい。ありがたい事だね。

 大方、火を吐くのは連続して出来るものではないらしい。そりゃあんな炎をバンバン吐かれでもしたら勝機なんてゼロだろうし。

 幸い、炎は直線的でそこまで幅はないからさっきは何とか避けられたけど、あまり広さに余裕のない坑道じゃ絶えず動き回って的を絞らせない戦い方も難しいね……さて、どうするアタシ?


 ……そうか、火を吐く瞬間。あれなら。


 再び石を拾い上げると、今度は手甲を装着していない右手の指にナイフで傷をつけて流れる血で拾った石に文字を書き、文字を書き終えたらその石に魔力を注いでいく。


「我、勇気と共にあり。その手に炎を。

 ────────kenケン


 すると血文字が赤く光り輝き石全体が魔力を帯びる。

 これは生まれ持った右眼の魔術文字ルーンとは違い、アタシが旅の途中で手に入れることが出来た二つの魔術文字ルーンのうちの一つ。

 とはいえ、効果といえば松明程度の火を出すくらいなんだけど。野営で焚き火に火を付けるのに使わなかったのも、毎度指を切ってまで火を起すのが面倒だから。

 まあ、これで準備が出来た。

 アタシの作戦が上手くいけば、あの蜥蜴は必ず隙だらけになる。

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