オーロラ色の夢語り
蒼乃モネ
第一夜 夢占い
夢の中にあらわれるのは無意識的内容が投影されているイメージであり、それは象徴性に満ちていて、言葉による言い換えのきかないものである。無意識からのメッセージ。〈ユング〉
さて、夢占いに興じる少女たちの群れを横目に、Nは歩みを速めていた。
朝露に濡れた白い花を踏み散らしながら、秘密の場所へ。
頭上に大きく口をひらいた藍の空には、オーロラがゆらゆらと。
この世界こそ、夢。
Nは、自分がこの世界でただひとり、そのことに気付いているのが、何よりの証拠だと感じていた。
明晰夢である。
Nは、泉にうつる歪んだ自身の姿に、声をあげた。
『おまえもまた、きづいていないだろう。あたしが すべてを おもいどおりに できることを』
何度も夜と朝がめぐってきた。
幾度も無数の星が尾を引いて落ちては、太陽が生まれた。
地鳴りとともに大地が隆起し、火山が興った。
甘くむせかえるスミレの香りと、刺すような硫黄の臭気がないまぜになって、あたりに立ち込めた。
Nはたまらなくなって水鏡にとび込んだ。
透明の水中世界は、深く、清く、冷たい。
天空からふりそそぐ、オーロラの光の乱反射。
視界を遮るように、 水面へと帯状に滑り込む乳白色のにごり。
水辺から誰かが水瓶のようなものから、なにかそそぎ込んでいるらしかった。
屈伸運動の要領で底から飛び上がると、いそいそと泉へ牛乳をそそぐ女と、しばし目があった。
気の抜けたような沈黙。
女が両手で抱える壺の中身だけは、まだまだ底をつきそうにない。
泉は、瞬く間にまろやかになった。
先刻自身の癇癪が起こした天変地異についていうと、あの騒ぎは嘘のように静まっていた。
すべては、もとどおりに整っていた。
しかし、ほどなくしてこの美しい箱庭世界は、周縁からほろほろとほころび始める。
スミレの香りと、麝香の香り。
耳に残るは、天使の歌うシュプレヒコール。
ローズクォーツと真珠をなめらかに溶かしたような、Nの夢の終演。
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