第985話 〈エデン〉VS〈氷の城塞〉決着――最後の戦い!




〈氷の城塞〉のギルドマスターレイテルは攻める方が得だと判断した。

 吉ではなく得と判断した理由はこれが〈表と裏の戦乱〉の拠点の取り合いで、それが終わったと同時に試合が終了するからである。


 つまりはこの場では勝っても負けてもAランク昇格がほぼ確定しているので、ならやらないよりやった方が得だよねと、そういうことだ。

 貴重な〈エデン〉との戦闘を間近で見て感じるチャンスでもあり、攻めない理由は無い。


 それに、ここまで〈表と裏の戦乱〉を追い詰めたのは〈氷の城塞〉であり、漁夫の利を渡すのが悔しいという思いもあって、〈氷の城塞〉は勝負を仕掛けた。

〈エデン〉が〈表と裏の戦乱〉を相手にしている隙に側面から拠点を奪う作戦だ。


〈エデン〉はギルド〈表と裏の戦乱〉の拠点にすでにたどり着いていて、慌てて戻ってきた〈表と裏の戦乱〉のメンバーを返り討ちにしている状態。

 ここで飛び込んだら〈氷の城塞〉も〈表と裏の戦乱〉と同じ運命を辿るだろう。


 なので、〈氷の城塞〉は別ルートで拠点へ回り込むことにする。〈氷の城塞〉しか進めないルートだ。

 それは水上。

 ギルド〈表と裏の戦乱〉拠点の西側は池が隣接している。


 池は落ちると泳げないかぎり戦闘不能扱いで即退場する恐ろしい環境だ。

 ならば落ちなければいい。

〈氷の城塞〉がしたことは単純明快。池に氷の道を作り回り込んだのだ。


「『氷河道』!」


 先導するのはやはりギルドマスターレイテル。

 城主は道を開拓するのも仕事の一つだ。そんな訳でこうして水の上に道を敷くスキルを持っていたりする。


 実は構想はあったのだがギルドバトルでこれを使うのはこれが初めてだった。

 ギルドバトルで実戦する機会としてもこの戦いは得だと言える。


「回り込むわよ!」


「「「「おおおお!」」」」


「バカ! もっと小さな声で返事なさい。下手に刺激しちゃうじゃない!」


「「「「ぉぉぉぉぉ!」」」」


 池から回り込むことで、もし万が一〈エデン〉が〈氷の城塞〉拠点に攻めたとしても、〈表と裏の戦乱〉を〈氷の城塞〉が落とす方が早い。いずれにしても勝ち抜けるだろう。

 この攻撃に対して〈エデン〉がどういう対策を取るのか、それを見て経験するのが狙いだ。格上のギルドにこういう奇策が通じるのかを知る意味もある。

 負けは無いからこそ出来る大胆な作戦だった。


 とはいえ危険度は高い。


 ここは水上、まさに薄氷を踏んでいるに等しい。というかそのまんまだ。

 こんな場所で襲撃されれば池に落っこちて退場すること間違いなし。

 ただ、陸上からはかなり距離をとって迂回しているのでそう簡単に攻撃が飛んでくることは無いだろう。そう思っていたのだが。


「『インパルススラストキャノン』!」


 ――普通に攻撃が飛んできた。


「! 前方防御!!」


「!!! 『ブレイクシールド』!」


「!!! 『アーマーガード』!」


「「「「うおおおおお!?」」」」


 突如攻撃が襲来、〈氷の城塞〉を襲ったのだ。

 しかもその威力は下級職のレイテルが即座に無理と判断するような強力なものだった。

 2人の屈強な上級職のタンクが割って入って防御し、それでも大きくダメージを受けるような攻撃。

 衝撃波が発生し、何人かが氷の上ですっころんでスリップダウンしていた。

 しかし、なんとか『氷河道』は無事。池に落ちた者が皆無だったのは不幸中の幸いだが、まだまだ安心出来はしなかった。


 攻撃が来た方向からとんでもないものが接近していたからだ。


「なんだ、ありゃ」


「船?」


「水上戦用に船を持ち込んだのか!?」


 それが来たのは〈表と裏の戦乱〉の拠点がある場所とは反対方向。

 西から悠々と水上を走ってくる船が一隻。

 しかもまだかなり距離があった。マスで言えば2マスくらい離れている距離、にも関わらずあの威力だ。減退されていない攻撃。理由は池という環境。

 フィールドに設置されているオブジェクトである山や池はマスの境目が無い。つまりは威力の減退がされないのだ。


 故に2マス先からの攻撃ですら、射程が届くのであれば威力そのままを撃ち込まれてしまう。


 しかし、まさかであった。

 いくらマスの減退が無いからといって池の上にいる理由は少ない。〈氷の城塞〉のように池の上を渡る者はほとんどいない。なにしろ落ちれば退場なのだから。

 そして、拠点は常に陸上にある。だからこそ、まさか少ない〈空間収納鞄アイテムバッグ〉の枠に船を入れてくるとは思いもしなかったというのが〈氷の城塞〉全体の本音だった。


「な、何者だ!?」


 その船の正体はもちろん〈エデン〉のメンバー。

〈浮遊戦車イブキ〉とそれを操縦するのは【戦車姫】のエステルだ。

〈イブキ〉の見た目はクルーザー。しかし浮遊しているので微妙に水上より浮いていたりする。


 実はこの時、エステルだけはメンバーから1人離れ、池から接近中だった。

 いや、ここで待機中だったのだ。

 備えあれば憂い無し。それが切り札というもの。

 そして〈氷の城塞〉を池の上で発見。こうして槍砲を撃ち込んだわけである。


「防がれましたか。では、もう一発――『スラストゲイルサイクロン』!」


 ではもう一発、ではない。

 エステルによる無慈悲な一撃が、ただでさえ先ほど防いだ攻撃でピンチに陥っていた〈氷の城塞〉へ飛んでいった。これ、五段階目ツリーの攻撃である。


殿しんがり防いで! 遠距離攻撃で牽制! ここじゃ不利だわ、急いで陸へ向かうわよ! 目標〈表と裏の戦乱〉拠点! 駆け足!」


「「「うおおおおおお!?」」」


「お、俺が殿ですか!?」


「俺も!?」


〈氷の城塞〉は殿を置いて魔法で牽制しつつ、とにかく陸へと向かう。今までの隠密的行動もなんのその、あれはダメだとレイテルの本能が叫んでいた。あれは下級職が頑張ってなんとかできるレベルを超えていると。

 その勘は正しい。しかし、その行動がエステルを本気にさせた。


「む、このままでは先に拠点にたどり着かれてしまいますね。仕方ありません。一気に仕留めます――『姫騎士覚醒』! 『トライ・スラストカノン』! 『インパルススラストキャノン』! 『ホーリースラストバースト』! 『スラストゲイルサイクロン』!」


「「ほぎゃああああああ!?!?」」


 殿のタンクは頑張った。とても頑張ったと思う。一瞬で池のもくずにされたけど頑張った。


「そんな!? 『氷の大地』! みんな散って! バラバラになって! でも転倒に注意して!」


 一瞬で殿が氷ごと池に沈んだのを見たレイテルはすぐに決断。

 罠としても使える、『氷の大地』を使って水上を凍らせ道を広めた。これにより、氷の大きな広場が作られる。バラバラに進めば道一本の『氷河道』より狙いが分散するだろう。しかし欠点もある。それがこれの特性、つるっつるの地面だ。


「うおおお、滑る、滑るううぅぅ!?」


「気をつけろお前たち!?」


「武器を支えに使うんだ!」


「杖の長さが足りましぇん!? 長さ20センチーー!!」


 狙いを絞らせないように分散。しかし、『氷河道』は氷河な地面で、しかも道スキルなために滑らなかったが『氷の大地』は逆に敵を転倒させるための魔法だ。

 全力で走ったら速攻でスリップするだろう。しかし、分散したことで狙いを絞らせない試みは上手くいき、追加で2人ほど池に沈んだがエステルの『姫騎士覚醒』が終わる。


「! あともう少しよ!」


 レイテルの鼓舞で生き残りが拠点へと目指す。後もう少し。

 だが、ここで目算が甘かったと知ることになった。

〈表と裏の戦乱〉が思った以上に早く退場してしまって〈エデン〉がフリーだった。

 そして〈エデン〉も貴重な水上戦という経験に目を輝かせながら嬉々として参加してきたのである。


「私の時代が来たデース! 忍者の水上歩行、篤と見るがいいデース! 『水上歩行の術』!」


「たはは~、まさか私も池の上を出撃するなんて思わなかったよ~『水上歩行』!」


 パメラは自分のスキルで、ミサトは装備のスキルにより、水の上を歩行することが可能となっている。

 パメラはスキルLVが低く、昔は歩くだけで精一杯だったが、練習の成果で今では走ったりジャンプしたりするくらいは出来るようになっていた。


「! 前方を攻撃! 相手は2人よ、押し通るわ!」


「『ドゥーンブラスター』!」


「『ブラインドアロー』!」


〈氷の城塞〉のメンバーはまだ13人もいる、相手は2人、これは押し通れると思っていた。

 しかし、


「ニン! 『忍法・身代わり反撃の術』!」


「な! ぐあ!?」


 一瞬で転移してきたパメラが直刀で斬りつけ1人がダウン。


「お返しだよ! 『正方浮遊結界』! 『ミラークロスバリア』!」


「跳ね返ってくる!?」


「まだまだ~『攻撃力ドレイン』! 『防御力ドレイン』! 『魔法力ドレイン』! 『魔防力ドレイン』! 『素早さドレイン』!」


「ふおおお、力が漲ってくるデース! 『真・お命頂戴』! ――『忍法・えん爆裂丸ばくれつがん』デース!」


 ミサトとパメラは止まらない。

 ミサトは相手の遠距離攻撃に対して、自在鏡を操って反射。

 さらにデバフドレインをしまくった。ドレインの還元先はミサトではない。パメラだ。

 ミサトはユニークスキル『色欲の鏡』の効果で任意の味方に敵から奪ったものを還元させられる大罪を持っている。


 パメラは十全にバフを与えられ、大暴れ状態だ。水上に立てるのが強く、ヤバいと水上に避けて着水する戦法は近距離戦闘を得意とする者に超効果的だった。


 しかも遠距離攻撃すれば。


「『忍法・身代わり反撃の術』デース!」


「うおおおお!?」


 と斬られる始末。

 だが、さすがに12人を足止めするには難しく、8人がここを突破。

 水の上に居るときスキルの回転速度が増す『水上砲台』を持つミサトが水上を滑りながら攻撃魔法をじゃんじゃん打ち込むが、元々防御型ギルドである〈氷の城塞〉はこれを見事に防いで見せた。


「最後の道よ! 『氷河道』!」


 レイテル最後の魔法。これによりついに開通。

 陸に氷の道が届いた。

 後は走り抜けるだけ。しかし、〈エデン〉を舐めてはいけない。


「『天歩天空・空斬そらきり』!」


「! 右方から新手!」


「! こなくそ!」


〈エデン〉では空を跳ぶ者もいるし、


「そんな細い道では心許ないでしょう、広くして差し上げますよ。――『冷凍氷河』!」


 レイテルの『氷河道』が目じゃないほどの氷河足場を生み出す者も居たりする。


 跳んでいったのがレグラムで、池を凍らせて広場を作ったのはオリヒメだった。

〈エデン〉にとっては、池という環境ですら障害にもならないらしい。

 いつの間にか集まっていた〈エデン〉メンバーたちが池に踏み込み、後ろからは〈イブキ〉が接近していた。挟撃だ。


「うう、ここまでなのね……」


 ついに追い詰められた〈氷の城塞〉は全員が退場することになり、〈エデン〉のBチームとCチームは誰1人欠けること無く、池の上の対決は〈エデン〉の勝利だった。


 そして最後は防衛モンスターも倒され無人となってしまった〈表と裏の戦乱〉拠点へ。


「最後ね! これで決着よ! 『大聖光の十宝剣』!」


 ラナの特大の攻撃が拠点に突き刺さって陥落。

 試合終了のブザーが鳴り響き、次の瞬間には大歓声が沸き起こった。


〈学園出世大戦〉Aランク戦――――試合終了。



〈エデン:3240点――残り25人〉1位

〈筋肉は最強だ:2313点――残り0人〉2位

〈サクセスブレーン:1928点――残り13人〉3位

〈新緑の里:798点――残り17人〉4位

〈集え・テイマーサモナー:746点――残り19人〉5位

〈氷の城塞:600点――残り4人〉6位

 以下陥落

〈表と裏の戦乱:―点〉7位

〈ハンマーバトルロイヤル:―点〉8位

〈明るい光の産声:―点〉9位

〈ダンジョンライフル:―点〉10位

〈サンダーボルケーション:―点〉11位

〈ミスター僕:―点〉12位

〈世界の熊:―点〉13位

〈クラスメートで出発:―点〉14位

〈中毒メシ満腹中:―点〉15位

〈零の支配:―点〉16位

〈炎主張主義:―点〉17位

弓聖手きゅうせいしゅ:―点〉最下位


〈残り時間:2時間51分59秒〉




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