第20話 衝立の向こうの貴女。 side レオナード
いつもの衝立越しのお茶会。衝立の向こうには、ツェツィーリエ嬢がいる。
「レオナード殿下」
「なんだ」
「婚約者をお探しだと、お義父さまからお聞きしました」
その話を、どこで!動揺のあまり、大きく息を飲む。
「私、レオナード殿下とお話することが好きです。豊富な知識をお持ちで、でも頭でっかちにならない、柔軟で公正な視点をお持ちなレオナード殿下と話していると、私は新しい気づきを沢山得られましたわ」
ツェツィーリエ嬢が唐突に語り始める。僕には分からないが、何か意図があるのだろう。
だが、ツェツィーリエ嬢がそんなことを思ってくれていたとは。頬が緩むのを感じる。
「そんなレオナード殿下なのに、他人どころか、ご自身の気持ちにもちっとも気が付かなくて。私は、自身が寂しかったことに初めて気が付いて、心細そうにしているレオナード殿下を抱き締めて、大丈夫だと、そう言って差し上げたくなりました」
「え……」
想像もしていなかった言葉に、口から戸惑いの声が出る。ドクン、と心臓が大きく跳ねたのが分かった。
「レオナード殿下には、ハッキリ言わないと伝わらないと思いますので、言いますわね」
ツェツィーリエ嬢の言葉に、何を言われるのか怖くて、でも最後まで聞きたくて、ソワソワと落ち着かない体を無理やり抑え込む。
「私は、レオナード殿下をお慕い申し上げております。私のこの気持ちがお嫌でないのなら、どうか婚約者にしてはいただけませんか?」
その言葉に、歓喜のあまり叫び出しそうになるくらいの衝撃が走り、ソファーから、落ちた。
「レオナード殿下!?」
「だだだ、大丈夫だ!」
ツェツィーリエ嬢が声を掛けてくれるが、嬉しくてソファーから落ちただなんて悟られたくなくて、平然を装う。
「ツェツィーリエ嬢」
「はい」
「貴女は、私の姿を見たことが無いだろう。それなのに、そんな事を言ってしまって後悔はしないか?」
僕の声は、先程までの喜びを感じさせない程に暗く沈んでいたことだろう。
「それを言うなら、レオナード殿下も私の姿はお知りではないでしょう?」
「私は姿など見なくても、ツェツィーリエ嬢を好ましく得がたい女性だと思っている!」
「まぁ、嬉しい」
胸の内を思わず晒してしまい、またそれを肯定してくれるツェツィーリエ嬢に嬉しくなり、咳払いで色々と誤魔化す。
「私は、ツェツィーリエ嬢と婚約することに否はない。むしろ、その、好ましいと思っているのでこちらからお願いしたいくらいだ。だが、ツェツィーリエ嬢は違うだろう」
「私とレオナード殿下の何が違うと言うのですか。そんなにご不安なら、先に婚約の書類を書き上げてしまいましょうか?レオナード殿下がそれで安心できるのならば、私はそれでも一向に構いません」
どこまでも、僕のことを肯定してくれるツェツィーリエ嬢。
「本当に後悔しないのか?」
「えぇ。私はレオナード殿下、貴方様の心の有り様をお慕いしているのです。外見がどうであろうと気にしませんわ」
「そうか」
「ええ」
ツェツィーリエ嬢に勇気付けられ、僕は言った。
「ツェツィーリエ嬢、衝立を越えてもいいか?」
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