張りぼての信頼
剣圧が衝撃波となり、周囲の木をなぎ
ヘビーモスが
ギルバートは、魔術剣片手に
するどい
横に
振りかえったのはほぼ同時。
せまる
ヘビーモスが
「いっけぇええ!!」
ヘビーモスの
すさまじい音と火花が散って、刃が肉に
力の入った魔獣の肉は固い。
すさまじい切れ味を
その瞬間、ひときわおおきくヘビーモスが
右手に残るわずかな
あっと思った時には上空に投げられ、受け身をとって着地したのは、ヘビーモスの背中だった。
「どんな確率だ!」
吐き捨てながら、ギルバートはたてがみを
狂ったように暴れるヘビーモスが、とつじょ走りだした。
おりしも王都の方向で、ギルバートはとっさに術を放つ。
「
ヘビーモスの四方に、高温の炎の壁が現れた。
ひるんだヘビーモスの足が止まる。
周囲を見渡し、警戒のうなりごえを上げた。
「次はとどめを刺す」
太ももでヘビーモスの背骨をはさみこみ、ギルバートは上体を起こす。
「地下の、
入団したての頃、城の
わずかに発動する魔術で、いらだちまかせに
黒ずんだ線はどうみても血で、せっかく思いついたのに書くものが無かったのかと笑えた。
それだけ必死になるのが共感できるほど
あの複雑に
「
気が付くと、力ある言葉がすべりでていた。
「――追加構築、魔力凝縮。
ヴン、と空気が
円形の輪郭が光に
いくつもの小さい
「
十字の入った魔術陣が、ギルバートの瞳と
高濃度の魔力を
その背にまたがるギルバートは、タイミングを
――獣の本能で逃げるなら、つぎの行動は決まっている。
突き進む先には、高温の炎の壁。
ヘビーモスが体を縮ませ、
ヘビーモスが火焔の檻を越える。
ギルバートの耳元で、カチリと全てが噛みあう音がした。
「つらぬけ、
ヘビーモスの胴体を
破壊音が山びことなって、あたりに反響した。
すさまじい爆風が、ヘビーモスから飛び降りたギルバートを巻きあげる。
空高くに投げ出されながら、
急激な魔力消費のために起こる反応であったが、ギルバートはそれを感動に打ち震える
地面にたたきつけられる前に、ギルバートはありったけの風魔術を展開させて落下の勢いを殺す。
楽観的に考え、受け身の体勢をとろうとした体が、いきなり浮上した。
「――まったく、
「エリオット!」
ギルバートを片腕で
空を
「さっさと逃げ帰ってくればいいものを。
背中から聞こえる不服そうな
「えらく
体重をかけようが、
「ご命令どおり、一頭残らず
ついと動くエリオットの
いびつな
「さきほどの魔術は何ですか。はじめて見ました」
「俺もだ。すばらしく美しい術式だった」
「
「おっと、わすれていた」
ギルバートが手を払うと、眼下の
あとにはヘビーモスの丸焼きが残り、ギルバートはたまらず笑いだす。
「上々だな」
「どこがですか。
「イブリースとの融合許可が出ている。――あるていどは目をつぶるということだ」
「
ギルバートが、いぶかしげにエリオットを
「いまさら融合しろとでも? ダイアウルフは残っていないのだろう?」
「ご安心ください。さきほど、
揺らぎもしない、
「さっさと
「……貴方の自己犠牲にも困ったものだ」
「は? あ、そのまえに魔術剣を回収するから、ヘビーモスの近くに下ろせ」
返事はおおきなため息がひとつ。
最短距離で降下した竜が、体重を感じさせない動きで着地した。
ヘビーモスは
それでも
近づくと、焦げ臭いなかに、食欲をそそる匂いが混じる。
刺さったままの魔術剣からは
「焼きたてローストビーフ」
「空腹ですか?
「いらん! ビルゴに食わされたばかりだ。おまえのせいでな」
「それはなによりです」
そっぽを向いたギルバートが、何事かをつぶやく。
魔術剣に水の
歩いてヘビーモスの下半身にたどりつくと、スパン、と長い尾を切った。
あらわになった切断部を見て、ギルバートがうなずく。
「A5ランク」
「ふざけている場合ですか」
「切れ味を確かめただけだ」
そう言って、ギルバートは剣を
「イブリースを
「ひとつよろしいですか」
「ん?」
「その耳の飾りは、いったい何のためにあるのですか」
ギルバートが、
目を伏せ、しばらくしてから喋りだす。
『完全に忘れていた』
『……この距離でお使いになるとは』
『二重に聞こえる』
『そうですね』
魔力を切って、ギルバートが目だけで笑う。
「おまえに助けを求める時に
「……それで
「どういう意味だ?」
「わからなければ結構です。それより」
エリオットが空をにらむ。
「日が落ちると
「人使いが荒いな」
「ええ――貴方がひとこと、疲れたと泣き言を言うならば、話は別ですが」
ギルバートが肩をすくめ、
夕日に染まる彼の背中を、エリオットはまぶしく見つめ、思う。
――彼が俺に助けを求める未来など、
それでも、
「なぜ人を頼らない。貴方ひとりで
このどうしようもない現実を、あっけなく笑い飛ばす。
「頼りにしているぞ、エリオット
言い切り、集中するように目を閉じたギルバートは、場違いなほど
唯一無二の
――俺ができることなど、限られている。
今だって彼が身を
「召喚、イブリース!!」
――足手まといにしかなれないのなら、竜騎士団の
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