第966話 〈天の川〉コンボ。上下を囲って逃がさない。
分断されたレグラムとオリヒメのいるマスでは、今まさに大ピンチ――にはなっていなかった。
「ゆくぞオリヒメ」
「どこまでも、レグラム様」
「『天の川の星屑』!」
「『天の川の結晶』!」
「ぬあ!? なんだこれは!?」
「ふむ。興味深いな」
「囲まれた!?」
「川だと!? 『パワースラッシュ』! ダメだ、切ったそばから修復される!?」
「まるで本物の川みたいだ」
これはコンボスキル。
【ウラヌス】と【ネプチューン】が使う『天の川』スキルと呼ばれているもので、【ネプチューン】が川を生み出し、【ウラヌス】がキラキラ輝く星屑を生み出し、擬似的な天の川を形成。〈ミスター僕〉たちを囲って分断していた。
面白いのが本物の川のように物理攻撃がほとんど意味をなさないところ、それでいて中に入れば〈束縛〉状態となって足が遅くなり、星屑によってスリップダメージを受ける効果がある。
川を抜ける前にHPが尽きてもおかしくないダメージを受ける、容赦のないコンボだ。
「なら、術者を倒せばいいよねって話さ――『スターパーティ・アピール』!」
冷静に分析してそういうのは〈ミスター僕〉のギルドマスターナーシスだ。
彼の
『スターパーティ・アピール』はパーティ全体バフ。全員をスターにして攻撃力と素早さを上昇させる。
さらに仲間の1人に近づいてスキルを使う。
「ほら行ってきなよ――『飛び入り参加』!」
「うおお行ってやらああああ!!」
『飛び入り参加』は文字通り強制的に飛び入りするスキル。遠くへ素早く移動するスキルだ。これにより〈ミスター僕〉の1人がビュンと吹っ飛び川を飛び越え、川の向こうにいたオリヒメへと文字通り飛び込む。
もちろん、そんなことをレグラムが許すはずもない。
「控えてもらおう! 『天歩天空・
「ふんぎゃああああ」
レグラムの空中移動からの斬撃スキルが発動。
吹っ飛ばされていただけだった男子君は碌な抵抗も出来ず空中から打ち落とされ、下の川へとダイブしてしまう。
「おお……おお……おおお……」
もちろん川は本物の川ではなくあくまで擬似的な天の川だ。
沈んでもちゃんと呼吸も出来るし、何より浅いので沈んで退場ということもない。
ただ打ち落とされた男子はそのままダウンしてしまったらしく、天の川の底でコチンコチンに固まって身動きが取れなくなっていた。
同時にスリップダメージが彼を蝕み、早く誰かが助けてやらないと退場してしまうだろう。
もちろん〈ミスター僕〉にそんな助け合いの精神なんてない。
「なるほど、上もダメか。いや、これは少々骨が折れそうだね」
下の天の川、上のレグラムである。飛び越えようとすれば不運な男子君と同じ結末を辿るだろう。
「なら遠距離攻撃すればいいだろう! 『シャインオールブラスター』!!」
「そのスキル破ってあげよう! 『アイスインカーテン』!!」
〈ミスター僕〉のメンバーが遠距離攻撃を撃つ。
光属性〈四ツリ〉攻撃がオリヒメを狙い、氷属性〈三ツリ〉攻撃が天の川を凍らそうとする。
「そうはさせません――『細波の泡の歌』!」
「何、泡に!?」
「防御魔法か!」
しかしどちらもオリヒメの防御魔法によって泡にされてしまう。
天の川に侵入した攻撃は泡へと消えるのだ。
「この川、なるほど。環境を自分に有利なフィールドに変えてしまうものなのかな」
「ご明察です」
ナーシスの考察をオリヒメが肯定する。
そう、天の川は結界の一種で、その正体はオリヒメとレグラムが有利になる環境を作りだすスキル。
攻撃を受けてもすぐに元に戻り、リング状の天の川で囲まれてしまえば脱出は困難になる。
オリヒメが肯定したのも、その自信からだった。
これは【ウラヌス】と【ネプチューン】という二つの
故にかなり強力なものとなっていた。
「レグラム様、相手は混乱しております。行ってきてくださいませ」
「任せるがいい『天歩』!」
「な、1人で突っ込んできただと!?」
「打ち落としてやるぜ!」
レグラムが空中移動から天の川に囲まれたサークルへ飛び込んだのだ。
すぐに〈ミスター僕〉たちが打ち落とさんとするが、レグラムのスキルは空中を足場にし、3次元の動きを可能にする。
「甘い――『轟天・雷神』!」
よって、攻撃は全て避けられ、レグラムは敵の中心地へ大きな一撃を叩き込もうとする。
「防がせてもらうね――『スーパーインパクト』!」
「やるな」
「それほどでも。今度はこちらの番だ――『スターコメット』!」
「『紫電一閃』!」
空中からデフォルメされたお星様が降る『スターコメット』が周囲ごとレグラムを狙うが、レグラムは高速で駆け、ナーシスを斬る。
「うっ! ちょっと、速すぎるんじゃない?」
「そう言うわりに、しっかり反応しただろう」
ナーシスはガードしながら後ろに跳び、レグラムの攻撃を最小限のダメージで切り抜ける。そこで〈ミスター僕〉のメンバーがレグラムに飛び込んだ。
「食らえイケメン! 『ノックンアックス』!」
「倒してあげるよ! 『アイスビット』!」
追撃しようとするレグラムだったが、さすがに7人も集まると一筋縄ではいかない。
まずは回避に専念する。
ちなみに天の川に落ちた人は先ほど「アッ……」と最後に言い残して退場したところだ。
「援護いたしますわね。ユニークスキル『ハッピーデュエットラブソング』!」
ここでオリヒメのユニークスキルが発動する。
オリヒメの周りに浮かぶ光の玉六つから音楽が流れ、レグラムを超援護した。
「な、なんだその回復量は!?」
「バフにデバフに回復のユニーク。これがあの【人魚姫】か……」
「先にヒーラーを討ったほうが良いに決まってる。行くぜ――『ホワイトシャインバスター』!」
「ふふ、させませんよ。『冷凍星域』!」
オリヒメの『冷凍星域』は防御魔法。
氷の壁で自分の身を守る魔法だ。歌系ではないのでユニークスキル発動中でも使用が可能。そう簡単にヒーラーは落とせない。
「こちらに攻撃するなんて、レグラム様を怒らせましたわよ?」
「何? ぐおお!?」
「まずは貴様から屠ってくれよう『雷鳴剣』!」
「ぐおおおお!?」
「く、こいつマジで動きが掴めない!」
「攻撃の狙いが定まらん『ランスオールチャージ』! また!?」
「そこに逃げ込むなんて反則だろうが!」
「おい魔法使い、邪魔だ」
「しかたないだろ、狭いんだよここ!」
オリヒメを狙うものを優先的に狙うレグラム。
次に遠距離攻撃方法を持っている者、速度の速い者を優先する。
スキルによって空中移動を可能にするレグラムにとって乱戦は得意分野だった。天の川に隠れてもレグラム自身は阻害を受けないのも大きい。
ヒットアンドアウェイで攻撃したそばからそこを離れ、無理に追撃せずに隙のある相手を狙う。
多少被弾をしてもノックバック耐性の『貴族の矜持』やバトルヒーリングの『不屈の貴族』に加え、オリヒメのユニークの恩恵を得ているレグラムを止められる者はいない。
「『ギガトンアックス』!」
「『ブレイクノック』!」
「何!? ブレイク系!?」
「『疾風天空・激天斬』!」
「ぐああああ!?」
レグラム自身も強い。相手の攻撃をブレイク系で破壊して斬る。
攻撃で相手を崩しまくっていれば隙はどんどん大きくなる。
被弾しても倒れないレグラム、オリヒメを狙おうものなら優先して狙われる。
徐々に混乱は大きくなっていった。
そして氷魔法使い男子と光魔法使い男子が屠られたところでナーシスが動く。
「さすがだレグラム君。僕にこれを使わせた君は誇っていいよ。『トップオブスター』!」
「これは、【スーパースター】のユニークスキルか!」
「君も「男爵」、知っていて当然か。ならこの能力がどれほど強いかも知っているよね?」
【彦スター】と【花形彦】は「男爵」カテゴリーでたった二つの〈彦職〉。
二つの
それはさておき、【スーパースター】のユニークスキル『トップオブスター』はパーティで2名の退場者が出たとき発動できる特殊なユニークスキル。その効果は自身のバフだが、その数値は凄まじく3分間攻撃力防御力素早さが4倍となり、一発逆転を狙える強力なスキルとなっていた。
ゲーム〈ダン活〉ではこのユニークスキル発動を狙い、専用のパーティを編成するほどの強スキルである。
【スーパースター】は支援系
「この川はコンボスキルと見た。なら、どちらか片方を倒せば消える。倒してあげるよ〈ミスター僕〉のギルドマスター、この僕様がね!」
このナーシスももちろんSTR特化型だ。
最後は自分が持っていくとばかりに剣を構えてレグラムへと踊りかかり――そこへ宝剣が降ってきた。
「なに!? わおおおお!?」
「「「うおおおおお!?!?」」」
「ズドドドドッ」と降り注ぐ宝剣が一瞬でナーシスに直撃。
その周りのメンバーたちにも降り注いだのだ。間違いなくラナの『大聖光の十宝剣』だった。完璧に不意打ち。
これから反撃だという高揚したタイミングで真上からの攻撃に対処できるはずもなく、ナーシスたちは直撃を受けてしまったのだ。
このときラナとシズは逃げてレグラムたちのいるマスへ侵入した〈ミスター僕〉のメンバーを追いかけて侵入し、初手で『大聖光の十宝剣』をぶっ放したのである。
ちなみにナーシスにヒットしたのは偶然だった。『大聖光の十宝剣』はランダム対象だから。
しかし、この隙をレグラムたちも逃すはずもない。
「オリヒメ!」
「合わせますわレグラム様」
「『天海の
ここで発動するのは二つ目のコンボスキル。こちらは攻撃系。
オリヒメの声にレグラムの剣が共鳴し、レグラムの手に巨大な雷撃の剣を生み出す。
それはまさに天からの雷。
「――終わりだ」
ズダアアアアンッとそれが振り下ろされ、超巨大な雷音が響き渡った。
まばゆい光の中、多くの退場転移陣が光っていた。
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