061 火氷ダンジョン1

 そこは、氷の世界だった。ダンジョンの中は不思議と明るい。氷の洞窟が続いているようだ。


「慎重に進もう」


 氷の洞窟は静かだった。魔物の気配もほとんどしない。そのせいで気が緩んでいたかもしれない。


「痛っ!」


 シャルが足を押さえてうずくまる。


「見せてください〜!あっ、怪我してるじゃねぇか!ヒール!」


 怪我を見て豹変したロザリーさんのヒールによってシャルは回復した。シャルの足元を見ると氷の薔薇が咲いていた。


「アイスローズだよ。植物の魔物で、人が通りかかるととげつるを巻きつけてくるんだ」


 イーヴァルディが教えてくれる。


「嫌な魔物だね……」


「マスター、ワタシにはアイスローズの棘は効きません。先頭をあるきましょうか?」


「じゃあ、お願いするよ。気をつけてね」


「了解です」


 アルエが先頭で歩き始める。いくつかのアイスローズを見つけたが、アルエが斬りつけて倒す。


 アルエは残った蔓をヒョイとジャンプして跨ぐと、パキンという氷の割れる音と共に地面に吸い込まれた。


「アルエが落ちた!」


 そこには巧妙に隠された落とし穴があった。


「ワタシは大丈夫です」


 アルエは手と足をピッケルのようにして落とし穴の途中に捕まっており、自力で脱出した。


「なんて危険な罠なんだ。アイスローズを飛び越えても次の罠が待ち受けているなんて……」


「ロキよ。ここは罠だらけの階層のようだ。シャルが罠を踏まないか注意したほうがいいぞ」


 さすがサラ、よく分かっている。


「サラ様……そんな事言うなら、もう油はあげません」


「む!?我から油を取り上げるとはひどいぞ」


 シャルが怒りながら一歩踏み出すとパキンと音が鳴った。


「「あ……」」


 シャルとサラの声がハモった。


 ゴロゴロゴロ……


 前方から大きな氷玉が転がってくる。


「逃げろおおおお!」


 その後も数々の罠に嵌まりながら進んで行った。そしてついに1階層の終端までたどり着いた。


「うーん、あたいが前に来た時には、こんなに罠があったかなぁ?」


「僕達の運が悪すぎるってこと!?」


「そこはノーコメントで。さぁ、そこの魔法陣に乗れば2階層に進めるよ」


 みんなで魔法陣に乗って2階層に進むと、そこは灼熱の階層だった。


 壁は燃え上がり、地面からは湯気が出ている。


「熱っ!ここに長くは居られないよ!」


「脱水症状に注意してください〜」


 シャルやロザリーさんの言う通り、この階層は長く居れば居るほど危険度が増していくようだ。


「水がほしい時は言ってね。収納胃袋に大量に入ってるから」


「油、油をくれぃ!」


「油は関係ないでしょ。それにサラは火の精霊なんだから平気なはずだしね」


「どさくさに紛れて油を貰う作戦は失敗だったか……」


「さあ、どんどん進もう!」


 炎の壁に触れないように慎重に進みつつ、出来るだけ急ぐ。炎の洞窟を抜けると、大きな湖が現れた。湖と言っても水ではなく、マグマだ。


 そして、幅10センチほどしかない橋がかかっている。距離は30メートルはある。


「うわぁ。これは無理じゃない?」


「あたい達の目的地はもっと先の階層だよ。この階層では、勇気を試されているって爺ちゃんが言ってたよ」


「行くしかないね。ロープでお互いを結んで誰かが落ちそうになったら助けるようにしよう」


 ロキが先頭で橋を渡り始める。10メートルほど進んだ時、マグマの湖面が大きく膨らんだと思ったら魚の形をした魔物が飛び出して襲いかかってきた。


「【死盾デス・シールド】!」


 なんとか死盾で弾き返すことが出来た。


「溶岩の魔物!?」


「あれはマグマフィッシュだな。溶岩を吐いてくるから気をつけろ」


 サラが忠告した直後、マグマフィッシュが湖面から飛び上がり、溶岩を口から放出する。


【死盾】か【死鎧】どちらを使うべきか悩んで躊躇ちゅうちょしてしまった。その一瞬の気の迷いによって溶岩はすぐそこまで迫っていた。


「仕方がない。我がやろう」


 サラがランプから飛び出して溶岩にぶつかる。すると、溶岩はサラに吸収されキレイに消え去った。


「うむ、溶岩もなかなか美味いな」


「サラ……助かったけど、溶岩食べたの?」


「火の精霊だからな」


 火の精霊はそういうものなのだろうか。それともサラが変なのだろうか。永遠の謎である。


 マグマフィッシュの攻撃をなんとかやり過ごし、無事対岸に着いた。


 順調に橋を渡ったが、まだ溶岩上の道は続いている。そして次の道はジャンプしてギリギリ届く足場が点在する道だった。


「嘘でしょ?ここをジャンプするの……?」


 シャルが絶望の表情で言った。


「命綱は逆に危険かも。切っておこう」


 命綱なしで次の足場にジャンプする。最初のジャンプには勇気が必要だったが、2回目からは慣れてきた。


 次々とジャンプを繰り返していると


「あっ!」


 というシャルの声が聞こえて振り返る。そこにはシャルがバランスを崩して溶岩に落ちつつある瞬間だった。


「危ない!」


 叫んでもどうしようもないが、他にやりようがない。シャルがそのまま溶岩に落ちる未来が脳裏をぎった。


 しかし、アルエの手すりに変化した腕が伸び、シャルはその手すりに捕まることでなんとか助かった。


「アルエナイス!」


「うわーん!死んじゃうかと思ったあああ!」


「だから気をつけろと言っただろう」


 なんとか対岸まで着くと、炎の通路となっており、炎の通路を抜けると、次の階層に進む魔法陣があった。

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