第19話 オリハルコンとアダマンタイト

アダマンタイトでオリハルコンを作る?


………どゆ事?




「オリハルコンとアダマンタイトは別物じゃないんですか?」


当たり前の事なのではあるが、女の子であるメルラーナには鉱物の事など一切解らない、興味が有れば別だが、無い人には只の石でしかない、そんなメルラーナでも、デューテ爺の口から発せられた二つの金属、其の名前だけは何となく聞いた事が有る。


あくまで何となくだが。




「ほっほっ、無論、別物じゃよ、数種類の金属とある鉱物を特殊な加工技術で混ぜ合わせ作られたのがオリハルコンじゃ、対してアダマンタイトは鉱物其の物なのじゃ。」


デューテ爺の簡単な説明な説明を受け、コテンと首を傾げて少し間が空き。




(特殊な加工技術?)


少しだけ、其の言葉に引っかかりを覚えたが、今は其れを頭の片隅に追いやり。


「…えっと、つまり、人の手で作られた金属がオリハルコンで、アダマンタイトは自然界に存在している物、って事ですか?」


メルラーナの発言に、大きく目を見開いてデューテ爺は驚いていた。


「ほっほっ、本当に理解力が高い嬢ちゃんじゃ、大体それで当っておるよ。」


部屋の中に居るというのに、工場で金属を叩く音が止む事無く、鼓膜を震わせていた。




「只、残念ながらオリハルコンを作る為の素材は既に存在しておらんのよ。」


はて?


「材料が無いって事は、オリハルコンって、ひょっとしてもう無いんですか?」


「…ふーむ、オリハルコン自体は無い事は無いんじゃよ?霊装は全てオリハルコンで出来ていると言われとるしのう。」


霊装、又解らない単語が出て来たが、今は話を脱線させる様な事はせずに。


「有るのは有るんですね、じゃあ新しく作る事が出来ないんだ。」


疑問に思った事を、一つずつ確かめて行く。


「其処なのよ、じゃからは元々硬いアダマンタイトを材料にしてオリハルコンを作る技術で加工する事で其れに近しい物を作れないか研究を始めたんじゃ。そして長い、長い研究の果てに、遂にオリハルコンと略同じ様な性能を持つ金属を作り出した成功させたのじゃよ。」


デューテ爺は話しながら一人で興奮して段々テンションが上がって行っている、話自体は難しい事ばかりで頭の中がおかしく成りそうだ。


「残念じゃけど、其れは飽く迄もオリハルコンに近い物で有ってオリハルコンでは無いんじゃけどね、しかも其れが出来た時と同じ加工方法を用いても同じ物は出来なかったのよ、あの時出来た物は、偶然の産物なのじゃよ、奇跡が起きた、としか言い様がないのじゃ。」


先程まで軽い感じで話し、勝手にテンションを上げて話していたデューテ爺が、其の話をしている時だけは、とても悔しそうな表情をしていた。


その時、あれだけカンカンと煩かった鉄を叩く音が、一瞬だけ止り、鍛冶屋の中とは思えないほどの静寂が訪れる。


其の静寂は一瞬で、直ぐに又、鉄を叩く音が周りから聞こえ始めて来た。


一瞬の筈の静寂は、今のメルラーナには何故かとても長く感じた。




「…で、でも一つは作れたんですよね?凄いです。」


「ほっほっ!そうじゃよ、儂等凄いでしょ?褒めてくれて良いのよ?」


良かった、軽い感じに戻った、…良かった、…のか?ん?今、儂等って言った?


デューテは机に置いてあったキセルを手に持ち、枯れた葉っぱを詰めて其れに火を付け、其処から出る煙を思いきり吸い込み、そして吐いた。


「ふぅー、…とは言ったけどのう、本当の所、儂と、儂の古い同士、そしてあのハイエルフ。」


「エ!?エルフッ!?」


ドワーフとエルフは元来、仲がとても悪いと云うイメージを何故か植え付けられていた人にとって、共同で物作りをしたと云う事実は、とても驚く冪事柄であったが。


「いや、此れは今は関係が無いの、話を戻すとしようかの。」


そう言って、再びキセルを銜える。




「悪い言い方をすれば、成功する事が無かった金属は、言わばオリハルコンの出来損ないの金属なんじゃけど、良い言い方をすればアダマンタイトを通常の金属を加工する時と同じ方法、つまり、只溶かして、刃物状の型に流し込み、冷えて固まった刃物状のアダマンタイトと云う名の金属を研いで仕上げただけの代物よりは、遥かに性能の良い物に仕上がっとるのよ。」




「…えっと、つまり?」


此処で要約、頭の片隅に引っ込めていた加工技術の事について聞いてみる。


「加工の仕方で金属の性能が変わるって事ですか?」


「ほっほっ、そう云う事じゃ、同じ金属を使った武器でも、加工方法で出来は違うし、ついでに言うと鍛冶師によってもその性能は違ってくるのじゃよ、各々が自身の技術を持っておって、此の工場に居る儂の弟子達も同じじゃ、今は儂から技術を盗んでおるだけじゃが、何時か儂の技術を越える者が現れるやもしれんの、ほっほっ。


とは言えアダマンタイトの様なレアメタルに成ると下手に手を加えちゃうと失敗作に成っちゃうけどのう、ほっほっ。」




通常の材料であれば、ある程度の決まった方法で加工(デューテの言う其々の加工技術は別として)は可能であるが、レアメタルに成れば、其の加工方法は一つ一つ違ってくる。


アダマンタイトの様なとても硬い鉱物に、通常の加工方法を用いても、正常な金属には成らず、金属アダマンタイトと云う名前だけの只の失敗作に成ってしまう。


勿論、アダマンタイトで作られたオリハルコンは、通常ではオリハルコンには成らない。


先程デューテ爺が最もオリハルコンに近いと言っていた一振りも言い伝えられていたオリハルコンの特徴である、金剛石より硬く、驚異的な魔力吸収率、魔力伝達率を誇り、錆びる事が無く、他の金属より軽いと云う所までは再現不可能だった。


出来たのは金剛石より硬く、少量の魔力吸収率、魔力伝達率と錆びないと云う部分だけである。


だが、それだけでも血の滲む様な努力が必要だったであろう。


アダマンタイトは元々、金剛石と同等の硬度を誇っていた為、其れ以上の硬度にするだけなら、左程時間は掛らなかったらしい、只それではアダマンタイト製の装備品に成る為、更なる改良を加えられたと云う。




「うーん、…オリハルコンじゃないオリハルコン…か、…それって、もう既に新しい金属なんじゃ?」


難しい話が終わり、メルラーナはサラッと思った事を口に出す。


「ほっほっ、いやいや、偶然出来た様な物じゃからのう、まだ新しい金属とは言い切れないんじゃもん。」


デューテ爺は両腕を組み、メルラーナの言葉を受け、否定する。


「そういえば一つ気に成ってた事が有るんですけど、アダマンタイトよりオリハルコンの方が強いんですか?」


二つの有名な超が付く程の希少金属、其の希少な金属アダマンタイトを素材に希少な金属オリハルコンを作ると云う事はそう云う事なのかな?と思い、非常に気に成っていたので質問をしてみた。


「ほ?そんな事は無いよ?性能?機能かの?其の二つの金属は元々の役割が違うんじゃよ、只々、斬って、突いて、叩いて、守るだけならば元々の硬度が高いアダマンタイトの方が優れとるよ。」




当然、硬度が高ければ云いと云う訳では無い、硬度と強度では其の意味合いが違ってくる、例えば武器や防具にする場合、鍛冶師によっては態と硬度を落とし打ち直したりする、そうする事で金属に対して様々な角度から来る衝撃を和らげ、折れ難く壊れ難い、即ち強度の高い金属にするのだ。




「但し、圧倒的な破壊力を持つ反面、とても重いし、ちゃんと手入れしないと錆びる、そしてコレ結構重要なんじゃけど、魔力を殆ど通さないんじゃよ。


使い手を選ぶ存在、主に戦闘に特化した金属、其れがアダマンタイトじゃ。


対してオリハルコンは、とても軽く錆びない、魔力を通し易く貯め易い、使い手によって其の性能、運用方法が変わって来る万能型の金属じゃ。」


「…えと、つまり、一定以上の能力が無いと扱う事すら出来ないのがアダマンタイトで、誰でも扱えるのがオリハルコン?」


「ほっほっ、まぁ大体当っとるよ、そう云う事じゃ。」




一通りの説明が終わるとメルラーナの装備の話に戻る。


「さて、お主の折れた刃を其の金属に変えようかと云う話じゃが、どうするね?」


「いいんですか?そんな貴重な金属を無料タダで作って貰っても?」


「ほ?お金はちゃんと頂いとるよ?」


エアルが先に料金を支払っているし、其のお金はメルラーナの為に使う様、父親ジルラードから預かった為、無料な訳ではないのだが、メルラーナにとっては無料同然なので気が引けてしまっている様だ。


「ほっほっ、気にし過ぎじゃわい。」


デューテ爺は軽く笑って気にするなと促すが。


「…でも。」


自身でお金を稼いで生活していた為か、こういった好意には少し戸惑ってしまう。


「ふむ、そんなに気に成るなら、そうじゃの、鉱山に入ってアダマンタイトを採掘して来て貰おうかの?其れならタダではあるまい?」




こうしてアダマンタイトを取りに鉱山に入る事と成ったのだが。


「勿論どれがアダマンタイトか解らんじゃろうから、案内人が必要なんじゃが、今、皆其々自分の仕事を抱えておってのう、誰か手の空いてる者は居ったかのう?」


そう言って、デューテ爺は座っていた椅子から立ち上がり、大きな空洞の方を向き、隅々まで見渡す。


何度見ても圧倒される大空洞だ。


デューテ爺は其の大空洞を一頻り見渡した後、重むろに通信機を手に取り、誰かに繋いだ。


「へい、親方、どうかしましたかい?」


大勢居る職人の中の一人が繋がれた通信機を手に取り往信する。


「ゴレット、お主、今作業を終えた様子じゃが、まだ何か受け持っとる?」


「いえ、今んとこ何もありやせんよ?」


「良し、お主、悪いけど今から休み取って、明日鉱山に入って来てくれ。」


な、何か凄い無茶ぶりしている様に見えるけど、大丈夫かな?


「へい、了解しやした、ミスリルですかい?」


…ん?ミスリル?ミスリルって何だ?


「うんにゃ、アダマンタイト。」


「げっ、マジですかい、りょ、了解しやした、今から準備してきやす。」


「頼むね~。」


手をひらひらさせてゴレットと云う人を見送った後。


「さて、お嬢ちゃんは今武器ないんじゃもんね、店に戻ろうかの、何か貸してあげよう。」


おお!?クロムウェルハイド製の武器を貸し出して貰えるなんて、何か凄い事に成って来たな。


等と考えながら、デューテの後に付いて行く。

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