第十八章 〈エデン〉全員上級職、Bランク戦に突撃!

第866話 学園運営者会議! 来年の学園どうするの?




 Cランクギルド〈エデン〉。

 1年生が主体のギルドであり、名高い1組の学生が数多く在籍、他の1年生ギルドとは大きく差が開き追随を許さない。

 さらにはCランクギルドというランクも今では不相応に見られている。

 分不相応にランクが高い、という意味ではない、逆だ。

 不相応に低すぎるのだ。


 彼ら彼女らのギルドはCランクであるのにも関わらずAランクギルドと同じく上級ダンジョンへの入ダンが許可された。

 このことから、〈エデン〉はAランクギルドと同格以上の実力を持つと推測できるだろう。

 そう、Aランクギルドと同格。これには期待の他にそうであってくれという願いも込められていた。


〈エデン〉は1年生が大半のギルドだ。

 1年生に抜かされれば上級生の立つ瀬が無い。いや、すでに手遅れかもしれない。多くのギルドは頭を抱えていたりする。

 なんとか上級ダンジョンに入ダン出来る実力を身につけようと最近は中級上位ダンジョンの攻略が活発になっていた。


 そのおかげで、Bランクギルドの中にはそろそろ上級ダンジョン入ダンの許可が下りそうだ、というところも出てきたのだ。

 ようやく〈エデン〉と横並びになる。追いつけそうだ、これで上級生としての矜持は守られる、と彼らは安堵していた。


 そんなところに勇者爆弾が投下された。


「ビッグニュースビッグニュース! なんとあの1年生ギルド〈エデン〉が上級ダンジョンを攻略したとの情報が舞い込んできたよーー!!」


「な、ななななななんだとおーーーー!?」


「上級ダンジョンを、攻略!?」


「嘘でしょ!? 史上3ギルド目の上級ダンジョン攻略者!?」


「誰か!? 誰かさらに詳しいことを知っている者はいないかー!?」


「掲示板がすごい勢いで流れ始めた! もう何が書いてあるのかもわからねぇ!?」


「くそう! かくなる上は〈エデン〉に突撃して直接聞き出すしかねぇ! 俺は行くぜ!」


「ちょっとそこのあなた、今〈エデン〉に突撃するって言いましたか?」


「ほげぇ!? 勇者ファン!? ち、違うんですほんの出来心だったんでシュ!?」


「連れて行って」


「はーい!」


「ああああああああ!?」


「おい! 学園ニュースに速報が流れてるぞ!」


「盛り上がってきたねー!!」


 その日の学園ニュースはかつてないPV数をたたき出した。

〈キングアブソリュート〉の時も凄まじいPV数だったが、今回はそれを超える。


〈キングアブソリュート〉の時は「〈キングアブソリュート〉ならいつかは上級ダンジョンも攻略できるだろう」「あれだけの協力者やメンツに加え、持ち込むアイテムもとんでもないからな」と、機運が高まっていたがために学生はそこまでざわつくことはなかった。「ついにか!!」そんな思いが大半だったからだ。


 しかし〈エデン〉は違う。

 彗星のごとく現れた勇者スターは瞬く間に勢力を広げ、学園に、いや世界に大きな激震をもたらした。否、今ももたらし続けている。

 そして〈キングアブソリュート〉ほどの、精鋭を込めに込めたギルドが5ヶ月強掛けて攻略した念願の上級ダンジョンを、まさか結成半年ちょっとの1年生ギルドが攻略しただなんて、そうそう信じられるものではなかったのだ。否、信じたくなかったのだ。


 しかも突然に近い上級ダンジョン攻略の報。


 おかげで誰もがそのニュースに飛びつき、そして誰もがそれを知ることになった。

 1年生ギルド〈エデン〉は本当に上級ダンジョン攻略を成し遂げてしまったのだと。


 いくつかのギルドは阿鼻叫喚に包まれていく。


 学園祭で〈キングアブソリュート〉が上級ダンジョン攻略を発表してから、わずか2週間後の出来事だった。


 ◇


〈エデン〉が学園中に熱狂と興奮と混乱と一部絶望を巻き起こした日の夜、ある学園の会議室では名高い学園の先生たちが円卓で顔を合わせ、揃って唸っていた。


「まさか〈エデン〉がここまでとはの」


「ええ、本当に。上級ダンジョンの攻略を1ギルドが成しただなんて、素晴らしいですわ」


 サンタのようなふさっふさな白い髭を触りながら学園長が資料を読んで唸る。

 それに相槌を打つのは〈ダンジョン生産専攻〉の主幹教諭しゅかんきょうゆ、アイス先生だった。


「アイス先生、暢気なことを。〈キングアブソリュート〉の上級ダンジョン攻略は国の未来と悲願だったのですぞ? そうほいほいと同じ成果を得られてはたまりませんぞ」


 そうこめかみを指で押さえ頭痛を堪えながら言うのは、この〈迷宮学園・本校〉の教頭に就く、フガレス教頭先生だった。

 白髪の混じった髪をオールバックにして、普段は厳格そうな顔をしているのだが、今は頭がとても痛そうだ。


 まあ、ここに集まった幹部クラスの先生方はみんな頭が痛いだろう。

 中には純粋に喜んでいる先生もいるが。


「それで学園長、〈エデン〉の待遇をどうします? すでにCランクギルドの器ではありません。この一件で〈エデン〉は学園を代表するギルドに名を上げました。そんなギルドがCランクでは本校として示しがつきません。せめてAランクに上がってもらわねば」


 そう学園長に問うのは学園の全ギルドを管轄する〈ギルド申請受付所〉の所長、タルタ所長だ。少し髪の後退が激しい40代のおじ様といった雰囲気。

 各施設の長もこの緊急会議に呼ばれていた。


 問われた学園長。答える。


「うむ、そのことじゃが〈エデン〉には早々にランクを上げてもらうよう通達する所存じゃ。すでにBランク戦への挑戦条件は満たしておるので近日中にBランクへは上がれるじゃろう」


「問題はAランクですな。Aランクギルドへの挑戦にはBランク戦の防衛戦を3回勝ち抜く必要があります。つまり3ヶ月~4ヶ月の間はBランクギルドのままということ」


 学園長の答えに説明と問題点を告げるのは研究所の所長、ミストン所長だ。


 ミストン所長の言うとおり、Aランク戦を挑むためにはBランク防衛戦で三度勝ち抜くことが一つの条件となっている。

 問題は防衛戦に勝てばギルドは1ヶ月間ギルドバトルを挑まれることは無いというルールが存在する点だ。これは逆に捉えれば、1ヶ月もの間ギルドバトルを挑む事が出来ないという意味になる。早々にギルドランクを上げてほしい学園側からしたら厄介なルールだった。

 しかし、学園長は慌てることなく、髭を摩りながら答える。


「そのことなのじゃが、そろそろギルドの数・・・・・を増やそうかと思っておる」


 ざわざわ、学園長の言葉に会議室がざわついた。


「学園長、ギルドの数を増やすと、そうおっしゃいましたか?」


 敢えて確認の意味を込めてタルタ所長が問う。

 学園長は今一度深く頷き、説明を開始した。


「現在上位ギルドには上限が設けられておる。Cランクなら150席、Bランクなら20席、Aランクなら6席、そしてSランクギルドなら3席じゃ。合計で全学生の約5分の1がCランクギルド以上に在籍できる計算じゃ」


 これは学園の方針、実力主義の闘争を煽るためだ。

 これ以上Cランク以上のギルドを増やしても減らしてもあまり成果は上がりにくい。

 2万人という学生の5分の1という規模だからこそ学生は頑張り、上を目指すのだ。


 長年掛けて培ったその数を崩し、上位ギルドの数を増やすという。

 これは学園の存続にも直結する、非常に重要な事柄だった。


「みなも知ってのとおり、来年度の入学希望者が例年より大幅に増えておる。それに伴い、国からも受け入れを増やすよう通達が来とる。それに今年は〈転職制度〉を実施し新しい学年を作ったことで卒業生が少なくなる見込みじゃ。つまりは来年度、学生数は今よりも増える。すでに新しい校舎、寮、ギルド部屋を増設中じゃな。教員もそれに伴い増やすよう勧誘中じゃ。そして今年の卒業生で見込みのある者にすでに声を掛けておる」


「ええ。〈転職制度〉や高位職の発現条件の一角が判明するなど、今年は様々な事が起こりましたが、その情報の最先端は本校です。教師は情報の最先端を常に伝えなければなりません。本校の学生、今年の卒業生からスカウトするのが一番でしょう」


 学園長の言うことにアイス先生も同意する。

 国中を見渡してもここより最先端の知識を有する場所なんて存在しない。学生からスカウトするのは当然の帰結だった。


「なるほど。学生数が大幅に増えるのですから上位ギルドの数も増えなくてはおかしい。そういうことですか」


〈ギルド申請受付所〉のタルタ所長が学園長の言わんとすることに納得の表情を浮かべた。


「うむ。つまりは上位ギルドに空席が出来るわけじゃ。空席を取るには先ほどのAランクギルドに挑む条件は必要ない。これならば〈エデン〉も早期にAランクギルドになれるじゃろう。Aランクともなれば学園としても体裁が保てる」


「しかし、空席にただ〈エデン〉を置くだけでは学生の反発は当然あるでしょう。学園長、やはり?」


 フガレス教頭先生の言葉に学園長は頷いた。


「うむ。今までどおり、空席を確保するためならばやることは一つじゃ。ギルドバトル〈拠点落とし〉。希望するギルドを募り、空席を掛けてギルドバトルで勝利せよ。そして勝者は昇格じゃ。〈エデン〉にはこれに参加してもらおうと考えておる」


「方針は決まりましたな。ではどのくらい入学希望の学生を受け入れられるのか、そしてどのくらいギルドの数を増やせばいいのか。〈拠点落とし〉の日時はいつにするのか、その辺りを詰めていきましょう」


 ミストン所長の言葉に出席者は頷き、会議は続いていく。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る