第1818話 次の面接は「男爵」カテゴリーのマシロ命さん




 ミツルとソアの面接が終わると、次もオススメ枠。

 マシロからのオススメである「男爵」カテゴリーの女子だ。


「ゼフィルス先輩、もういいでしょうか?」


「おうマシロ、入ってもらってくれ」


「失礼しまーす。ささ、シオンちゃん入ってください」


「マシロありがとう、ここまででいい」


「ちゃんと全部付き合いますよ! フンスです!」


「ううん、普通は外で待ってるものなの。マシロの気持ちはありがたいけど、待ってて?」


「そうですか?」


 今回、珍しく保護者付き?

 推薦者マシロがくっついて来ていた。いや、これは単にマシロがやる気になっているだけだな。


「マシロ、とりあえずその子だけ入って来てもらっていいか? 色々話を聞きたいんだ」


「はい! ゼフィルス先輩、シオンちゃんはいい子なので、よくしてあげてください」


「約束は出来ないが、約束しよう」


「どっちなの? あ――」


「お!」


 今ツッコミ入れたの、シオンという面接に来た女子だよな? もしかして、ツッコミ属性持ちなのだろうか?

 自分が言ったことに気が付いて片手を口に当てて「私、何も言ってませんよ」アピールしている。いや、そのポーズの時点で全く隠せていない。ボケ属性もあり?

 これはじっくり見る必要がありますね。


「それじゃあシオンちゃん、終わったら連絡してね」


「…………」


 マシロが帰っていくと、途端になんだか寂しくなった雰囲気。

 シオンという女子、マシロとはかなり仲が良いっぽい。


「それじゃあ、とりあえず面接者のシオン。そちらの席に座ってくれ」


「失礼します」


 なんだか色々と手順をすっ飛ばしたような気がしなくもないが、とりあえずシオンが座ってから自己紹介だ。


「まずは自己紹介からしよう、俺は〈エデン〉のギルドマスターをしているゼフィルス。こちらはサポートのミサトだ」


「よろしくね」


「私はシオン。〈戦闘課新学年〉から進級し、来年度は2年生になります。よろしくお願いします」


 第一印象はクール。

 白に近いが薄く青みがかっている髪をボブくらいに伸ばし、一部が三つ編みで光沢のあるバレッタを2本付けていた。瞳は黄緑系だ。

 身長はそこそこ大きくサチたちと同じくらいだろう。


 しかしクールキャラか。

 濃いメンバーの多い〈エデン〉でも珍しい属性だ。シエラにシズ、メルトなんかが該当するだろうか? いや、メルトはああ見えて心の中では熱い情熱が滾っている。

 やっぱりクールキャラは珍しい。


 さらに先ほど見せた片鱗、もしかしたらシエラのようなツッコミ属性を持っているのかもしれない。

 これも後輩に引き継ぐ必要があるだろうか?

 マシロがラナの弟子ポジションだし、シオンもシエラの弟子ポジションになるだろうか。クール系ツッコミの。


 そんな考えを頭の中で巡らせる。


「それじゃあ私から質問するね。〈エデン〉の志望動機はなにかな?」


「最初はマシロが心配だったです。あの子ぽやぽやしているところあるし、SSランクギルドに所属してやっていけるのかと思って」


「気持ちはすげぇ分かる。でもやっていけてるんだよなぁ」


 マシロはラナの弟子である。もうね、メキメキ成長してるよ。

 この前の〈SSランクギルドカップ〉でも第1回戦から〈サクセスブレーン〉の現ギルドマスターのナギを倒すのに大きく貢献するなど、大活躍だったからなぁ。

 でも心配なのは分かる。個性の濃い子が多い〈エデン〉でも結構普通寄りの子だし。純粋だし。


「私はあの純粋さに救われた。絶対にマシロの純粋さは失わせてはならない。私がマシロを守る」


「マシロ主義者か!?」


「は! マシロ主義、言い得て妙かも」


 俺がうっかりツッコんだら、むしろ納得の表情をされた。

 この子、マシロが大好きすぎる。だが、〈エデン〉に入るには大きな問題になるな。


「だがそれだと加入は難しいな」


「なんと?」


「なにせ、これは下部組織ギルド〈エースシャングリラ〉の募集だからな。マシロの居る〈エデン〉とは、交流はあっても色々と別行動だぞ」


「それに、マシロちゃんもシオンちゃんもヒーラーだから同じパーティになれることはないんじゃないかな?」


「ぴえん」


 今ぴえんって言ったぞこの子。やっぱりボケ属性なのだろうか?


「ミサトの言う通りだな。聞いた話では、あの海姫を目指しているんだろ? あれは完全にヒーラー特化だからな。マシロとはほぼ確実にパーティになれないぞ」


「そんなー」


 うん。なんだか少し楽しくなってきた。面白い子が来たな。

 面白い子は大歓迎だ!


「安心してくれ、マシロは俺たちが責任を持って預かるから」


「うんうん。マシロちゃんの純粋は私たちで守るよ! 私たち〈エデン〉もね、マシロちゃんの純粋は尊いものだって思ってるの! まあ、ちょっと最近魔改造されてラナ殿下寄りになっちゃってるけど」


「え? 最後の聞き取りづらかった。もう1回プリーズ」


「たは!」


「笑って誤魔化した」


 うんうん。マシロは純粋にどんどん強くなってる。なんの問題も無い。


「しかしマシロが心配だからという理由で入るにはちょっと厳しいな。他に志望動機とかないか? 強くなりたいとか成長したいとか強くなりたいからとか」


「今強くなりたいって2回言った……」


 ふむふむ。ツッコミは悪く無い。やはり悪い人材じゃないな!


「この前の〈SSランクギルドカップ〉、1回戦敗退だった。ギルドは解散。最上級生は目を点にしながら卒業していった。弱いのは嫌かも」


「そうだろうそうだろう。そうだろうとも。そこは安心してくれ。この〈エデン〉がサポートし、強くしてみせる! もちろんギルドに入った暁には〈上級転職チケット〉も用意するぞ!」


「〈上級転職チケット〉! 凄い」


「だが、それを与えるには約束してほしいことがある」


「まさか、私の身体?」


「あ、ここ以外じゃそのボケ禁止ね。下手をすると、いや、しなくても物理的に危険だから」


「分かった。もうしない」


「素直!」


 俺が振ったらまさかの身体! もちろんボケだと分かってはいたけれど、ミサトからガチめな禁止を言い渡されてスッと背筋を伸ばすシオン。マジクール。


 ちなみにシオンの身長はシェリアくらい。だが、その胸部装甲はなんとリーナよりも大きい気がするという、ちょっと顔以外に視線を向けたら危険な雰囲気を持っている。

 身体言われたとき意識して視線を顔に向けてなかったら危なかった。危険! ミサトが禁止にするのも分かる。これでクール系ヒーラーとかね、やばいですよ。


「こほん。約束してほしいというのは、ギルドの一員として自覚を持ち、共に切磋琢磨することだ。まあ普通のことだな」


「? それだけ?」


「これが結構大変だぞ? 俺たち〈エデン〉は、〈エースシャングリラ〉をSランクギルドにしたいと思っている。シオンもその一員になる。強くなりたいのなら俺たちが強くしてやる。だからシオンもSランクギルドにふさわしい成長を遂げ、将来〈エデン〉を支えてあげてほしい。もし優秀な成績を残せたのなら、俺たちの卒業後は〈エデン〉に配属し、マシロと同じギルドメンバーとなれると約束しよう」


「入ります」


「決断はっや!」


「大丈夫。しっかり考えた。マシロをあそこまで育ててくれた〈エデン〉は信用できるし、私もマシロに追いつきたい。一緒にギルドをもり立てていきたい。力不足でできないと判断したらいつでも脱退させていい。お願いします」


 そう言ってペコリとクールに頭を下げてくるシオン。

 そこまで覚悟が決まっているのならいいだろう。俺はミサトとアイコンタクトを交わして頷いた。


「そこまで覚悟が決まっているのならよろしい! 採用だ」


「!! ありがとうございます!」


「まずシオンは〈エースシャングリラ〉の一員となってSランクギルド員並の実力を身につけてもらうからな。覚悟しておいてくれよ」


「望むところ。1年でマシロに追いついてみせる」


 よし、いいな。

 マシロがシオンに何をしたのかは知らないが、一緒に立って歩きたいという目標はとても良いものだ。

 きっとシオンも〈エースシャングリラ〉をもり立てていってくれるだろう。

 まあ、同じヒーラーだからパーティは同じにはなれないだろうけどな。

 最上級ダンジョンのようなレイドなら一緒だし、問題は無いだろう。


 これで3人が決まったな。

 この3人はポジション的に採用寄りで面接していたので即採用を言い渡してしまったが、次からはしっかり検討を重ねる。


 その後もギルドメンバーのオススメ枠や推薦枠、そして最後に選抜を勝ち抜いた応募枠の中から、その日のうちに10人を見繕うことが出来たのだった。


 よし、〈エースシャングリラ〉、本格始動だな!




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