第1085話 はい。全員揃いました! では出発です!




 次に到着したのは、〈カオスアビス〉だった。


「お初にお目に掛かるんだね。〈エデン〉のゼフィルス君なんだね? 僕は〈カオスアビス〉のギルドマスター、ロデンなんだね」


「こちらこそ初めまして、でいいのかな? そういえば後夜祭では挨拶し損ねたんだっけ」


「そうなんだね。こっちもあの時は壊滅的被害を受けて大勝利と喜べる状態じゃなかったんだね」


「じゃあ、今回こそ大勝利と喜ばないとな」


「だねだね。今回はお世話になるんだね。よろしくお願いいたしますなんだねゼフィルス君」


「こちらこそ」


 独特の話し方をしながら登場したのが〈カオスアビス〉のギルドマスター、二つ名を〈悪食のロデン〉で知られている。この学園では〈吸星〉と並んで【大罪】系の職業ジョブ【暴食】に就く1人だ。


 見た目は黒衣を着る普通の熊人男子だ。いや、「熊人」にしては結構小柄だな。

 よく喋る姿とは裏腹に表情には生気が薄く、まぶたは下がり気味で目にはハイライトが無い。髪は若干男子にしては長い黒髪と黒目をしていた。ダーク系男子?


 とはいえ何か問題を起こす人物であればギルドマスターなんてこの学園ではできないのでまともな人なのだろう。

 俺はロデン先輩ともグッと握手を交した。


「ゼフィルス、今日は俺も同行させてもらえることになったんだ。よろしく頼む」


「おおハイウド! 久しぶりだな!」


「ふふふ、ハイウド君はすごいことになったんだね。それもこれも〈エデン〉が機械のパーツを優先的にハイウド君へ売ってくれたからなんだね。感謝しているんだね。〈カオスアビス〉は新たな上級職の風を入れられて万々歳なんだね」


「お、え? ハイウドも上級職になったのか!?」


「ああ。おかげさまでな。いや、本当に機械パーツをたくさん売ってくれて感謝している。あれのおかげで強くなれたんだ」


「マジか! おめでとうハイウド!」


 なんと【サイボーグ】のハイウドがいつの間にか上級職になってた件!

〈エデン〉としてはいらない機械パーツ、〈錆びた〉系の良い引き取り先くらいに思って売りまくっていたのは内緒にしておこう。

 売値も安いなんてことはなく、ゲーム〈ダン活〉時代の売値そのままだったが、リアルは〈銀箱〉産でも高い金額で取引されているからな。結果的に良心的な金額になっていたんだ。

 それに錆びている未強化のパーツってそもそも買い取り金額が安いのもある。


 しかし、それでハイウドの助けになったのだから良し。まずはお祝いの言葉を贈る!


「ちなみにだが、職業ジョブは【サイボーグ完全体パーフェクト】か?」


「! ああ。さすがはゼフィルスだ。すぐにわかってしまうか」


「ふふふ、後で彼の力も存分に発揮してもらうつもりなんだね。楽しみにしていてほしいんだね」


「そりゃ楽しみだ!」


 いやぁ感慨深い。

 ロデン先輩の言うとおり、後でハイウドの力を存分に見せてもらおう。


 ちなみに他の3人の中にはキールとジェイはいなかった。

 多分、まだ下級職なので連れてこなかったのだろう。


 とそこへ話に入って来たのが〈ミーティア〉のサブマスター、マナエラ先輩だった。


「ゼフィルスさん、〈カオスアビス〉には装備を安く売っていたのかしら?」


「ん? ああ、所謂お友達価格ってやつでな。と言っても売ってたのはハイウドだけだが」


「そう。ちなみにだけど、〈エデン〉にはまだ上級装備って残っているのかしら? 〈ミーティア〉のメンバーではまだ装備が調っていない子がいて、私たちにも上級装備を売ってくださると嬉しいの」


 そうマナエラ先輩がちらりと見た後ろのメンバー3人は、確かにまだ装備が調っていなかった。上級装備不足だな。

〈エデン〉では先日から大量の上級装備を販売し始めたが、最近まで上級ダンジョンが開放されていなかった影響でまだまだ学生に上級装備が行き届いていないのが現状だ。


 なるほど、これは少し考えておかないとな。


「今日は無理だが、これからのことを考えると優先的に合同攻略メンバーに回したいところだな。よし分かった。後日〈エデン〉が持っているよさげな装備を用意しておこう、もちろんお値段も良心的価格だぜ?」


「ありがたいわ。よろしくお願いするのだわ」


 今日はもう時間も午後だし、行けるのは浅い層までだからこの装備でも問題はないが、深い層に行くならば心許ない。

 なので〈エデン〉が乱獲――じゃなかった、ドロップさせまくった装備を売って装備を調えてもらうことで話が付いた。


 マナエラ先輩とこんなに話すのは初めてだが、なかなかに深い見識を持っている様子だ。そして美人。これはちょっと手助けしたくなってしまうね。


 その後、〈ミーティア〉に装備を売るという話が広まると、〈ギルバドヨッシャー〉、〈サクセスブレーン〉、〈カオスアビス〉も手を挙げる。


「ゼフィルス氏! ならこちらにも、こちらにも売っていただけるとありがたい!」


「こちらにも是非融通してもらえないか?」


「パワーアップなんだね」


「オーケーオーケー、みんな後日〈エデン店〉に来い! 俺がみんなの装備を見繕ってやるぜ!」


「「「「おお!」」」」


 そう約束すると超盛り上がった。ふはははははは!

 みんなやる気増し増しなんだぜ!


 そんな感じに士気が高まっているところ、最後にやってきたのは〈集え・テイマーサモナー〉だった。


「ゼフィルス君来たよー! なんか超盛り上がってるね!」


「お待たせしました」


「ゼフィルス君さっきぶりです~! よろしくお願いしますです!」


「おお、カリン先輩、エイリン先輩。それにアニィも、待ってたぜ」


 登場したのはギルドマスターカリン先輩とサブマスターエイリン先輩、【モンスターブリーダー】のアニィと他2人の女子たち。


「あと紹介するね。この子がうちの元ギルドマスター、現3年生のメル先輩です」


「メル」


「おう。よろしくな。ゼフィルスだ」


 挨拶短っ! ダウナー系かな?

 カリン先輩から紹介されたのは、カリン先輩よりもだいぶ小さいロリッ子、ローブとフードを被った3年生の女子の先輩だった。

 やべぇな。マリー先輩と同レベルの小ささだ。まさか3年生にもこんなロリッ子がいただなんて!


 あと名前がメルってまたややこしくなったな。ルル、メルト、アルル。と似たような名前が多い。この世界ではメとルが付くとロリかショタになる法則でもあるのかな?

 事実だとしたらすごい法則だ。


 間違えないように気をつけないと。


「呼ぶときはロリ先輩で良いよ」


「よくない。メルって呼ぶ」


「オーケーオーケーわかったよ。しかし3年生ってことは就活はいいのか?」


「私、〈五ツリ〉使えるから」


「マジか」


 なんとメル先輩は五段階目ツリーが使えるらしい。おそらくツリーの条件を満たして獲得したのだろう。つまりはLV30になっていないので1つ使えるという状態。

 しかし、五段階目ツリーのスキルが使えるという事実は大きく、メル先輩の就活はすでに終わっているらしい。そのためこの催しに参加した様子だ。


 一応、LV上げを目的にしているので、できれば2年生や1年生をメインにしたかったが、3年生が参加してはいけないということはない。上級職が3年生しかおらず他のメンバーがみんな下級職、なんてギルドは少なくないからな。


「でもメル先輩が参加出来て良かった~。うちって上級職5人しかいないんだけど、1人来られなくなっちゃってさ」


 カリン先輩がホッと胸をなで下ろしていた。

 上級職が少ない。それが〈集え・テイマーサモナー〉が元Bランク非公式ランキングで第八位にいた理由だ。


「それと、一昨日ぶりだなアイシャ」


「ええ。今日からよろしくねゼフィルス君」


 最後の1人は俺のクラスメイトにして【シャドウ】の職業ジョブに就く、アイシャだ。1人だけ下級職ではあるものの、モンスターのサポートをメインに動くので問題無いとのことだ。


「そういえば例のアレは順調なのか?」


 アレとは〈ピュイチ〉と〈ワイバーン〉、そして〈ベヒモス〉その他諸々の計画のことだ。


「いや~、大きい声じゃ言えないけれど――実は〈ベビーワイバーン〉の2体目が出来たよ」


「マジか! スゲぇなおい(小声)」


 先週には1体目が〈ベビーワイバーン〉への進化条件を満たしていたはずだが、もう2体目を進化させ終えているらしい。〈集え・テイマーサモナー〉の動きが早い!

 この分なら来週には3体目が出来るのかな?


「もちろん〈ピュイチ〉と〈ベヒモス〉計画も順調よ。後は上級職が増えれば量産も出来ると思う」


「その研究結果は今日見せるよ!」


〈集え・テイマーサモナー〉が優秀すぎる!

〈ベビーワイバーン〉以外のモンスターがまだ出来ていないのは単純に人手不足だからだろう。

 なにしろ〈集え・テイマーサモナー〉は上級職が少ない上にテイマーはカリン先輩とアニィともう1人の計3人しかいない。

 なら、空が飛べる〈ベビーワイバーン〉を優先するのは正解だ。


 しかし下級職でも使える〈ピュイチ〉計画は順調とのことだ。

 そっちも見てみたいなぁ。


 そうだ、エイリン先輩に渡すものがあったんだ。


「それとエイリン先輩、例のもの出来てたぜ。預かってきた」


「! 本当!?」


「おう、これがその〈ベビーワイバーン〉のぬいぐるみだ」


「わ、わぁ!」


 さっきフラーラ先輩から預かったエイリン先輩ご注文の〈ベビーワイバーン〉のぬいぐるみだ。

 モデルはカリン先輩が持っている1体目の〈ベビーワイバーン〉。

 注文したとき色々スキルで投影していたからな。

 かなりそっくりに作られていた。


 エイリン先輩はそれを見てご満悦だ。


「よかったねエイリン!」


「エイリン先輩、おめでとうございます!」


「うん! これで上級ダンジョンでも戦えるよ!」


 エイリン先輩は【ドールマスター】。

 しかし、今まで上級ぬいぐるみが無かったせいで上級ダンジョンでは苦戦していたらしい。

 それが解消できたため非常に嬉しそうだった。


 良きかな。良きかな。

 俺もフラーラ先輩を紹介した甲斐があるってものだぜ。


 もちろん仲介料はいただいています。

 その辺はしっかりやっている。主にセレスタンが。


「さて、これで揃ったかな」


「あれ、学園公式ギルドがまだ来られていないようですが?」


「ああ、今回同行する学園公式ギルド〈ハンター委員会〉だが、実はダンジョン内で待ち合わせしているんだ」


 アイギスの問いに答える。

 なんか前もあったなこういうの。

 あの時も〈山ダン〉だった。


 おかげで今は〈ハンター委員会〉は〈山ダン〉をテリトリーとしており、学園のギルドでもっとも〈山ダン〉に詳しくなっているらしい。

 あの時入ダンするダンジョンを〈山ダン〉に決めたのは間違いじゃなかったようだ。




「さて挨拶も終わったし、早速――インサー先輩その話俺も混ぜてー!」


「もちろん大歓迎だぞゼフィルス氏」


「あ、ああ。一緒に語り合おうじゃないか(ひぃ!〈エデン〉のギルマスまで来ちゃった!?)」


 俺は〈ギルバドヨッシャー〉と〈サクセスブレーン〉の話に参加することにした。しかし。


「なるほど、シエラさんがいつもやっているお役目が、どれほど大切か分かる場面ね」


「はい。私もシエラさんをとても尊敬しています」


 タバサ先輩とアイギスのそんな声が聞こえたかと思うと、両腕に違和感。

 ん? あれ? 俺、いつの間にかタバサ先輩とアイギスに掴まれてる?


「ご主人様~、私たちをほっぽっといてどこに行くのかしら~」


「教官。ダンジョンに行くって私たちを誘ったのに放置するなんてどういうことですか?」


 ! エリサとフィナまで腰に抱きついてきました。


「げふんげふん。さて、遊ぶのもここまでにしよう。全員集まったことだし、今からダンジョンに行くぞ!」


「ゼフィルス氏!?」


「案ずるなインサー。まだ時間はたっぷりある。確かに聞き出したいことの1割も聞き出せてはいないが、後でまた聞けば良いのだ」


「ふ、そうだなオサムス。俺としたことが、少し焦りすぎていたようだ」


「あ、ああ。話はまた今度にしよう。今回はダンジョンが優先だ(いえ、もう結構です。今度と言わず永遠に来なくても構わないから!)」


「微混沌の香りがする」


 インサー先輩もサブマスターのオサムス先輩の説得によって無事ダンジョンに向かうことを思い出してくれた様子。

 こうして俺たち一行は上級下位ダンジョンのランク3、〈山岳の狂樹ダンジョン〉通称〈山ダン〉へ向かうのだった。


〈上下ダン〉へ入るとまたざわめきが起こる。


「は? はあ? はあああ!?」


「なんだあの集団は!? というか先頭にいるのがあの勇者さんなんだけど!?」


「その後ろに付いていくギルドがヤバいぞ!?」


「ぎ〈ギルバドヨッシャー〉!? 〈ミーティア〉のメンバーもいるぞ!?」


「〈悪食のロデン〉だ!? 〈カオスアビス〉がいる!?」


「Aランクになって日が浅いが〈サクセスブレーン〉と〈集え・テイマーサモナー〉のメンバーも見えるわ」


「俺、こんな光景見たことある気がする」


「実は私もよ」


「あれは冬休みのことだ。冬休みが始まったかと思ったらとあるギルドたちの合同攻略が始まって、冬休みが明けたときには全てが終わってた」


「たしか、今日からダンジョン週間だったよな。まさか……」


「ダンジョン週間が終わったときには、全てが終わってる?」


「混沌!」


「おい、今集団から混沌って声がしなかったか?」


「気のせいだろ。混沌野郎があの豪華メンバーにいるわけがない」



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