第858話〈救護委員会〉とバッタリ。カイリは幸運の女神?
初のレアイベントは〈金箱〉二つ。
〈浮遊戦車イブキ〉のレシピと〈
大当たりだ! さすがレアイベント、レアイベントさすが!
しかし〈浮遊戦車イブキ〉はレシピだ。早急に作製しなければ!
だが、残念な事にこの世界には【クラフター】系の上級職がいない。
さてさて、どうしたものか。
これはギルドメンバーに相談しなければなるまい。
まあ、まだ〈イブキ〉の素材が全然足りないのでもう少し後の話だな。
俺たちはドロップ品を回収後、その足で55層の階層門へ向かい、守護型フィールドボスの〈ツインズフルアーマードタベレオン〉を撃破して転移陣を開放し、〈上下ダン〉へ戻ったのだった。
「あら? カイリじゃない! また会ったわね!」
「あれ? ラナ殿下! ゼフィルス君たちも」
「こ、これはラナ殿下! 今おかえりですか!」
ダンジョンから帰還するとカイリが〈救護委員会〉のメンバーと共に〈上下ダン〉にいた。
ラナがそれに気が付いて声を掛けるとカイリも含めて〈救護委員会〉のメンバーが驚きの声を上げて姿勢を正す。
「そんな堅苦しくしなくて良いわ。今の私は学生だもの、ちゃんと一学生として接してよね」
「は、はっ!!」
〈救護委員会〉のエンブレムを肩に付けた40代くらいの只者で無さそうなおじさんが、ラナの言葉に片手を胸に当てる騎士の礼をして応えた。
この人は知っている。というか学園で知らない人は居ない。
〈救護委員会〉でトップの実力を持ち、カイリの所属する第一上級救護部隊の隊長を務める男、【カリバーンパラディン】に就く騎士にしてラムダのお父さん。シグマ大隊長だ。
カイリの直属の上司である。
カイリの今の肩書きは第一上級救護部隊の副隊長。メンバーはカイリを抜かして9人の精鋭だ。一応〈エデン〉からの〈助っ人〉ということでカイリは〈救護委員会〉に参加しているが、最近の活動は大体上級ダンジョンに進出し、エリアボスを見つけてそこまで安全に〈救護委員会〉をキャリーする重要な役目をこなしている。
カイリ無しではもう効率が雲泥の差なため、完全に受け入れられている様子だ。カイリは〈救護委員会〉でも上手くやれているようだな。
「カイリ、さっきぶりね! 今日の成果はどうだったの?」
「うん! それがね、今日はエリアボスを12体狩ったんだけど、また〈上級転職チケット〉が1枚手に入ったんだよ! これで3枚目さ!」
「マジか、それはすごいなぁ!」
たった12体で〈上級転職チケット〉を引き当てるとか、中々幸運の持ち主がいるじゃあないか。
カイリが自慢すると〈救護委員会〉のメンバーたちが話に参加してくる。
「いや、実際カイリちゃんはたいしたものだよ」
「ほんとよね。あの上級ダンジョンを迷わず、そして安全にキャリーしてくれるから、私たちも力を温存できて助かっちゃってるわ」
「はっはっは、カイリは幸運の女神さ」
「それな! カイリがメンバーに加わってからなんか運気が上がった気がするんだよ!」
「分かるわかる。今日なんてボスから二つも宝箱がドロップしたんだ。上級からは稀に宝箱が二つになるみたいなんだよ。これは新たな発見かも知れないぞ」
「ん?」
はて? 俺は〈救護委員会〉のメンバーたちの言葉に違和感を覚える。
カイリが入って運気が上がった? 宝箱が二つ出た? はて?
「なあなあカイリカイリ」
「ん? どうしたんだいゼフィルス君」
「ちょいちょい」
俺はこっそりカイリを呼び寄せて耳元に口を寄せて聞いてみた。
「なあ、カイリってもしかして『幸運』のスキル付きっぱなしなんじゃないか?」
「え? そりゃ付いてるけど……あ! 宝箱が二つ落ちたのってそういうこと!?」
「マジか。リアルだとそんな事も起きるのかよ……」
ビックリである。どうりで〈上級転職チケット〉が落ちやすいと思ったぜ。
どうやら〈エデン〉と掛け持ちしている影響でカイリの『幸運』が〈救護委員会〉にまで影響を及ぼしていたようだ。これはゲームでは無かった現象。いや、正確には確かめられなかった現象だな。まさか〈助っ人〉にこんな影響まで加わっているなんて。
将来、本当に幸運の女神呼びされるカイリの姿が見えた気がした。
「あわわ。どうしようゼフィルス君」
「ん? 別にどうもしないぞ。カイリはその『幸運』の力をいかんなく発揮してきてくれ」
「へ? いいの?」
「その代わり――カイリはしっかり〈幸猫様〉と〈仔猫様〉に御礼をすること。お供えはすごく大事だぞ。これが条件だ」
「……ゼフィルス君って本当にぶれないよね」
〈救護委員会〉の成長。それは俺的にも大歓迎だ。是非『幸運』を使ってくれ。
だがカイリだけは〈幸猫様〉と〈仔猫様〉に感謝を捧げないとダメだ。
これは絶対である!
俺とカイリはそれで話を切り上げ、〈救護委員会〉たちの元へ戻る。
そうだ。俺もシグマ大隊長には挨拶しておきたかったんだ。
「実際に言葉を交わすのは初めてですね。〈エデン〉のギルドマスターをしていますゼフィルスです。いつもカイリがお世話になっています」
挨拶、大事。シグマ大隊長と〈救護委員会〉の8人のメンバーに挨拶する。
「こちらこそ、初めまして。カイリさんを預からせてもらっています。〈救護委員会〉第一上級救護部隊で隊長を務めさせてもらっていますシグマです。どうぞよろしく」
「よろしくお願いします」
そう言って握手を交わす。
本当はこんなバッタリというタイミングでは無く、正式に挨拶したかったのだが、ちょっとタイミングが合わなくてな。ここで挨拶させてもらった形だ。
「ゼフィルスさん、もし今時間があればお話など出来ませんか? 色々と話し合いたいことがありまして」
と思っていたらお誘いを受けてしまった。向こうも俺と話したいと思っていた様子だ。
もちろん俺に否は無い。俺としても〈救護委員会〉にちょうど用があったんだ。
「もちろん構いませんよ」
「それは良かった。では〈救護委員会〉へ向かいましょう」
「わかりました。ちょっとギルドメンバーたちに伝えてきますね」
そう断って俺は〈救護委員会〉と軽めの交流、挨拶をしているメンバーたちの所に行き、少し用が出来たのでここで解散する旨を伝えるのと、――ついでに今日ドロップしたあれの許可を全員に求めた。
「私は賛成よ。正直、あれは〈転移水晶〉と同じで一ギルドが持つには大きすぎるもの。素材だけ少しもらえればいいのだし、〈救護委員会〉に任せてしまった方が無難ね」
「うーん、ちょっと惜しい気もするけれど、私はゼフィルスに任せるわ」
シエラは賛成、ラナは俺に任せてくれるとのことで話は付いた。
エステルとカルアも構わないとのことなので俺も頷く。
「了解。ありがとうな。じゃあ、今日はここで解散しよう。みんなお疲れ様」
「「「「お疲れ様(でした)」」」」
「また明日な~」
俺はそう告げてシグマ大隊長の下へ行く。
「あれ? ゼフィルス君も一緒に行くの?」
「ああ。シグマ大隊長にお呼ばれしてな」
一緒に〈救護委員会〉へ向かうために合流した俺を見てカイリが首を傾げた。
そこにシグマ大隊長も話に加わる。
「ええ。話したいことが多くありましてね。聞けばラムダとも仲良くしてくださっているのだとか」
シグマ大隊長はラムダのお父さんだしな。息子のことが気になるのだろう。
「はい。クラスメイトですし、友達で仲も良いですよ。共に切磋琢磨しています」
「そうですか、ラムダは良い友人を持ったようだ」
そんな会話をしながら〈救護委員会〉へと向かう。
カイリとも会話を楽しんだ。最近とても忙しいけれど、とても充実しているとのことだ。
自分に力が付いていく事を実感するのだそうだ。
「今まではあの〈嵐ダン〉特有の突風に悩まされてきましたがカイリさんさえ居れば気にしなくて良い。これはとても大きなことでした。おかげで探索がスムーズに進んでいます。これもカイリさんのおかげですよ」
「も、もうシグマ大隊長、そんなに褒めないでください。あまり慣れていないんですよ?」
シグマ大隊長の高評価に恥ずかしがるカイリ。
うむ。俺たちは〈風除けの指輪〉があるのでなんの問題も無いが、普通はあの突風でパーティが壊滅してしまうこともあるのだ。
しかし、カイリの『ミュート』と『インストラクター』のスキルは上級のダンジョンギミックをある程度消してしまう。
それを使っておくだけで、〈嵐ダン〉でも俺たちと同じように活動することが可能なんだ。
さすがは【ダンジョンインストラクター】。強い。
そうして〈救護委員会〉にたどり着くと、前来た時とは別の部屋に通された。
第一上級救護部隊の詰め所の一つだそうだ。
そこの隊長室に招かれて、色々と近況の報告を受けたり、今後の話し合いをすることになった。
カイリ関係のことが多いな。要点を纏めると、あと1ヶ月、冬休みまではカイリを常駐させたいという話だった。
カイリ本人的には〈エデン〉で活動するのも〈救護委員会〉で活動するのも問題無いという。
もちろん俺はOKを出した。元々そのくらい想定の範囲内である。
カイリを上級ダンジョンに入ダン出来るよう育ててくれたのは〈救護委員会〉だ。
上級ダンジョンに入ダンできるようになった? じゃあ返しては道理に反するしな。
カイリさえ居れば10層や20層どころか最下層までキャリーして行くことだって可能なんだから、〈救護委員会〉には是非頑張って力を溜めてほしい。
ただ、釘を刺すのも忘れない。カイリは〈エデン〉のメンバーということもしっかり言っておいた。
学園の公式三大ギルドの一つ〈救護委員会〉と、今ノリに乗っている1年生最強ギルド〈エデン〉から取り合いにされているカイリ本人は、少し目を回しているように見えるが、気のせいということにしておこう。頑張れ大人気カイリ!
話が一段落したところ俺は思いだしたようにある事を告げた。
「そういえば本日〈金箱〉をドロップしまして。中身が〈精霊樹の成樹〉という、復活系アイテムの素材を生産してくれるアイテムなのですが、〈救護委員会〉のほうで買い取りませんか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます