第943話 発表! Aランク戦〈ピラミッド〉フィールド!




 今回のフィールドもクラス対抗戦の決勝戦の時のように固定フィールドのいずれかからランダムで決まる。


 以前は第五アリーナで行なわれた〈五つ山隔て山〉フィールドだったが、今回は第二アリーナだ。

 そこはAランクギルドたちがしのぎを削るフィールドなだけあり、非常に難しいものとなっているところが大半だ。


 さあて、どこのフィールドに決定したのだろうか?

 引いたクジはまだ見ていない。見るのはギルドハウスで、みんなの前で発表と決めていたからな。

 シエラに寄り道したことを怒られてしまった。腹を刺激する香りが悪いということにしておいてほしい。

 俺はワクワク2割、ドキドキ8割くらいの気持ちでギルドハウスに入った。


「おお……今日引っ越すかもしれないのに凄いファンシーだな~」


 ギルドハウスの中は、なんというかぬいぐるみだらけだった。

 おかしいな。今日引っ越すからと荷造りをしていたはずだが……。


「あい! ルルたちが勝てるよう、ぬいぐるみさんたちにも応援してほしかったのです!」


「応援してほしかったのか~」


「可愛いですねルルちゃん! これならきっと勝てますよ!」


あい!」


 安定のルルの仕業だった。なお、みなさん手伝った模様。荷造りはどこいったのだろう?

 部屋には階段状の壇上、雛壇っぽいものが作られ、そこに並べられたぬいぐるみたちは確かに、応援団と言っても過言では無いかもしれない。

 しかも、その中心にいるのが、


「って、学ランを着た〈幸猫様〉がいる!?」


 まさにその応援団ぬいぐるみを率いている風に前にデデンと置かれていたのは応援団団長、学ランを着た〈幸猫様〉だった。斜めのタスキにちゃんと「応援ぬいぐるみ長様」と書かれている。


 いったいどういうことなんだ!!??


 そこでやってきたのは、やはりラナ!


「私が提案したのよ。〈幸猫様〉は〈エデン〉の一員よ! せめて応援団としてみんなと心を一つにするべきだと思うの!」


「な、なんだってー!?」


「見てよゼフィルス、この〈幸猫様〉の姿、かっこいいでしょ?」


「すげぇかっこいい……これはときめく!」


「ふふん! サプライズは成功ね!」


 ラナのドヤ顔が今回ばかりは頼もしい。

〈幸猫様〉のなんと心強いお姿か。

 学ランを着てこちらに向かって微笑む〈幸猫様〉を見ていると、力が湧いてくるようだ。

 いや、実際湧いてくる! 俺はパワーアップしてしまった! これは気のせいではない!(気のせいです)


「ちなみに〈仔猫様〉はここだゼフィルス」


「おおお!!」


 そこにリカもやってきて〈幸猫様〉の影に隠れるようにして後ろにそっと寄り添っている〈仔猫様〉を見せてくれた。ヤバい、何これ、尊い、勝てる!

 ゲーム〈ダン活〉時代は〈幸猫様〉の衣装替えなんて出来なかった!

 俺は今奇跡を見ているんだ!


「ゼフィルスがトリップしながらお祈りを始めたわ」


「うむ、これはしばらく戻って来ないな。成功と見て良いだろう」


 ラナとリカの満足そうな声が聞こえた気がしたが、俺には全く届かなかった。

 そのまま今日の出場者が全員揃ったところでハンナが俺の肩を揺らす。


「ぜ、ゼフィルス君、そろそろ戻ってきて! もうみんな来たよ! ミーティング始まるよ!」


「ふにゃ? あれ? 俺のパラダイスは?」


「あ、やっと戻ってきてくれたよぅ」


〈幸猫様〉と〈仔猫様〉が様々な衣装に着替えて俺に祝福を掛けてくれる夢を見ていたら急に現実に引き戻された。

 見ればさっき見た学ラン姿の〈幸猫様〉と同じく学ラン姿の〈仔猫様〉。

 おお! これは夢では無かったんだ!


「ありがたやありがたや」


「ってまた旅立とうとしてる!? ゼフィルス君!」


 それからなんやかんやあり、最後はラナが〈幸猫様〉を、シエラが〈仔猫様〉を攫って膝に置いたところで俺は現実に強制送還されてしまった。

 ああ!? なんて羨ましいことを!?


「ではゼフィルスさん、始めましょう。もう少しでSランク戦の〈拠点落とし〉も始まってしまいますわ。観戦に行かれるのでしょう?」


「お、おお! そうだったな。げふんげふん。みんな、今日はよく集まってくれた!」


 壇上でリーナに呼ばれ、慌てて取り繕ってキリッとした表情で話す。ちょっと取り繕うのが手遅れだった気もするが、気のせいということにしておいてもらおう。


「今日は〈学園出世大戦〉の開催日だ。俺たちが出場するのはAランク戦、〈拠点落とし〉。参加ギルドは18、つまり現Bランクギルドに在籍する戦闘ギルド、その全てが参加する。しかもグループなどは分かれないため、今回は18のギルド全てが初戦で当たる。バトルロイヤル戦だ」


 なんとか雰囲気を作りつつ、俺は全員を〈拠点落とし〉の話へと引き込む。

〈エデン〉の他に17ギルドが同じフィールドにいるのだ。それはほんの少しの油断で拠点が落とされる可能性を示していた。


「守りは万全に、油断はするな。なぁに安心してほしい。こっちには【難攻不落の姫城主】であるシャロンがいるからな!」


「ちょ、もう、責任重大だな~」


 俺がそう言ってシャロンを見ると全員が一度シャロンに注目した。

 すこーし冷や汗をかきながら頬をぽりぽりして緊張を和らげようと試みているシャロン。

 正直な話、彼女にはかなり期待を寄せているのだ。すまんがマジで頑張ってほしい。


「もちろんシャロンだけに任せるなんてしないから安心してほしい。防衛担当は10人以上を基本として拠点に常駐してもらう。何しろ今回のフィールドは第二アリーナだからな」


 今回の〈拠点落とし〉はAランク戦、第二アリーナ。

 前回の、所詮は1年生用だった〈拠点落とし〉とはフィールドの難易度が違う。

 簡単に言えば隠れるべき場所が無かったりするのだ。

 前は拠点の位置を決めさせてくれたのに、今回は拠点の位置すらクジで決められているのがその証拠だ。


 さすがに公平を期すために学園が拠点の候補になるマスをあらかじめ決めておき、そこからクジにて配置されるようになってはいるものの、例えば前回やったバリケードとか防壁なんていう手で止めるには難しい地形になっていることは確実だ。

 運が悪ければ八方向から攻められる場所に配置される可能性もある。

 最低でも10人常駐は必要不可欠だった。


 残りで攻めだな。


「それでゼフィルス、肝心のフィールドなのだけど」


「おっとそうだった。肝心なことを出さずに進めるところだったぜ。サトル、出してくれ」


「まかせてください。よいしょっと」


 サトルに頼むとホワイトボードのようなキャスターの付いた板を運んできて、1枚のドデカい紙を貼りつける。それにはつい先ほどクジを引いたのち学園から貰ってきたフィールドの図が描かれていた。

 今回のフィールドは。


「――〈ピラミッド〉フィールドか!」


「「「「おお~!!」」」」


 その紙を見たところでギルドメンバーから感動にも似た声が重なった。

 少しばかり間を置き場が落ち着くのを待ってから話し出す。


「みんな注目だ。この通り、今回は〈ピラミッド〉フィールドで行なう事になった」


 ふ、〈ダン活〉のデータベースと呼ばれた俺に死角無し。

 俺は〈ピラミッド〉フィールドのことも当然知っている。

 ということでみんなにこのフィールドのことを説明していった。


「なんとも厳しいところを突くフィールドだな。ここの特徴を説明して行くぞ。まず見て分かる通り、一番目立ち、かつ重要なのがこの中央部にある巨大な八つに分解されたピラミッド山だ」


 張られた紙は真上から俯瞰した図だが、その中心地には巨大なピラミッド山が確認出来る、のだがそのピラミッド山は上下左右斜めに割られ、通行可能となっている。そしてピラミッド山の中央部は8箇所からの合流地点となっていた。


「さらに注目して欲しいのがこの中央部の合流地点、ここのマスだが、何かおかしいと思わないか?」


「ん、ん?」


「あ、分かった! マスの境目が無いよ!」


「ノエルが正解だ」


 俺の言葉に首を傾げるカルアの姿が可愛いと思っているとノエルがそれに気が付き、他のメンバーもそれを認識していく。


「これは通称〈デカマス山〉と呼ばれている5×5の大きさのマスだ。ノエルの言ったようにこのデカマスにはマスの境目が無いため、遠距離攻撃を減退無しで撃ち込むことが可能となっている危険なマスだ」


 第二アリーナからは新たに〈デカマス〉と呼ばれている大きなマスが登場する。2×2マスと言えば計4マスの四角形のマスの事を指し、3×3なら計9マス規模の四角形だ。ちなみに3×3の方は〈デッカマス〉と呼称されている。

 これは当然ながらマスの境目なんて無く、取っ払われてしまっている。

 2マス先に居る人にダメージ減退無しでスナイプすることが可能になるのだ。


 そして注目すべきがフィールドのど真ん中にデデンと存在する超巨大マス、5×5だ。

 全体攻撃や普通の〈スキル〉〈魔法〉には当然射程がある。5マス先まで届く〈スキル〉や〈魔法〉は稀だ。

 どんな〈スキル〉や〈魔法〉を使おうとも減退されないバトルロイヤルな場、デスマッチと評しても良いくらいのフィールドがこの中心地には存在する。


 今まで良くも悪くも頼りになった減退が無いのだ。

 これまでの常識が一変してしまうだろう。


 誰かと戦闘中に横から全体攻撃が飛んできた、なんてこともよくある。

 それの対策もしなければならない。


「〈デカマス〉……」


「こんなものまであるのですか。クラス対抗戦では見たことが無いですが」


 エリサが顎に手を当てながらニヤリとし、アイギスが真剣にものを言う。

 エリサはいろいろばらまき放題だな。


「デメリットだけじゃないぞ? ちゃんと使いこなせれば良い効果も期待できる。特にリーナのスキルには期待しているからな」


「任せてくださいまし。ゼフィルスさんの期待に応えてみせますわ!」


 リーナが片手を胸に当てそう宣言する。

 腕に装備された〈クーラーユニークアームレット〉がキラリと光っていた。

 頼もしい。


 では、今度は俺たちの配置位置だな。




 ――――――――――――

 後書き失礼いたします!


 近況ノートに添付で図を貼り付けました! こちらからどうぞ↓

 https://kakuyomu.jp/users/432301/news/16817330656046758430

〈ピラミッド〉フィールドに加え、対戦するBランクギルドの名前も全部書いてあります。



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