第914話 〈浮遊戦車イブキ〉お披露目と試運転!




 ――――〈浮遊戦車イブキ〉。

 車なのに浮遊とはこれ如何に? と思うかもしれないが〈ダン活〉には〈戦艦〉や〈戦闘機〉などのカテゴリーは無いので、たとえ浮いていても〈戦車〉扱いだ。


 上級ダンジョンは舗装ほそうされた道が無いので車輪型〈馬車〉での走行は難しい。

 しかし〈戦車〉カテゴリーは足がキャタピラだったり、多脚型だったり、浮遊型だったりと多様で、悪路での走行が可能な特性があり上級ダンジョンでも通常の運用が可能な物が多いのだ。


〈浮遊戦車イブキ〉は浮遊型で地面からほんの少し浮いて走行出来る戦車だ。

 障害物があればヒョイと飛んで乗り越えることも可能だが、浮遊なのでそこまで高くは飛べないし、飛び続けることもできない。せいぜい滑空できるくらいだな。

 ジャンプみたいなものだと思ってもらえばいい。

 え? ジャンプするのって? ――します。


 つまり、〈浮遊戦車イブキ〉さえあれば上級ダンジョンですら高速攻略が可能になるということだ! さすがはレアイベント、騎乗型のボスからドロップしただけはある!


「みんな離れて。――いいわよゼフィルス」


 みんながざわめきながら注目しているのを感じ、シエラの許可を得て〈空間収納鞄アイテムバッグ〉からそれを取り出した。


「刮目せよ、これが新しい上級乗り物、〈浮遊戦車イブキ〉だ!」


「「「「「おお~!」」」」」


 みんなに離れてもらい〈浮遊戦車イブキ〉を取り出すと、絶対バッグに入らないだろう大きさの戦車がその身をあらわにした。

 まるで某猫型ロボットのポケットから取りだしたように一気に大きくなるそれは圧巻。とはいえ〈からくり馬車〉を〈空間収納鞄アイテムバッグ〉から取り出すことは何度も経験しているので慣れたものだ。


「こ、これが、戦車、ですか? これが浮くのですね」


「車両というより、まるで船ね!」


「思ったより大きいわね。〈サンダージャベリン号〉のように車体を牽引するものは無いの?」


「不思議」


 エステル、ラナ、シエラ、カルアが〈浮遊戦車イブキ〉を見てそれぞれ感想を言う。

 見た目は白のクルーザーに近い。船というラナの言葉はかなり的を射ていた。


 みんながざわざわしながら〈イブキ〉の周りに集まってくる。


「で、これはどうやって乗るのかしら?」


「適性のあるエステルが運転席に乗って装備すれば良い。ほら、こっちが先頭で、こっちが後ろ。運転席は後ろ側のあそこだな。最初だけ飛び乗る必要がある、のか? うーん、エステル、台いるか~」


「いえ、これくらいなら飛び乗れますので問題ありません。では、お先に失礼します」


 ラナの疑問に答える形で指さして説明する。

〈イブキ〉はクルーザーのような形をしている。長細いフォルムで運転席は後ろ側。

 後ろ側には船のデッキのようなエリアがあって、屋外に運転席がある。

 ただこれは『フォルムチェンジ』すればデッキを囲って室内にすることも可能だ。オープンカーみたいなものだな。


 エステルが早速ピョンとジャンプして手を引っ掛けて飛び乗る。おお、かっけぇ。


「「「おお~」」」


 みんなも同じことを思ったらしく軽く歓声が上がった。


 エステルが少し照れながら会釈して運転席へ向かう。

 俺たちくらいのステータスになれば片手で自分の体を持ち上げるなんて楽勝だからな。俺も今度やってみよう。


「運転席が後ろ側にあるのね」


「前に付いていなくて見えるのかしら?」


 シエラとラナが不思議そうに〈イブキ〉の後部を覗く。


「窓があるのでちゃんと前が確認できますね。――えっと、こうでしょうか? あ、分かりますね。皆様、装備出来ました。デッキに上がってきてください」


 どうやらエステルが装備を完了させたようだ。

 すると〈イブキ〉がまるでエンジンが掛かったように動き出し、少し浮く。


「「「「浮いたー!」」」」


 さらにデッキからタラップが下に伸びてきて乗れるように地面へと着地した。


 おお! これもフォルムチェンジの一種なのか!? これはゲーム時代には無かった! 中々かっこいいじゃないか!


「わ、凄いわねこれ! 私が、一番乗りよー!」


 いや、一番乗りはエステルだと思うぞ。


「まるでアーティファクトみたいだわ。こんな装備があるのね。さすが上級だわ」


「ん、不思議」


 ラナが元気にタラップの階段を登り、シエラもそれに続くと、カルアは首を捻ってシエラの後を追った。それに釣られ、メンバーたちが次々上りだす。俺も登った。

 おお、テンション上がるな!


「おおお! ちょっと感動だ! というか広いな!」


「ここも『空間拡張』のレベルが高いわね。外からはどう見えているのかしら?」


 登ったデッキは思ったより大きかった。というか広かった。

 シエラの言うように『空間拡張』のスキルが付いているからだな。

 おおよそ見た目の5倍くらい広いのではなかろうか?

 一応12人乗りではあるが、全員乗れてしまいそうな雰囲気があった。

 まあ、乗車人数以上が乗り込むと動かせないんだけどな。


 また、デッキだけでは無く、ちゃんと運転席の横には室内の出入り口もあるようだ。

 もう完全に船だな。


「エステル、来たわよ、ちょっと見せてね! わぁ、ここが御者席? なんだか不思議な機械がたくさんあるわね! エステルはこれが分かるの?」


「はい。おそらく私のスキルによるものと思いますが、装備したら使い方を理解出来ました。では少し動かしてみましょうか? タラップを戻してみますね」


「「「「おおお~」」」」


 エステルは〈イブキ〉を掌握した様子で使い方が分かるらしい。すごい。

 タラップを戻すだけで皆の口から感嘆の声が漏れた。

 12名までしか乗れないので順番に乗ることにし、それからみんなで〈イブキ〉の中を探索しまくる。そしてとにかく何も無い事が分かった。


 室内は広々とした空間でデッキよりも空間が広くなっており、個室もいくつか完備されてはいたが、何しろ物が無い。

〈サンダージャベリン号〉の時はガント先輩に頼んだので、家具なども貴族が使うような最高級品を作って設置してもらえたのだが、そっちから持って来いということだろうか? シエラとラナがギルドメンバーたちを巻き込み、色々模様替えをしようと相談し合う声が聞こえてきた。


 あらかた探検が終わると、今度は走行してみたいという声が上がる。


「エステル、動かしてみて!」


「了解しました」


「エステル、そういうときは『――〈イブキ〉、発進します!』って言うんだぞ」


「ゼフィルス何よそれ、なんかかっこいいじゃない!」


「だろ! ラナ、もう一度エステルに指示を出すんだ」


「わかったわ! エステル、発進しなさい!」


「は、はい! ――〈イブキ〉、発進します!」


 そんなやり取りを得て、エステルが〈イブキ〉を動かした。


 まずは徐行から。


「「「「おお~」」」」


「わあ! 動いたわ! エステル、動いているわよ!」


「ええ。これは驚きです。操作している身で言うのもおかしいですが、どうやって進んでいるのでしょう?」


 ラナがはしゃぎ、エステルも嬉しそうに微笑む。

 俺もシエラもカルアも、みんな驚きと楽しみでいっぱいだ。


「「おお~」」


 甲板デッキの端から外を見て、カルアと共に感嘆の声を出す。

 船なのに浮いていて、地面をスイーっと進んでいく。

 他のメンバーが手を振ったり追走したり、「次は私も乗せてねー」と言ったり大はしゃぎだ。

 これは良い! なんだか凄くファンタジー!


 そうして眺めていると、進行方向からモンスターの群れが登場した。


「ガアアア!」


「あ、〈トラキ〉!」


「轢きます『アクセルドライブ』!」


「ガアア――ヘビュシッ!?」


「一撃だわ!」


「頭すら吹っ飛ばない!!」


 徐行運転でも一撃で光に還った〈トラキ〉にラナがご満悦だった。俺も楽しいです。


 これが新しい浮遊戦車、〈イブキ〉の試運転だった。




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