夏の残滓

 恋を失ったあの子は林檎飴の気泡になって、溺れた金魚は永遠の夏に眠る。短い夜は仄かな熱を抱いて、汗ばんだ指に絡む幻。儚い季節が終わる前に、手向けられた大輪の火花が散っていく。あの日網膜に焼き付けた君の浴衣姿はもう見えない。伸ばした手から零れ落ちる夏の残滓に、小さくさよならを呟いた。

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