第51話 欠片の巨神vs煉獄の魔人


「メルラーナにあの巨神と戦わせるつもりなのか!?彼女の護衛としてそれは認められん!!」

金髪の青年の提案にメルラーナの側に居たアンバーが反論を申し出る。

「ん?なんだい?君は急に?いや、此処まで彼女を護衛してきてくれたんだ、其の事には感謝するし、言いたい事はあるだろうけど、申し訳ないが少し黙っていて貰えないかな?」

「アンタに感謝される言われはない、メルラーナの知り合いでも無さそうだしな。」

金髪の青年を警戒し、メルラーナを庇う様に前に出るアンバー。

「アンバー!待て!」

其の行動をガノフォーレが止めに入る。

「ガノフォーレ?」

今度はガノフォーレがメルラーナ達の前に出た。


「失礼ですが、貴方はひょっとして、テイルラッド=クリムゾン殿ですか?」

ガノフォーレが慎重に相手を見極めて、素性を確かめる。

「…へぇ?…ガノフォーレ君、だったかな?中々博識だね其れで?そうだとしたらどうするんだい?」


やはりか、小さい頃に一度見た記憶がある。

テイルラッドははぐらかす様に答えるが、ガノフォーレの予想は的中していたし、確信もしていた、だが。


「先程の無礼は謝罪させて頂きます、何故、貴方の様な人物が此の様な場所に居られるのでしょう?海の向こう、ラジアール大陸から態々此処に来られる理由をお教えして頂きたいのですが?」

「…ふぅ、まず最初に一つ言わせて貰うけど、今は時間が惜しいんだ、こうして君達と話をしている間に、魔人達や巨人達が命を落としている其れを、放置してまでそんな事を知りたいのかな君は?」

「…っ!?」

確かに、今はそんな議論をしている暇は無い、自分達が話をしている間にも巨神はずっと暴れているのだ。

「それもそうですね、解りました、ですが、メルラーナを此の戦場に向かわせるつもりはありません、私達が協力しましょう、此は我々冒険者の総意です。」

「…其の心意気は認めるよだけど、アレに集団で挑むのは無謀と云うヤツなんだ、唯々被害を大きくするだけさ、アレと戦うなら実力者が数人居ればいい。」

「なら、我々冒険者の中から選んで貰えませんか?彼女は我々の護衛対象だ、戦わせる訳にはいかない。」

「やれやれ、それじゃあ君達の中に此の、ギュレイと互角に渡り合える人材が居るのかな?」

痛い所を突いてくるな、確かに今此処に居る冒険者の中に、あの依頼書を送り付けて来た魔人と思われる人物と互角に渡り合える者等は居ない…だが。

ガノフォーレが次の言葉を絞り出そうとした時。

「後、彼女が戦いに参加するかどうかは彼女自身が決めればいい事さ其れに、言っておくけど君達が思っている以上に彼女は強いよ?」

テイルラッドに遮られた上、ガノフォーレ自身が此まで感じていた事実を突き付けられた。

「!?」

テイルラッドが言っている事は、恐らく間違いでは無いだろう、私自身、彼女と出会ってからずっと観察してきたが、通常では計り知れない程の異常な成長を見せている、其れは多分、先程知った彼女が魔人の血を引いている…と云う事に関係しているのかも知れないが。


「あ!あの!」

不意にメルラーナが2人の知恵者に間に割って入って来る。

「私に出来る事があるならやります!」

「「!?」」

話を聞いていた冒険者達が驚いた表情をしている。

「へぇ?…流石はジルとティレーナの娘と云った所かな?」

「え!?」

テイルラッドは感心した様な仕草を取り、驚いているメルラーナの表情を見乍ら。

…ふむ?それにしても、少し違和感があるね、やけにあっさりしている、感情が少し薄いのかな?ジルがその様に育てる筈がある訳がないし、…ああ成程、ガウ=フォルネスがメルラーナの感情に何かしらの影響を与えているのか、ふぅ、まったく神器って奴はこれだから困るよ。


神器に意思を与えられた理由は諸説あるが、其の一つに、宿主自身に何か、危険な状態、動けなく成る様な事態に陥った時、宿主を護る為に代わりに神器が身体を乗っ取って操る為である。


多少とはいえ感情に影響を与えているのは少し問題だね、此は報告しておく必要が有りそうだ。


「テイルラッドさん、でいいですか?お父さんとお母さんの事、知ってるんですか?」

「メルラーナ君、僕の事はテッドでいいよ。」

「は、はい、テッドさん。」

「呼び捨てでいい其れと、敬語は必要無いよ。」

「え?…はぁ、…うん、あ、じゃあ私もメルでいいです、じゃない、いいよ。」

「うん、了解したよメル、君の両親の事だよね?勿論さ、良く知っているよ何せ、…いや今は止そう、ローゼスの対処が先だ。」

「…うん!」

………

……


ギュレイゾルは全速力で疾走し、ローゼスに向かって右側へ回り込んでいた。


ギュレイ、君は右翼からの迎撃を、兎に角、奴の翼を捥いで地面に叩き落としてくれないかな?


フンッ!相変わらず気に食わない男だ、が、奴の力は本物だ、気に食わないが、認めるしかない!!


「其れが気に入らん!!」


ローゼスの身体の半分程の位置に差し掛かった頃、ギュレイゾルは手にしていた月与魅を左の腰の位置まで落とし、水平にして維持した。


「行くぞローゼス!我が煉獄の炎!其の身にしかと焼き付けよ!!」

相手が相手だ、手加減などしている余裕は無い、故に全力で行かせて貰うっ!


翼の真下まで来た時、土煙を上げながら其の足を止める、と同時に上半身を左に捻り一気に戻す、戻ってきた上半身に引っ張られる様に腰、足へと全身を使って大きな円を描く様に旋回をした、手に持っている月与魅を旋回中に異変が起きた、刀身が黒い炎で燃え始めたのだ。

明らかに普通の炎では無い、通常の火は温度によって色が変わるものだ、赤い火の温度を更に上げると、其の色は白くなる、更に高温になると青く燃えるものだが、自然界で黒い色をした火は存在していない、例え魔法で極限まで温度を上げても青い色まで上げる事は可能だが、黒くは成らない、此の炎は別の次元から招喚された炎なのだ、此は魔人と呼ばれる種族が得意とする技術の一つで、魔法とは原理が異なる力とされている。


黒い炎を纏った月与魅は、水平の旋回から軌道を変え、翼に向かって空を切る様に振り切る。


ゴォッ!!


月与魅の軌道を辿る様に炎が勢いよく燃え上がり、剣閃と共に翼に向かって放つ、余りの高温に周囲に生息している木々や草が燃え始めた。

炎の斬撃は其の幅が100メートルには届こうかと云う程に、巨大なモノとなり翼に襲い掛かる、上空へと舞い上がる炎は、ローゼスの身体の毛まで燃やし始めた、人の手では届く事も叶わないであろうかと云う程、高い場所で羽ばたいている翼に、黒い炎が届こうかと云う直前、ローゼスの身体から触手の様なものが突然、無数に生えてきて翼の代わりに燃えて灰と化した。

「何!?」

あの触手は何だ!?ローゼスからあんな触手は生えて来ない!欠片の侵食が進んでいる!?時間が経ち過ぎたか!?ならば触手毎、翼を焼き斬ってくれる!


欠片が身体に何を起こすか、其の実態は不明ではあるが、ギュレイゾルは此までに幾度となく欠片のモンスターに対処して来た戦士であった、其の為、有り得ない事が起きてもさほど驚く事も無く、初めて見た触手に瞬時に対応作を講じて次の行動に移す。


とは云え先程の一撃は我の最大火力だ、其れで通せないとならば、連続で放つまでよ!


ギュレイゾルは自身の左側に移動した月与魅を態々元の位置に戻す事無く、今度は上半身を左に捻り、逆から円を描く様に振るい放つ、放たれた炎は再び翼を向かって舞い上がるが、ギュレイゾルは勢いよく旋回した身体を、そのまま一週させる様に回り、左足が地面にめり込む程に踏み込んで、もう一度、同じ位置から斬撃に乗せた黒い炎を完全に同じ位置で放つ。


「此ならば一撃目を防がれても二撃目は防げまい!」


再び触手で炎を防ごうと、身体から無数に生えてくる、だが、ローゼスの身体から生えてきた触手は、先程よりも数が増えていた、まるで二撃目まで放つのを予測していたかの様に………。


「チィッ!」


思わず舌打ちをするギュレイゾル。

アレは再生速度の問題か?其れとも元々生やす事の出来る触手の最大数が多いのか!?しかし今はそんな事を検証している暇は無い!


「防がれるのであれば物理的な法則を無視すればいいだけであろう!?」


月与魅の刀身に三度、黒い炎が纏う。

一度目や二度目の炎は刀身が見えない程に覆っていたが、今覆っている炎は刀身が見える程薄く、頼り無く揺らめいていた。

魔法とは自然界で起こりうる現象、天災を魔術士が、己が魔力を用いて行使し、自然界と同等か其れ異常の現象として具現化させる技術である、故に物理的な壁を設けられると、物理現象である炎や氷や風も通す事が出来ない、無理に通すならば其の壁毎破壊出来る程の規模で魔法を行使するしか無い、より高位の魔術士であれば、行使した魔法が壁をすり抜ける位まで原子レベルにまで分解し、抜けた後で再構築する事で効果を有効にさせる術者も居るが、相当な技術を要する為、出来る者は数少ない。

魔術士でも無いギュレイゾルには当然そんな技術は持ち合わせてはいない。

しかし、此の月与魅の刀身に纏っている黒い炎は魔法のそれとは異なる力である。


月与魅を持つ手に力を入れ、三度目の炎を放つ準備をするが。

ギュレイゾルに向かって無数の触手が襲い掛って来た。

「くっ!」

襲い掛って来る触手に対し、迎撃をするギュレイゾル、身体を全身で旋回し、月与魅を振り回すと、一度で数十本の触手を斬り落とす。

次々と襲い掛って来る触手を二、三度斬り落とした頃、斬り落とした触手の先端が再生され、再び襲って来た。

「チィッ!キリが無い!」

触手によって足止めを喰らわされ、ギュレイゾルの表情に少し焦りの色が見え始める、今はまだ此の触手だけで済んでいるが、ローゼスの全身に欠片の影響が出始めれば確実に被害が拡大する事は想像に難くない。


「邪魔だ!!」

ドガゴゴゴッ!!


黒い炎が不気味な音を立てて爆発した、翼を斬り落とす為に纏わせていた炎が、数え切れない程の触手を全て、瞬時に焼き尽くす。

予定を狂わされ、苛立ちを隠せないギュレイゾルだったが、四度目の炎を纏わせ、備える。

「いい加減!大人しく斬り落とされるがよい!!」

黒い炎は三度目と同様に薄く揺らめいている。

旋回させて斬り上げようとした時。


ズンッ!


何かが突き刺さるような、重い音がした。

「…!?………ゴフッ!」

ギュレイゾルは口から血が流れ出す。

腹部に生暖かい液体が流れる感覚と、其の感覚を忘れさせる程の激痛に襲われる。

「な…に?」

激痛が走った腹部に眼を移すと、自身の身体を何かが貫いていた。

太い棒状の其れは、白い毛が生えている。

「…ああ、…尻尾……か。」

其れはローゼスの三本の尻尾の内の一本だった。

尻尾が引き抜かれ、ギュレイゾルの腹部がら大量に血が流れ落ち、身体が崩れ落ちる、身体を支えようと月与魅を地面に突き刺し杖代わりししたが、自らの血で真っ赤に染まった地面に両膝を付いた。

油断しているつもりは無かったが、見た事の無い触手に手間取らされ、尻尾の動きに注意がいって無かった、更に其処へ止めといわんばかりに竜巻が一本、木や草、砂利を巻き込んで渦を巻き始めた。


ああ、ローゼス、我が同朋よ、やはり貴方は全てを忘れてしまったのだな。


残念だ、ああ、残念だよローゼス、…約束しよう、貴方をそんな姿にした愚者共を、我が手で抹殺しよう。


死ぬ間際まで、恐怖と絶望を与え、死んでも尚、苦しみから逃れられぬ様に…。


竜巻が容赦無くギュレイゾルに向かって行き、目前まで迫ってきた時。



「我が名はギュレイゾル=アー………………!!」

ギュレイゾルが身体の痛みをまるで何も感じていないかの様にゆっくりと立ち上がり、突然叫び始めた。


「「「!?」」」

「…ギュレイゾル卿?」

其の声は2キロ以上離れた場所で戦いを見守る事しか出来なかった冒険者達にも聞こえる程の声量だった。


「え?ギュレイゾル…さん?」

メルラーナにも其の声は届いていた。


「…やれやれ、…ギュレイ、やっと覚悟を決めたのかい?此方はもう既に終わっていると云うのに遅いよ君は、…けど、仕方無いと云えば仕方無いかな?何せ700年も続いた付き合いだ、ああしまったな、ギュレイが何時までもウダウダしていたから止めをメルに任せてしまった。」

テイルラッドは自身が剥ぎ落とした翼の上に立ち、漸く本気になった同朋の言葉を聞いて安心した声で独り言を呟いていた。

「君の敗因は欠片なんぞに侵食されて意識を失った事と、ギュレイを怒らせた事さ。

残念だよ、軈て訪れる戦いに、君の力が欲しかった……。


さようならローゼス、我が同朋よ………。」



「我が名はギュレイゾル=アークレー=ラスタウォレスザンバード!!

我らが偉大なる父!邪神ガウネスより生み出されし煉獄の魔人なり!!」


地面に突き刺した月与魅を引き抜き、竜巻に向かって一気に振るう。

風圧だけで竜巻を掻き消したが、ギュレイゾルの身体に開いた穴から大量の血が流れ出した。

しかし倒れる事は無く、其のまなこはしっかりと標的を捉えていた。


「さらばだ、…巨神ローゼス。」

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