第23話 ミスリル鉱山の激闘


始めは小さな揺れだったが、次第に揺れは大きく成って行く、天井からは小石が無数に落ちて来る、ミスリルの大原石がまるで悲鳴を上げている様にミシミシと云う音を立てていた。


「こ、これはまずいなー、崩れたら洒落に成らないぞー、近くにトロッコが置いてあるから其れで脱出するぞー!」

バルゴが焦った感情を剥き出しにして叫ぶ、冒険者達は直ぐに持てるだけの荷物を持ってバルゴの言葉に従う、メルラーナも同じく行動を共にするが、ふと立ち止まった。


「…?」

振り返ってミスリルの大原石を見る、次に蜘蛛の亡骸に目を移す。

「…メルラーナちゃん?」

ノアウィフが声を掛けて来るが、メルラーナは次に蜘蛛の奥を見詰めて微動だにしない。

「…、何か、奥から音がする。」

「!?」

メルラーナの其の言葉に即座に反応したのはオールだった。

「チッ、地震の所為で気配に気付かなかったぜ!3、4、いや!もっと居やがる!」

其の時、奥の方から、何かから逃げる様に一匹の薄茶色の肌に大きな顔、頭の天辺には二つの長い耳が生えており、全体的に小太りした二足歩行をする何かが鉱山内に入って来た、は形が凸凹したボロボロの部位鎧を纏い、右手に無数の棘が刺さっている持ち手が細く、先端に成程太く成っている木の様な棒を持ち、左手にはまるで鍋の蓋の様な丸く薄い盾を持っていた。


「オーク!だが一匹だけか!?」

オールが其れを視認して判断をするが、気配は一匹だけでは無かった筈、警戒を怠らず、鉱山内に入ってきたオークを観察していると。

「あんなのに構ってる暇なんて無いぞー!早くトロッコに乗れー!」

バルゴが焦っている、大地の妖精とも言われているドワーフが、現状を危険視して居るのだ、直ぐにでも此処から脱出しなければ成らない、しかし。

大小の瓦礫が地面に落ちる音や岩に罅入る音、割れる音等に交じって奥の通路から複数の足音が聞こえて来た。

「チッ、オークの団体様の御登場だぜ。」

オールの言葉通り、オークの群れがミスリル鉱山内に押し寄せて来た、が、まるで何かから逃げて来たかの様に、後ろを気にし乍ら入って来る。

「?」

「メルラーナ!行くぞ!」

ゴルテスクに言われ振り返ると、冒険者達はバルゴの案内で、通路に敷かれたレールの上に準備されたトロッコを動かせる様な状態にしていた。

「はい!」

メルラーナがトロッコに向かおうとしたその時。


ドゴンッ!と、後方で何かを硬い物を同じく硬い物で殴り壊す様な重く激しい音がした、其の音は段々大きく成り、やがてオーク達が入って来た通路から崩れた瓦礫毎オーク達が鉱山内に吹き飛ばされて入って来る、吹き飛ばされたオーク達は既に絶命している様だ、其の異常な現象が2度続き、3度目で通路の両脇の壁と天井を、穴が広がる様に吹き飛ばし、土煙が立ち上る、其の中から黒い大きな影が、のっそりとした動きで入って来た。

「な!?何よ!アレは!?」

ノアウィフが指を指して見つめる先に何かが居る様だ、マルラーナは思わず振り返り、其の何かを観察する、土煙が薄れて行き、黒い影だったモノが鮮明に姿を現した。

「…え?…おっきい、オーク?」

其の巨体は、まるでオークの様に太っていたが、余りに違う姿をしていた、身長が3メートルはある、肌は緑色で潰れた様な顔に大きな口、腰に布の様な物を巻いているだけで、それ以外は何も身に着けては居なかった。

「トロル!?何故こんな狭い洞窟に!?」

クルタスが叫ぶ、どうやらトロルと云う名のモンスターらしい。

トロルは知能が低く、ゴブリンやオーク等の知能がある程度有るモンスターが飼いならして労働力や戦闘員として扱われたりするモンスターだ、トロルの群れは存在するが、其処から逸れた者を捕らえて集めているのだろう。

「トロルか、飼育してた奴が此の混乱に乗じて脱げだしたんだろう、知能が低いから忘れがちだが、戦闘能力はゴブリンやオーク共が束に成っても敵わねえ、けど俺達からすりゃ、腕力と再生能力は高いだけの只の鈍間な的だ、大した事は無い。」

オールが簡潔に説明し、冒険者達やバルゴも其の判断に納得している様だったが、メルラーナだけは違う思いを抱いていた、いや、其れよりもトロルを見ている様で、違うモノを見ていたのだ。

「そ、そんな、…あれは。」

遺跡で戦ったゴブリンやオーガの身体の周囲で蠢いていた黒い霧がトロルの身体の周りに漂っている。

「倒せるとしてもなー、構ってる暇なんて無いぞー。」

バルゴは冷静に状況整理をして脱出を促す、冒険者達も其の意見に賛成の様で其々が荷物をトロッコに乗せ始めた。

「メルラーナ!」

「メルラーナちゃん!早く!」

オールとノアウィフに言われ後ろを気にし乍ら走り出す。


「ガッハッハ、先に行くが良い、吾輩が殿しんがりを務めるのである!」

ゴルテスクがメルラーナに道を譲とうとした時、天井に大きな罅が入り、メルラーナの頭上から頭一つ分程の大きな岩が落ちて来た。

「メルラーナ!!」

ガンッ!

咄嗟にゴルテスクが盾でメルラーナの頭を庇うと、盾に岩が弾かれ、粉々に砕け散る。

「あ、有難う。」

「ガッハッハ!無事なら良い!」

しかし追い打ちを掛ける様に天井にヒビが入り。

「!?ゴルテスクさん!危ない!!」

「ぬ!?」

メルラーナはゴルテスクを冒険者達が居る方へ突き飛ばす、ゴルテスクは突然の事で盾を手放してしまい後ろに下がると、立って居た場所に天井が崩れ落ちて来た。

「な!?」

崩れ落ち行く瓦礫の先にメルラーナの姿を捉えるが、崩落は止まる事は無く。

「何て事だ!!メルラーナ!!」

揺れが収まり崩落が止まった頃には通路は塞がれてしまい、メルラーナの生存を確認する事が出来なかった。

「メルラーナ!!メルラーナ!!」



瓦礫の向こう側へ大声で呼びかけるが、通路内は静まり返っており、返事が返って来る様子は無い。

「オール!瓦礫の向こうにメルラーナの気配は有るか!?」

クルタスはオールに向かって叫ぶ、が、オールは俯いたまま、首を横に振った、瓦礫の幅が厚過ぎて向こう側の気配を感じ取れないのだ。

「そ、そんな。」

ノアウィフが膝を崩し、床に崩れる様に座り込む、ゴルテスクは「死んで居ない!死なせて堪るかっ!」と叫びながら瓦礫を掻き分け必死に退かそうとしている、だが、分厚い瓦礫を退かすには時間が掛り過ぎる、向こう側、鉱山内にはあの巨大なモンスターも居るのだ、間に合う筈が無い、しかしそれでも。

「そうだ、必ず助け出す!こんな所で諦めたら、冒険者の名折れだ!!」

クルタスの其の言葉にオールとノアウィフも動く。

「岩なら大地系の魔法で何とか出来るかもしれないわ。」

「真っ向から掘っても時間が掛るだけだ、天井付近の此の辺りから空気の流れが感じる、ここなら少しでも早く掘れる筈だ。」

其々が案を出し、行動に映ろうとする中。

「ミスリル鉱山へは別の通路があるぞー、遠回りになるけど此処を掘るよりは早く辿り着ける筈だー、トロッコを使えばもっと早いぞー。」

バルゴが出した案に。

「「「其れだっ!!」」」

と全員が食い付く。

「そう云う事はもっと早く言うのだ!!」

ゴルテスクがバルゴに突っ込みを入れ様とするのを。

「愚痴を言ってる場合じゃないよ!早く行かないと!」

ノアウィフが止める、その瞳は真っ赤に充血しており、頬には涙を拭った後が見えた。

「すまない、二次崩落の危険性も有るが、案内を頼めるか?」

クルタスがバルゴに頭を下げて頼み込む。

「ドワーフを舐めるなー、任せとけー、それになー、メルラーナちゃんは親方の大事な客だぞー、見捨てる訳にはいかないんだー。」

人命が掛った時の冒険者達の行動は実に早いもので直ぐ様、全員がトロッコに乗り込み、メルラーナを救出する為、別のルートからミスリル鉱山へ向かう事と成った。


一方、メルラーナは…。


「い、たた。」

ゴルテスクが落とした盾の御蔭で奇跡的にかすり傷程度で済んで居た。

「おーい!皆ー!無事ですかー!」

返事は無い、通路は瓦礫で完全に塞がれていた、だが今のメルラーナには皆を心配している程、自身の安全が保障されては居なかった。

「!?」

背後から気配を感じる、そっと振り返ると、あれだけ無数に居たオークは全滅しており、オールがトロルと呼んだモンスターだけが、オークの亡骸の山の真ん中に立ち、メルラーナの方をジッと見つめて居た。

「ね、ねえ君、ひょっとしてあの人達の知り合いか何かなのかな?」

試しに話し掛けてみるが、人語が通じない上に、遺跡で出会った男達の事を簡潔に聞かれても解る筈も無く。

「グオォォォォッ!!」

咆哮の様な叫びを上げ、メルラーナに襲い掛かって来た。


小剣を抜き迎撃態勢を取るが、突進が早すぎて構える隙が無く、メルラーナの目前までトロルが距離を縮めて来た、右手に持っていた棍棒を右上に大きく振り上げ、メルラーナの頭を目掛けて斜めに振り下ろす、それを咄嗟に座り込む事で回避した。

「ひぃ!オールさんの嘘つき!全然鈍く無いじゃん!」

棍棒はメルラーナの背後に有った、先程崩壊したばかりの瓦礫の壁を掠らせ、抉り取る。

「………、こ、こんなの食らったら一発で頭が吹き飛ぶんじゃ?」

想像しただけで眼が点に成り、全身から冷や汗が滝の様に溢れ出す、体勢を立て直して次の攻撃に備えるが、何故か一行に追撃の様子が伺えない、状況を確認しようと試みるが、トロルの図体が大き過ぎて如何なっているのかが全くつかめない状態だった、トロルと壁に挟まれている現状を危険と判断し、追撃が来ない此の機を逃してしまわない様、トロルに向かって左回りで抜け出した時、背後からドゴンッ!と云う岩を殴る激しい音がした、見ると先程まで居た場所にトロルが棍棒が突き刺さっていた。

「な!?何で木が岩に刺さるのかな!?おかしくない!?ねぇ!?」

トロルは棍棒を抜き取り先端を見て、今度は首をゆっくりろ左右に何度も振っている、どうやらメルラーナを探して居る様だ。

「…ああ、鈍間ってこう云う事か、…なら。」

メルラーナは直ぐに行動に移る、トロルの背後へと素早く詰める、近付いてみると大きさが良く解った、メルラーナの目線にトロルの腰の部分が見える、大きさに多少怯みながらも、メルラーナは持っていた小剣で足を切った。

「グォッ!」

切られた足から大量の血が噴き出す、トロルは堪えきれず、膝を地面に付けた。

「やった!」

最初に機動力を奪う作戦は、成功したかに見えたが、足に付けた傷は見る見る内に再生して行く。

「嘘っ!?」

直後に棍棒で横から殴り付けられた。

ガキッ!

咄嗟に小剣で防ぐが、衝撃に耐えきれず、メルラーナは身体毎吹き飛ばされる、其のまま地面を2回程転がって何とか受け身を取った。

「…っ!痛、い、し、手が痺れてる。」

立ち上がろうとするが、膝も笑っている為に中々立ち上がれない、其の間にもトロルはゆっくりと向かって来ていた。

「再生能力が有るって言ってたけど、有り過ぎでしょ!」

フラフラに成り乍らも何とか立ち上がる事が出来たメルラーナの目に、ふと手に持っていた小剣が目に映る。

「………え!?お、折れて無い!?曲がってもいないし!何!?此の剣!凄い!!」

当然といえば当然である、其の剣が乱雑に置かれていたあの部屋は、デューテがアダマンタイトでオリハルコンを作ろうとして出来上がった金属の、言わば出来損ないである、だが、出来損ないとは言え、元はアダマンタイト、其の強度は尋常ではないのだ。


再生能力の高い此のモンスターをどうやって倒せるのかはまだ解らないが、今は自身が生き残る為に戦うしか無い、逃げると云う選択肢もあるが、背中を向けた途端にあの突進をされたら堪ったものでは無いと思い、肚を括った。気を取り直して小剣を構える、真っ向から立ち向かえば間違いなく負けるだろう、最初の突進はどうやら体重に任せたものだったから早く思えたのだ、その証拠に此方に気付くまでに大分時間が掛ったし、一つ一つの動きが遅い、なら足を使って戦うか?しかしまだ先程の衝撃のダメージが抜けていない、膝が笑って居る此の状態で動き回って戦うのは多分難しいと思う、でももうやるしかない、トロルは既に目の前まで来ているのだ。


「よし!」

バシッ!と左手で足を叩き、気合を入れ直してトロルに立ち向かう、正面から突っ込み、トロルは其れを迎撃する為に棍棒を真上に上げ、振り下ろして来た、ドゴンッ!と地面を叩く豪快な音が木霊するが、其処にメルラーナの姿は無い、其れと同時に左の腰の辺りに突然痛みが走る。

「グオ!?」

見ると斬られていた、対して深い傷では無かったが、其処にもメルラーナの姿を捉える事は無かった、更に今度は背中に痛みが走る、次は右肘、その次は腹を斬られた、相変わらずメルラーナの姿は見えない、そして一つの傷が再生する頃には其の様な傷が何か所にも付けられた。

「ハァ、ハァ、う、動け!とにかく動いていれば此方を捕らえる事は出来ない筈。」

メルラーナはトロルの周りを走り回っていた、走り乍ら斬り続けていた、走る、と言ってもそんなに早く走っている訳では無かった、此れが普通の人間相手だったならとっくに対処されていた事だろう、鈍間なトロルだったからこそ、此の戦法が成立しているのだ、戦法、と呼ぶ程のものでも無いが、しかしそれでもトロルを牽制するには十分な方法ではあった、何が起きているのか理解出来ずにいたトロルは、腹を立てたのか。


「グオオオオオオオオッ!!」

まるで咆哮の様な雄叫びを上げる、其の咆哮に思わずメルラーナは足を止めてしまう。

「ひっ!?煩い!?」

思わず耳を塞ぐメルラーナ、其処に棍棒が全力で振り抜かれて来る、間に合わないと思ったメルラーナは無意識に振り抜いて行く方向へ飛び、更に小剣で防御する、棍棒は小剣に衝突し、身体は遥か後方へと飛ばされた。

「ハァ、ハァ、だ、大丈夫、そんなに痛く無い!」

息を切らし乍ら身体の状態を確認し、メルラーナは再び動き始めた。どれ位の時間が経ったのだろう、身体中が悲鳴を上げている、其れでも何とか成る兆しが一向に見えない、メルラーナは只々何も考えずに斬っていた訳では無い、少しでも長い間、ダメージが残る場所を探しながら斬っていたのだ、此れが通常のトロルならば再生が追い付かずにとっくに絶命していただろう、しかし此のトロルは只のトロルでは無い、遺跡で見たあの黒い霧を纏うモンスターなのだ、どうやら此の霧は長所を伸ばす傾向が有る様だった、再生能力が普通のトロルの数倍は跳ね上がっている、とはいえメルラーナがそんな事を知る訳も無く。


「ハァハァ、駄目だ、ハァハァ、倒せる気がしない、ハァハァ。」

メルラーナの身体は限界が来ていた、動きも大分遅く成っている、当然、一方的に斬り続けていた訳では無い、何度も危ない所は有った、実際に数回は真面に食らっている、そんな中で今まで対峙してきたのだ、此のままでは間違いなく勝てない、実は戦い始めの頃に首を落とせば倒せるかも?と考えた、だが向き合ってみると、トロルが巨体過ぎて如何考えても届く気がしない、さっきは足を一度切っただけで再生はされたけど跪かせる事が出来た、ならもう一度同じ事をすれば、とも考えたがあの再生能力の高さでは直ぐに対応されてしまうだろうと思い、結局諦めたのだ。

「お父さんみたいに遠当てに斬撃を乗せることが出来たら。」

それはかなりの高等技術で、当然今のメルラーナに出来る筈も無く。

「ど、どうしよう。」

しかし先程とは状況が大分違う、トロルの方も動きが更に鈍くなって来ている、今なら可能かも?

「やってみる価値はあるかな?…よし。」

メルラーナはトロルの正面から左側、トロルの右側に回り込み背後を取ろうとする、しかし、右手に持っていた棍棒が目の前に飛んで来た、其れを小剣で軌道を逸らす様に受け流す。

「いっ!…っ!!」

逸らしても衝撃は手に来る様で、痛みに堪え乍らも何とかトロルの背後を取り、躊躇無く、今度は両足首を切る。

「どう!?」

トロルは体勢を崩し、両膝を地面に付けた。

「やった!」

しかし再生は既に始まっている、メルラーナはトロルが立ち上がる前に、小剣を水平に薙ぎ払う様に力一杯振り回した、今、メルラーナの目の前に有るのはトロルの首だ、跪かせる事で頭を手が届く所まで下げ、首を斬り落とそうとしたのだ、そして其れは見事に成功する、ドサッ、と鈍い音を立てて首が地面へと落ちた。


「………。」

くびを落とされたトロルは少しすると、完全に動かなく成った。

「………おかしい、こんな呆気なく倒せるものなの?」

メルラーナは警戒を解く事無く、じっとトロルを見つめて居る。

「動かなくはなったけど、霧が消えてないし。」

あの霧を纏ったゴブリンとオーガは、こんなものでは無かった、自分一人で倒せるようなモンスターではないと云う事は、メルラーナは良く知っていたので警戒は解かない。

「…そもそもあの霧と同じなのかな?同じモノだとして、一体何が起こってるの?…此れは、私の周りで起きている事なの?其れとも、………解らない、解らない事だらけだ、それも全部、サーラさんって人に聞けば解るのかな?」

油断した、纏まる事が無い思考が警戒を薄れさせてしまった、更に距離を取ってはいなかった、其れが明暗を分けてしまった。


ドンッ!


急に腹部に激痛が走る。

「かはっ!?」

足で突く様に蹴られたのだ、メルラーナは後方へ吹き飛ばされる、更に瓦礫で塞がれた通路まで吹き飛ばされた、受け身を取る事も出来ずに地面を何度も転がって、漸く止まった所は、トロルに最初に攻撃された場所だった。

「げほっ!ごほっごほっ!」

腹部の激痛に加え激しく咳き込む、苦しみ乍らも目を開けるが、霞んではっきりと周りが確認出来ない、目ではっきりと見る事は出来なかったが、ゴルテスクが落とした盾が傍に有る事だけは解った、激痛に耐えながら盾を拾う、寝転んだ状態なので、真面に構える事も出来ない状態だったが、自身の身を護ろうと必死にもがく、何とか上体を起こし盾を立て掛けて其の影に隠れる様に構える、実際には只盾を置いているだけなので無意味な行動なのだが、生き延びようとする意志から来る行動なのだろうか、しかし、無慈悲にもトロルは既に起き上がっており、首から上は別のモノとして再生されていた、トロルはメルラーナを探し、見つけると、最初の突進同様、いや、それ以上の速度で迫って来る。


ドゴンッ!


何かがぶつかる様な激しい音が鉱山内に木霊する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る