「久しぶり。いいことね☆」
喉が痛み、鼻汁も出たので、すわ、コロナか!
と内科に駆け込んだ。
半円形に置かれたソファには、まばらに患者が座っている。受付のカウンターを見ると、左端のほうでテレビがあって、『トムとジェリー』のDVDを流していた(しかし、その場の患者に子どもは一人もいなかった)。
名前を呼ばれたので診察室へ行くと、マスク姿の女医さんが丸椅子に座っていた。
うりざね型の顔をした、印象的な目をした女医さんである。マスクがなければ、美人の内に入るだろう。わたしを見て、少し目を細めた。
「久しぶり。いいことね」
わたしは喉の痛みを少し忘れた。ほかの病院(複数ある)ではわたしは「久しぶり」ではない。ドクターと仲良しになって、年賀状のやりとりまでしている。
しかし、その事実をこの女医さんは知らない。めったにこないわたしの顔を覚えていてくれて、久しぶりに会ったことを喜んでいるのである。
「わたしは、ほかにも呼吸器内科にも通ってます」
わたしは、そう説明した。
すると、女医さんの顔が曇った。緊張した目になり、口調は張りのある声になる。
「だいじょうぶです。呼吸には特に問題はありません」
誠実に仕事をしている人を見るのは、この世知辛い世の中、気持ちがいい。
わたしも、人を喜ばせる仕事をしてみたい。
結局、コロナじゃなくてただの風邪だったのも嬉しかった。
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