第803話 上級ダンジョン連続突入! 今度は〈嵐ダン〉!
「ここの攻略の鍵は、〈霧払い〉だ」
「霧払い?」
俺のセリフをオウム返しに聞き返すのはラナ。
ラナはいつも俺が聞いてほしいことを聞いてくれる。
「そうだ。霧が濃いなら晴らしてしまえばいいのだよ、ということだな。実はこの霧を払うスキルを使える
「え、そうなの!?」
俺の発言にラナがビックリした声で叫んだ。
しかし霧でよく見えないのが少し悲しい。リアクションも見たいのに。
「実はそうなんだ。支援系や調査系の上級職はこの霧でも払えるスキルを持っている」
つまりカイリやユミキ先輩もここの霧を払える。
ユミキ先輩だと払うというより照らすになるか。
方法は様々だが、要はこの霧を払って進むのが〈霧雲の高地ダンジョン〉の攻略法だ。
そして霧が払われればこのダンジョンはランク1の〈嵐後の倒森ダンジョン〉よりも難易度が落ちる。〈馬車〉も使用可能レベルになるんだ。それがここのダンジョンがランク2に甘んじている理由だな。
〈キングアブソリュート〉のメンバーを一度確認させてもらった事があるが、ユミキ先輩に近い、霧を照らす系、霧の効力を弱める調査系の上級中位職がいたので、その人を中心としてこの〈霧ダン〉を攻略していたものと思われる。
ユーリ先輩が攻略のために〈馬車〉の作製依頼をしたのもそういう理由だ。
ただ、下層に行くほど霧がとんでもなく濃くなっていくので上級中位職の〈四ツリ〉スキルでは少し視界が悪い。敵とエンカウントしたとき、4分の1くらいの確率で相手に奇襲を許してしまうくらいには。そして何より50人規模の視界を確保するのはとても難しい。
それが〈キングアブソリュート〉が躓いた最大の理由だと思われる。もっと人数を減らせば行けるハズなのだが、おそらく王族のユーリ先輩は少数での行動に許可が下りなかったんだろうな。
とはいえ、特定の
というわけで『〈ランク1〉の〈嵐ダン〉を周回して〈上級転職チケット〉をゲットして特定の上級職を育ててこい』という開発陣からの意思表示だな。中にはゲームにそこまで時間を掛けられない人もいる。そんな人への救済措置のためにとある霧払い系アイテムが存在するのである。
今日の目的はそれだな。
霧払い系アイテム、それを使えば霧を払い、このダンジョンも楽に攻略出来るようになるんだ。まあ、消耗品アイテムなのでミールは掛かるんだが。
「でも今日はカイリが居ないわよ?」
「今日は下見&採取だけだからな。これ以上は進まないし安心してくれ。そもそもこの霧の中じゃ進めないし」
「え?」
そう、今日の目的は下見と採取。下見は〈霧ダン〉がどれほどの霧なのか、リアルで確かめるため。いや、本当に真っ白だよ。10メートル先が完全に見えない。
そして採取はその言葉の通り、ここでしか採取できない素材が必要だからだ。
その採取ポイントも出入り口門の近くに結構あるので、今日はそれを採取して帰るつもり。
「にゃー」
「ん、黒猫隊、戻ってきた。どうだった?」
「にゃにゃにゃにゃにゃー」
「そう」
「カルア、その猫さんはなんて言ってるの?」
ラナが問う。俺も聞きたい。エステルも身を乗り出していた。シエラも気になっている様子。
「周囲のモンスター、向こうに3体の群れ、他には近くにいないって」
「罠の類いは?」
「向こうらへんはいっぱいあるって」
「んじゃ、俺たちが向かうのはあっちだな。行くぞ」
「あ、ちょっと」
「ゼフィルス?」
黒猫隊の調査で安全な場所を突き止めて俺はラナとシエラの手を引いて出発する。
採取場所は本当に近いのですぐそこだ。とりあえず、罠の類いなら『直感』で分かるので見えなくても問題無し。手を繋いでいればはぐれないし安心だ。
「エステルとカルアもはぐれないようにな」
「了解です」
「ん」
そうして歩くこと20秒くらい。採取ポイントの一つを発見した。
「ここの採取罠は〈レムスイカ〉みたいに状態異常にしてくるから俺かシエラが適任だな。ラナ、一応『魔払い』頼む」
「むう、分かったわ。『病魔払いの大加護』!」
「シエラは俺と採取。カルアとエステル、ラナは周辺を警戒してくれ」
そう指示を出して手早く採取ポイントに屈み、〈優しいスコップ〉を片手に採取する。
すると一瞬で伸びた何かの蕾がこちらを向いた。採取罠だな。採取すると発動する上級の罠だ。蕾の内部が膨らみ花粉を噴射。本来なら〈混乱〉やら〈毒〉〈麻痺〉〈睡眠〉などの状態異常を食らうが、俺は〈勇銀装備〉のおかげで何の問題も無い。耐性超高いからな俺の装備。
シエラも俺と同じく〈優しいスコップ〉を使って採取していく。
この二つ目の〈優しいスコップ〉は〈エデン〉がドロップしたものだ。実は〈優しいシリーズ〉のアイテムはそれなりの数がドロップしていたりする。
「お、これで最後か。次のポイントに行こう」
「わかったわ」
3度、4度繰り返すとみんな慣れてきたのか作業に没頭し始める。
そうして12箇所の採取ポイントを回り終え、これ以上はモンスターの多い場所か、奥地に向かわなくてはいけないため、ここで切り上げることにした。
中々良い感じに素材が集まったな。
「ゼフィルス、もう帰るって、これからどうするの?」
「次はこのまま〈嵐ダン〉に行く」
「え?」
上級ダンジョンから帰還したらその足で別の上級ダンジョンに入ダンすると聞かされたラナが思わずと言った調子で首を傾げて疑問を口にした。ラナのその仕草、可愛い。くっ、霧が邪魔だ。
「ゼフィルス、どういうこと? これから〈嵐ダン〉に行くの?」
「そうだ。というか今日の本格的な探索は、最初から〈嵐ダン〉を予定していたんだ。それに上級装備の素材入手もしたかったからな」
「なるほどね」
上級素材の入手の旅。〈サンハンター〉と行くのはランク3ばかりなので足りない素材系統がいくつかあったんだ。現在製作途中で止まっているラナ、エステルの装備の完成にはランク2とランク1にある素材が必要なんだよ。いい加減作らないと。
というわけで、〈霧ダン〉にはその素材も取りに寄ったわけだ。
まあ、それだけじゃ無く、〈霧ダン〉がどんなところなのか一度見てほしかったというのも理由だな。
俺たちはそのまま〈霧ダン〉から帰還すると、少しの手続きの後、〈嵐ダン〉へと入ダンした。
「ってきゃ!」
「うっ、風が、強いわね」
「お気を付けくださいみなさん、風で何かが飛んでくることもあります」
「うう、服が、捲れそうだわ――あれ?」
「風が、治まった?」
入ダン直後の突風によって、俺以外の全員が髪を抑えたり服を庇ったりするが、その風も少しすると完全に治まった。あの凄まじい突風が、本当に全くの無風状態になっているのである。
これにはラナたちもきょとんとしていた。ということで俺の番、説明する。
「ここは〈嵐後の倒森ダンジョン〉。嵐級の突風が吹いたり治まったりする不思議ダンジョンだな。時々強い突風が吹くダンジョンと思っておいてくれ」
そう。〈嵐ダン〉はその通称通り嵐のような突風が時々吹くダンジョンだ。
ずっと吹いているわけではなく、本当に時々思い出したように突然吹く。5分に1回とか、10分に1回とか。長いときは1時間に1回とか。
これによってモンスターが襲ってきたと思ったら吹き飛ばされてどこかに行っちゃったりする面白いダンジョンだ。
ただ、それなりに面倒なダンジョンでもあり、森の木が大量に倒れていて迷路を形成している。突風が吹けば下手をするとパーティが吹き飛ばされてあらぬ場所に行ってしまい、道に迷ってしまうということだってある、とても危険なダンジョンだ。
道に迷うだけならオートマッピングでもあれば問題も解決なのだが、パーティメンバーがはぐれると最悪だ。ここでカイリのスキル『人間探査』、通称迷子捜しが光る。
とはいえこれからは〈転移水晶〉も広まるし、ここの攻略を始める人も出てくるだろう。
しかし、リアルの突風は、結構キツかったので早々に目的を達成して今日は撤収するとしよう。ダンジョンを楽しむのはそれからでも遅くはない!
「よし、採取巡りをするぞ! 突風が吹くときはその前に『ビォ~』って風の音が聞こえ始めるから、それを聞いたら風が治まるまでどこかに掴まること。風は少ししたら治まるからそれまで耐えてほしい。もし吹き飛ばされた場合は〈転移水晶〉を使ってくれ」
「なるほどね。分かったわ」
風が吹く
安全第一だ。
しばらく進むと初の第一モンスターを発見した。
そいつはスライム系。上級初のモンスターにして上級に入ってきたプレイヤーを待ち受ける最初の難関(?)。
「おお! あれはーー!! 〈ハイスライム〉だ! しかも2匹!!」
「これが、スライムの上級個体。でもなんだか普通のスライムと違いが分からないのだけど――あ」
「『ソニックソード』!」
「「―――!?」」
一閃。
俺の〈陽聖剣・ガラティン〉が抜かれると2匹のスライムがまとめてスラッシュされ、HPがゼロになって消えていった。
弱! さすが上級でも最弱モンスターと呼ばれているだけあるぜ。あまりにも弱すぎて逆に滅多にエンカウントしないという最弱者。一説によれば、突風に飛ばされるとそれだけでHPがゼロになってしまうから生きられないのだとかなんとか。なんでこのダンジョンに生息してるのかと。
しかし、そのドロップは非常に重要。
そこに落ちていたのは〈魔石(中)〉と〈上スライムゼリー〉。
この〈上スライムゼリー〉は、〈ハイスライム〉をスラリポマラソンするのに使えるんだ。
ハンナに良いお土産が出来たぜ。ふはははは!
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