第821話 〈ヘカトンケイル〉戦、各ギルドの動き。




「は! さすがは〈エデン〉だ! あのスキルと魔法が飛び交う戦場に飛び込むかよ!」


「喜んでいる場合じゃないわよガル、狙われてるわ!」


「へ! あんな図体だけのボスにやられる奴がガルタイガにいるかよ! 全員避けながら反撃をかましてやれ!」


「あ、2人やられたわ」


「……あいつらは後で再教育だ! おらあああ! 『獣王バスター』ぁぁぁぁ!!!!」


「ヴオオオオオ!」


「すげぇ! あの巨体からのパンチを弾き飛ばした!」


「おいおい、ギルマスだけに良いとこ取られてたまるかよ! 俺たちも反撃だ!」


 接近戦が得意な〈獣王ガルタイガ〉は〈ヘカトンケイル〉に対し、素早い回避力と斥候に特化する感覚を十全に発揮し、巨大なパンチの雨を回避しながら反撃を加えていった。

 さすがはAランクギルド。〈ヘカトンケイル〉から繰り出される攻撃、その多くを回避し、ガルゼに至っては打ち込まれたパンチに逆に攻撃するという派手な立ち回りを繰り広げていた。


 ガルゼの職業ジョブは【獣王】。

「獣人」カテゴリーの中でも最高峰の一角だ。



 その光景を見ていた〈千剣フラカル〉も動き出す。


「〈獣王ガルタイガ〉に遅れを取るな! 私たちもこれより反撃を開始する!」


「やっとあの厄介な黒衣たちが退場してくれたからね~。というかキリちゃんの妹ちゃんたちすごいね~」


「カノン、感心している場合ではない。すぐに場所を移動しないと良いポジションを確保できないぞ」


「もち、私が行くよ~。リンちゃんパーティーは私に続けー。キリちゃんは安全第一でみんなを連れて来てね、よろ~」


「む、リン、カノンを頼むぞ。行き過ぎそうになったら首をつかんで引き戻してこい」


「無理言わないでくださいキリ姉様、私じゃ止められません。せいぜい拳骨入れるくらいが関の山です」


「そこの姉妹、もうちょっと本人に聞こえないところで相談してくれない~。私へこんじゃうよ?」


「わざとだからな」


「はい。敢えて聞かせています」


「はんにゃ~。もういいもん! 私の悔しさをくらえー『千聖操剣せんせいそうけん』! 『大空千断罪』!」


千剣せんけんフラカル〉のギルドマスター〈千剣姫せんけんきカノン〉から千本の剣が射出される。

 それが一つの生き物のように動き、〈ヘカトンケイル〉を切り裂き、大きなダメージを与えていった。

 カノンの職業ジョブは【剣姫つるぎひめ】の上級職――【操千そうせん剣姫つるぎひめ】。

 ユニークスキル『多くを斬り開く千聖の自在剣』により千本の剣を操る、「男爵」「姫」カテゴリー最高峰の職業ジョブの一角だ。


 バランスの良い人材を多く抱えるAランクギルド〈千剣フラカル〉はその人材を連れ、〈エデン〉の活躍によって出来た〈ヘカトンケイル〉の足元の空間を狙い、ギルドマスターの〈千剣姫カノン〉を筆頭にサブマスターキリエの妹、リンカとそのパーティを連れて突撃していた。


 足元というのは危険は大きいが見返りも大きい。

 ハイリスクハイリターンなポジションだ。足下は足の動きに注意していれば安全地帯にもなり得る。ポジションによってリスクが大きく変動するため、いいポジションを求めて〈千剣フラカル〉は飛び出したのだ。


 先ほどまでは黒衣の人員が占領していたため〈ヘカトンケイル〉を相手に有効な近距離攻撃が出来なかった選手たちだったが、〈エデン〉が黒衣を壊滅に追い込んだため反撃する機会を得たのだ。これを逃す高ランクギルドたちではない。


 まだ黒衣の選手はばらけてそれなりの数が残っていたようだが、それもどんどん各個撃破で討ち取られていく。

 そして残りはボスのみ。


 第二ラウンド開始といったところだった。


 近距離のポジションを確保しに向かうギルドとは反対に、遠距離から固まって攻撃する者たちも居る。


「狙い照準良し」


「合わせて行きますよ。3、2、1――」


「「「「『フレアバースト』!!」」」」


「「「「『テラフレアバースト』!!」」」」


「『メテオヘッドストライク』!」


 魔法使いたちが一斉に〈火属性〉の強力な魔法攻撃を叩き付ける。

 それはタイミングと魔法の種類を合わせたことによって疑似的な〈ジャストタイムアタック〉を生み出し、狙いまで揃えて〈ヘカトンケイル〉の胸部に直撃、あまりの衝撃にあの巨大な〈ヘカトンケイル〉が大きく仰け反り、一歩ノックバックした。


 そこへ落ちる一つの流星。

 仰け反って真上を向いた〈ヘカトンケイル〉の目にそれは映る。

 真っ赤に燃え迫る隕石。

 それは狙いが仰け反り多少ずれても狙い違わず、〈ヘカトンケイル〉の顔面に直撃した。


 背骨がグギッと逝きそうなほどの衝撃に〈ヘカトンケイル〉がブリッジ状態に陥り動きが止まる。その派手な大技に会場から大歓声が響いた。


 それを成したのはAランクギルド〈ミーティア〉の面々、指揮を執るのはギルドマスター、上級職【流星の魔女】に就くアンジェである。



 そんなド派手な光景の外では最後の黒衣狩りが行なわれていた。


「くっ!? なんだこれは!? まだ開始十分も経ってないのに、ほとんどやられてんじゃねぇか!?」


「残ったのは、俺たち3人だけか!?」


「そして、それもここまでだ」


「んな!? 誰―――」


「遅いよ。――『ソウルチョッパー』!」


 黒衣の1人の言葉は続かない。

 キールがすでに〈即死〉のユニークスキルを発動し、その大鎌を胸に突き立てていたからだ。続いて黒衣の足下に現れる転移陣。


「まっ――」


 そして黒衣は残り2人に減ってしまう。


「一撃だと!?」


「〈即死〉攻撃!? こいつ〈死神〉だ! 逃げるぞ!」


「逃がさん! 『サイコキネシス』! ロックウォール岩落とし!」


「な! 岩で塞がれ!?」


「こんなもの砕けば良い! 『衝撃の拳』!」


「ジェイ、良い仕事だね。後は頼むよ、ハイウド」


「任された」


 逃走しようとする黒衣の2人だったが、そこへ立ち塞がるように落ちてきた岩。

 そして岩がパカッと開き、中からサイボーグが現れる。

 それは全身黒を基調としたメタリックでパワードスーツのような装備を着たハイウドだった。


「は!? 岩の中から人、え?」


「『ギガントパンチ』!」


 2メートルを超えるビッグパンチ。

 鋼鉄の塊である拳が突如巨大化し、迫る。


「ま!?」


 それは黒衣の1人の拳と直撃して――そのまま黒衣が吹っ飛んだ。

 もちろんそれだけで終わらない。


「『シャインアームロケットパンチ』!」


 そのまま吹っ飛ぶ黒衣を追うように拳も飛んでいったのだ。その後は悲鳴だけが聞こえた。

 残り1人。


「くそっ!」


 前方のハイウド、後方のキールとジェイに囲まれた黒衣は、最後の賭けに出た。

〈煙玉〉を使用して一気に横から逃げようとした。しかし。


「無駄だよ。君はもう詰んでいる」


「キール君の言う通りだね。では、おやすみなさいだね。良い夢をなんだね――『アバドン』!」


「ぷぎょ!?」


 そこに居たのは全身に闇のオーラを纏った熊人の男子。

 黒衣が逃げた所を一瞬の早業で闇のオーラが呑み込んでしまった。


 彼は上級職【暴食】の職業ジョブに就く〈悪食のロデン〉。

 キール、ジェイ、ハイウドが所属するAランクギルド〈カオスアビス〉のギルドマスターだった。



 各ギルドや選手たちが良いポジション取りや反撃を行なっている頃、〈ヘカトンケイル〉の真正面から防壁を築き、挑む者たちがいた。

 それはSランクギルドの一角、ギルドバトル最強を誇る〈ギルバドヨッシャー〉のメンバーたちだった。

 そのうちオカッパヘアーでめがねを掛けた男子が腕を組んだ仁王立ちの姿で呟く。


「良い展開だ。しかし、有効打に欠けまだまだ被害が大きすぎる。誰かが〈ヘカトンケイル〉を抑える必要があるだろう。今の所〈ミーティア〉の活躍が大きいか」


〈ギルバドヨッシャー〉のメンバーは全員がギルドバトルオタクの集まりだ。

 オカッパめがね男子の言葉に全員が頷きながら攻撃を開始していた。

 近くにいたノッポな四角い黒縁めがねを装備した男子がその言葉を引き継ぐ。


「『オメガバインド』! やはりというか、〈四ツリ〉のバインドですらほとんど足止めにもならないな。他に有効打を模索する必要がある」


 この2人が〈ギルバドヨッシャー〉のギルドマスターとサブマスター。

 オカッパめがね男子はギルドマスターのインサー。ノッポで黒縁めがねを掛けた男子がサブマスターのオサムスだ。

 2人は冷静にギルドメンバーたちに指示を出し、主に体外状態異常にする攻撃で〈ヘカトンケイル〉の動きをセーブしようと試みていた。


「観測班、分析班、結果はどうだ?」


「ダメですね、〈暗闇〉は3秒持たず、〈拘束〉にいたってはほぼ効いていません。他の体外状態異常も軒並み全滅です」


「弱点は〈雷属性〉ですね。ややHPの減りが良いようです」


「魔法攻撃より物理攻撃の方がダメージが多いところから、魔法攻撃に何かしらの耐性を持っているものと思われます。〈流星のアンジェ〉の攻撃は思ったより数値が伸びていません」


「斬撃系のダメージが良いことが新たに判明しました。〈千剣姫カノン〉の攻撃と〈王太子ユーリ〉殿下、〈ハンターアーロン〉の攻撃が大きなダメージを計測。現在のダメージディーラートップです」


 次々上がってくる報告を吟味する2人。

〈ギルバドヨッシャー〉がした事は非常にシンプルだ。


 それは敵を知ること。

 情報を集めに集め、〈ヘカトンケイル〉に取れる戦法や弱点を丸裸にする。

 そうして得た情報を基に戦略を考えるのだ。


「やはりあの三つのギルドにアタッカーを任せるべきだな」


「となると、火力を伸ばす方向と、引き続き〈ヘカトンケイル〉の動きを制限する方法を模索するべきだ」


「それが俺たちの仕事だな」


「戦略パターンデルタが使える。武器は全て〈雷属性〉に換装せよ! また、各ギルドに伝令、得た情報を共有し、希望があれば〈雷属性〉の武器の貸し出しも行なうと伝えろ。まずは〈キングアブソリュート〉からだ。ユーリ殿下ならすぐに広めてくれるだろう。彼らへ優先的に情報を伝え、我らはサポートに徹する!」


「〈ヘカトンケイル〉の動きを止める。または抑制する理想的な戦法を編み出すぞ」


「「「おう!」」」


 こうして戦場に巨大な拳の雨と嵐が降る中、選手たちは様々な戦略を練っていく。


 黒衣のメンバーは全滅。

 ――〈ヘカトンケイル〉のHP――残り90%。




 ―――――――――――

 後書き失礼いたします。


 みなさん、クリスマスまで1週間に迫りましたが、

 クリスマスプレゼント、欲しいですか?


 作者はめちゃくちゃ欲しいです!(2回目)



 というわけで企画、クリスマスプレゼントに投稿数増量するので★くださいキャンペーン第2弾を開催したいと思います!


 楽しみにしていてください!

 よろしくお願いいたします!



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