第3話 「戦艦のプラモデル」阿波踊り。



セミが鳴いていた。・・・学校も夏休みや。


セミの声に交じって「二拍子」が聞こえてきた・・・


阿波踊りが始まっている。村全体がザワついていた。


祖父ちゃんは村の寄り合いに出かけていた。・・・・色々やることがあるらしい。

母さんも、弟を連れて行っていた。・・・・婦人会も忙しい。



ボクは、一人残ってプラモデルを作っていた。


プラモデルが好きや。・・・何よりプラモデルが好きや。

ちっちゃい頃から、お菓子より何よりプラモデルが好きやった。



母屋には祖父ちゃんがひとりで住んでいて、廊下でつながった別棟がボクたちの寝る場所や。

・・・・その廊下の入り口に大きな「飾り棚」があった。


そこには、大きな戦艦のプラモデルがいっぱい並んでいた。・・・・父さんが作ったやつだ。

・・・・鍵がかかっていて・・・・ガラス戸で・・・かっこよくて・・・・ボクがプラモデルを作るようになった理由がこれや。


ボクは毎日、毎日、眺めていた・・・・・棚の中には作りかけのプラモデルもあって・・・・今、父さんが作っているのは「飛龍」だ。・・・・それが、少しづつ、少しづつ出来上がっていくのを見てるのも楽しかった。

父さんが作っている大型のプラモデルは、内部の構造まで細かく作られていて、それを見ていると、戦艦の構造がよくわかった。



休みの日には、父さんがプラモデルを作っていた。


飾り棚には、大きな戦艦大和があって・・・その隣に、少し小さな戦艦がある。


「これは、長門や・・・日本海軍の旗艦やった戦艦や・・・・」


「旗艦・・・・?」


「一番偉い戦艦や・・・・」


・・・・でも、隣で並んでる大和のほうが大きい・・・・


「大和が旗艦になるんは、その後や・・・・真珠湾攻撃の時は長門が旗艦やったんや・・・・」


父さんは戦艦にまつわる歴史の話を教えてくれた。・・・・それが、とても面白かった。楽しかった。



ふたりが休みの日には、ボクも父さんと並んでプラモデルを作った。


父さんがボクに選んでくれたのは「1/700」という、父さんが作っているプラモデルの半分の大きさのやつやった。

父さんが作っている「1/350」は、部品の数も多い、作るのも難しい。・・・小学生のボクには、まだ早いって言われた。



ボクは、作りかけのプラモデルを、「飾り棚」の上に置いていた。


・・・・ある時、ボクの作りかけのプラモデルが直されていた・・・・ボクが間違えて設計図と左右逆に部品を取り付けていた・・・・それが直されていた。


・・・・父さんは、ボクのプラモデルを見てくれてたんやな・・・・


父さんは、ボクが寝ている間に仕事に行って、寝ている間に帰ってきていた。・・・昼間でも、学校に行ってる間とかに仕事に行ってしまう。

・・・・だから、父さんと会えなかったりするときもある・・・・


・・・・それでも、父さんのプラモデルが進んでいたり・・・ボクのプラモデルが直されていたりで、父さんが帰ってきたのが分かった。

・・・いつの間にか、「飾り棚」が、ボクと父さんの男同士の会話の場所になっていた。



お昼は、ひとりで母さんが用意してくれた「押しずし」を食べた。

お盆・・・祭りの時にはこればっかりや。


皆のとこに行けば、焼きソバだとかもある・・・・・それは後で食べよう・・・・



テレビを見て、少年ジャンプを見て・・・・また、プラモデルを作る・・・・


戦艦のプラモデルは、部品の数が多いし小さい・・・・右と左に機銃が・・・・前と後ろに大砲がついてる・・・それぞれ同じやない。間違えないように真剣に、何度も設計図を見ながら作っていく・・・・ワイヤーケーブルなんかは、キットには入っていない。「糸」で作ったりするんや。


艦橋ができた・・・大砲も組み立てた・・・・あとは船体に組つけていく・・・・その前に接着剤が乾くのを待つ。


カルピスを作って飲んだ。

少年ジャンプを読む。


・・・・少年ジャンプは、最初、父さんが買ってきてた。それをボクも読むようになって、そのうちに発売日にボクが買いに行くようになった。・・・・父さんが、その分のお金をくれた。



カルピスを2杯飲んだ・・・・母さんがいたら2杯は飲めなかった。・・・・しかも、母さんが作るのは、メッチャ薄かった・・・



・・・コップを片付けて、また、プラモデルを作り始めた。


玄関が開く音がした!!


立ち上がって、玄関に走った!


父さんがいた。


「オウ」と片手を上げて父さんが立っていた。


やっと帰ってきた。

待ってた。・・・・・父さんと祭りに行くために、ひとりで待ってたんや!




セミの声が降りそそぐ。

日が暮れていく・・・・・

「二拍子」が鳴っている。


人混みの中。

父さんに手を引かれて「連」を見た。

隣で弟が母さんに抱かれていた。


家族そろって、揃いの・・・村のハッピを着ていた。



目の前を、地を這うように、踊りながら「連」が進んでいく。

一糸乱れず、ひとつの生き物のように「連」が進んでいく。


かっこいいと思った。美しいと思った。


人間が舞う。

二拍子が鳴る。・・・・お腹に響く二拍子が鳴る。


ボクたちのお祭りや。



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