4-12 突然の乱入者

 女性の招待客が1人もいないと言う事で、会場内は一種異様な雰囲気に包まれていた。男性客の中ではあからさまに私を値踏みするような目で見る人たちもいれば、何やら危険思想を口走っている集団迄いる。

普通、パーティーというものは華やかなドレスを着た女性たちとダンスを踊ったり、談笑する賑やかな場になっていただろうに女性の参加者がいないと言うだけで、ここまで雰囲気が変わるものなのだろうか・・?


「大丈夫ですか?ライザ。」


立食テーブルの傍でワインを飲んでいた私にジュリアン侯爵が囁いてきた。


「は、はい。大丈夫です・・・。でもやはり重苦しい雰囲気がありますね。大体・・これはカサンドラの誕生パーティーだと言うのに・・・一体父は何を考えているのでしょうか。」


すると私の言葉にジュリアン侯爵は言った。


「そうか・・・ライザ、まだ肝心な事を君に伝えていなかったよね・・・。今から話す事・・驚くかもしれないけど、どうか心を落ち着けて聞いてくれるかい?」


ジュリアン侯爵の顔は今まで見たことも無い、真剣なまなざしを私に向けていた。

私はそんな様子のジュリアン侯爵を見て、話を聞くのが何だか怖くなってきた。


どうしよう・・・聞くのが怖い・・・。だけど・・・私は父と母、そしてカサンドラが不幸になる姿を見届ける為にここに来たのだ。


「はい、教えて・・・下さい。」


するとジュリアン侯爵は頷くと言った。


「ライザ、実は今夜のパーティーはカサンドラの誕生日を祝うパーティーでは無いんだよ。表向きは、そういう名目で私たちは招待状をもらっているけどね。」


「え?そ、それでは・・・一体何のパーティーなのですか?!」


するとジュリアン侯爵は私の耳元に口を寄せると言った。


「カサンドラの結婚パーティーなのさ。」


「!」


私は驚いてジュリアン侯爵を見た。


「け・・・結婚パーティ・・・・?い、一体誰と・・・。」


そこまで言いかけて私はハッとなった。


「ま、まさか・・ここに出席している人達の誰かがカサンドラの結婚相手なのですか・・?」


「いや、ここにいる人達は本当にただの出席者達だ。」


「では一体誰と・・・。」


そこまで言って気が付いた。そうか、結婚相手とカサンドラは一緒に入場してくるのだと。


「その相手はね・・・。」


ジュリアン侯爵が言いかけた時、出口でものすごい騒ぎが起こった。


「困りますっ!どうかお引き取り下さいっ!!」


「いいえっ!離しなさいっ!私は・・・・私はモンタナ伯爵夫人なのよっ!」


え?!

今の声は・・・?

驚いて騒ぎの方を見ると、なんと母が大騒ぎで暴れており、そこをフットマン達に取り押さえられているのだ。


「いやっ!離しなさいっ!この・・・無礼者めっ!!」


その様子に一斉にざわめきだす招待客達。

母は髪もセットせずにぼさぼさ頭を振り乱して、今にも自分を取り押さえつけられているフットマン達にかみつこうとしている。そして母はホールの中央にある螺旋階段に向って叫んだ。


「あなたっ!!こんな事・・・・絶対に認めませんからねっ!私も・・・世間もっ!よくも私をこんな目に・・イヤッ!離しなさいってばっ!」


しん静まり返る招待客達。

結局暴れる母は数人の使用人たちに取り押さえら、外へと連れ出されてしまった。


バタンと扉が閉ざされると、再びホール内はざわめきが広がる。私は今見た光景が信じられなかった。一体母は何を怒っていたのだろう?自分も世間も認めない?それは何を意味しているのか・・。


するとジュリアン侯爵が心配そうに私に声を掛けてきた。


「ライザ・・顔色が青い・・。大丈夫かい?」


「え・・・ええ・・・正直に申し上げますと、あまり大丈夫ではありませんが・・・。」


その時、近くにいた貴族グループの話声が耳に飛び込んできた。


「おいおい・・今のはモンタナ伯爵夫人だったよな・・。」


「ああ、ものすごい暴れようだった。」


「まあ・・あの人の気持ちが分からないわけでもないが・・。」


「確かにな。これは・・さすがにちょっとな・・。」


え・・・・?一体どういうこと・・?


ジュリアン侯爵も話が耳に入ったのか、ポツリと言った。


「どうやら・・もう噂はすでに広まっていたようだね・・。」


「え?噂・・?」


私が問いかけた時、突然大きな声が響きわたった。見ると、そこに立っていたのは父の執事である。


「皆様!大変長らくお待たせいたしましたっ!これより結婚披露パーティーを開催させていただきます!まずは新郎新婦の登場です!こちらの階段にご注目下さい!」


そしてホールにいた人々は一斉に螺旋階段に注目した―。

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