第23話・あなたを置いてどこかになんていけない


 彼の背を見送った後、背後のウィリディスを窺った。


「あんなこと言って良かったの? ウィル」

「言わなきゃ良かった? きみは彼を気にしていたから何とかしてあげようかなと思っただけだけど」

「うそね。あなたリィディウスさんについて何か知っているんじゃないの? 知らない振りをして彼を傷つけてしまったからお兄さんを捜してあげるだなんて気休めにしかならないことを言って──」


 私には何となくウィリディスがレブルに真相を話すのを避けたように思われた。



「エリカ。きみはいけない子だ」

「いきなり何? きゃっ」


 横抱きにされて悲鳴をあげれば寝室まで転移されてしまった。静かに寝台の上に下ろされた。


「またきみは僕に黙ってベッドを抜け出した。目が覚めてきみが隣にいないことにどれだけ心配したと思う?」

「ごめんなさい。でももう大丈夫だから心配しないで」

「心配だよ」


 ウィリディスは私の隣に寝転がった。彼がこんなにも過保護になったのには私にも原因がある為、彼を強く拒めない。

 ここに来たばかりの頃の私は深い絶望の中にいた。生きることが辛く思われて悲観してすぐ死ぬことばかり考えていた。目の前に紐があればそれで首をつって死のうとしたり、毒花を見つけて口に入れようとしたり、バルコニーから身を投げ出そうとしたりもした。でも、運良くウィリディスに見付かり阻止されてきた。

 死にたいのに死なせてくれないウィリディスに苛つき、「あなたに私の気持ちの何が分かるのよ」と、あたったこともあった。

 それでいてずっと側にいた彼がいないと不安になって周囲をうろうろと歩き回る。気分にムラがあって落ち着けなかった。今思えば幼児のようだったと思う。


 その私にウィリディスは根気よく付き合ってくれた。そのおかげで私は彼が側にいてくれることに安心を覚えるようになり、異性として好意を抱くようになっていた。

 私が彼に自分の想いを伝えるまでにさらに数年がかかったけどその間も彼はからかう素振りを見せつつ、私が心を開くまで待っていてくれたのだ。

 死ぬ気なんてもうない。彼が心配するような事態にはなりそうにもないのに。


「エリカはすぐ目を離すと僕を置いてどこかに飛んでいきそうな気がして怖くなる」

「私はずっとあなたの側にいるわ。あなたを置いてどこかになんて行かない」


 あなたの不安は杞憂よと言っても、ウィリディスの不安は尽きないようだ。私は心配いらないと彼の体を抱きしめることで気持ちを伝えた。


「でもね、こうしていても不安なんだ」

「どうしたらあなたの不安を取り除いてあげれるかしら?」

「僕が目覚めたときに隣にきみがいてくれればいい」

「分かったわ。これからは目覚めてもあなたが起きるまで待っている」


 ウィリディスの願いは単純なことだった。大して難しいことではない。私は頷いた。

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