第922話 〈浮遊の巨石ダンジョン〉入ダン、岩の上を進め
「ここがランク6、〈浮遊の巨石ダンジョン〉なのね」
「おっきい石がたくさん浮かんでるわ!」
「本当に巨石が浮かんで、漂っているのですね。壮観です」
「ん。不思議」
門から入り、まず俺たちが見たのは宙に浮かぶ数々の巨石。
どう見ても一戸建て住宅よりも大きな石がぷかぷか浮いているのだ。
周りは岩肌しか見えないため石と言っているが、見方を変えれば島と言ってもいいかもしれないものまである。見る者を圧倒する巨石、それがこのダンジョンではどこでも見ることが出来る。
「地面は、こっちも岩だらけ?」
「岩が立ち並んでいますね。障害物だらけで普通の馬車を走行させるのは難しい地形ですね」
空中に向いていた視線を下ろすと、地面も岩だらけだった。
高さ2メートルを超える岩がそこら中の地面から生えている様子はまるで樹氷のようだ。
おかげで地面を馬車で走行することは不向きなダンジョンだ。
とはいえ、それは地面を走るなら、だ。
岩の上を浮遊して進める〈イブキ〉なら問題は無い。
「エステル、〈イブキ〉を出してくれ」
「はい、承知しました。――〈イブキ〉召喚!」
お、エステルが久しぶりに「召喚」と叫びながら〈
それ召喚じゃねぇと心の中でツッコんでおく。
「んじゃ、みんな〈イブキ〉に乗ってくれ。そしたらこのアイテムを使う」
「ゼフィルス、それは何?」
俺が取り出したアイテムを見てシエラが首をかしげた。
ふっふっふ、知らないのも無理はない。
何しろ先日ソフィ先輩が仕上げてくれたアイテムだからな。
四つのコンパスが合わさったような形のこれは、このランク6〈浮遊の巨石ダンジョン〉の救済アイテム。
「これは〈磁気岩発見器〉と言ってな、あの浮いている巨石のどれかにある階層門を探すためのアイテムだ」
「…………ごめんなさい。あなたが何を言っているのかわからないわ。もう一度説明してくれるかしら?」
「いいとも!」
俺の簡単な説明にシエラがおでこに指を当てるポーズで考え、けれどギブアップして詳しい説明を求めてきた。
ふっふっふ、頼られるのは嫌いじゃない。むしろ好きだ。
よーし、説明しよう!
「まずこの浮いている巨石だがな、実は落とすことが可能だ」
「あれを落とすのですか!?」
「ん!?」
俺の説明にエステルとカルアがビックリ驚く。
「あれは、どうやって浮いているかも分からないものよ?」
「いや、単純に磁力の反発で浮いているような感じなんだ。地面にある岩と巨石が反発して巨石が宙に浮いていられる仕組みで、あの巨石の下にある
「へぇ、そうなのね」
「初耳なのだけど?」
おっと、ラナは普通に聞いてくれたがシエラがジト目だ! やったぜ!
「勇者だからな!」
「…………」
俺は定番になりつつある「勇者だからな」で答える。シエラのジト目がさらに強化された気がした。ふはは!
そう、このダンジョンのギミックは単純明快、この宙に巨石が浮き岩々が立ち並ぶどこを見ても似たような地形の中で、浮いている巨石の中にある階層門を見つけ出して進めというものだ。たまに巨石の上に階層門があることもある。とにかく落とすことが重要。そういうダンジョンだ。
先ほど言ったように地面に立つ岩を攻撃して破壊すると、その真上にある巨石を支える力的な何かがなくなり落ちてくるのだ。また、岩には破壊
当然破壊できる岩の上には階層門のある巨石が浮いている可能性があるというわけだな。
落ちた巨石はそのままだったり、ぱっくり割れたり、粉々になったりする。
そうして粉々になるとその中からたまに階層門が出てきたりするので中に入り、次の階層へ進むのだ。
そして当然ながら空中を浮く巨石は軽く見渡しただけで何十個、何百個もある。
この中のどれに階層門が隠されているのか、まず分からない。
適当に破壊マシーンで岩アタックしながら進んでいてもいつかはヒットするだろうが、それはMPの無駄使いなので、もう少しスマートに効率的に行きたいところ。
そこでこの救済アイテム〈磁気岩発見器〉のご登場。
このダンジョンには階層門が埋まっている可能性のある巨石が、なぜか四つある。破壊可能な岩々のエリアが四箇所あるのだ。
これはどの階層も固定で、〈磁気岩発見器〉の四つのコンパスがそれぞれの巨石へと差しており、4分の1の確率で
巨石の中身が
ちなみにどこに階層門があるのか、俺は救済アイテムがなくても知っていたりする。
だってこれ隠し扉と同じく場所が固定なんだもん。なので攻略サイトを見ても分かってしまうんだ。
そして〈ダン活〉のデータベースと呼ばれた俺からすればある場所なんて全部記憶済みではあるが、さすがにノーヒントでここが怪しいと言うのはなんなので、ここは救済アイテムを使っていこうと思うのだ。手遅れかもしれないが。
「ここで出るモンスターはゴーレム系。岩に擬態しているタイプもいるから気をつけて行こう!」
「…………」
そう言って〈イブキ〉へと乗り込んだ俺のすぐ後ろに無言のシエラがジト目をしながら付いてきた。なんだか背中がゾクリと来た。
エステルが運転席に着席し、カルアが岩の上から索敵してからぴょんと〈イブキ〉に飛び乗り、ラナがエステルの横に立って〈イブキ〉が動くのを今か今かと待ち構えていた。
「エステル、発進だ!」
「待ってゼフィルス。それは私のセリフよ! ――エステル、発進しなさい!」
「はい。〈イブキ〉発進します」
ラナにセリフを取られたがまあいい。
発進して、岩へと寄せた〈イブキ〉は2メートルの岩をスィーっと上昇し、岩の上へ着地、そのまま不思議な推進力を得て進みだした。
〈イブキ〉は本来地面から少ししか上昇できないが、障害物があるとき、それを上に避け上昇することが可能だ。
そうしてエステルに指示を出し、立ち並ぶ2メートルの岩を踏むようにして岩から岩へと進ませると、〈イブキ〉は岩から降下せずに進みだしたのだ。
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