第773話 ギルドバトル、開始! 初動、巨城隣接は同時!




「みんな! このギルドバトル、勝つよ! Dランク昇格試験だし、相手は上級職もいる格上だけど、私たちだって〈エデン〉のメンバーなんだって見せつけてやるのよ!」


「よく言ったよサチっち! 私たちだって〈エデン〉の一員なんだってところを分からせてやるのよ!」


「そしてゼフィルス君たちに良いところを見せよう! 勝って帰ってたっぷり褒めてもらおう!」


「「「おおーー!!」」」


 先ほどまでの気落ちした姿はどこヘやら、凄まじい気合いの仲良し3人娘、サチ、エミ、ユウカが本拠地にてみんなの前に立ち、鼓舞していた。


 その言葉に〈アークアルカディア〉全員に気合いが入る。

 エリサはそれを見て満足そうに頷いていた。


「良い鼓舞だったわよ。これなら3人とも大丈夫そうね」


「エリサ先輩!」


「エリサっち!」


「エリサ先輩、お世話になりました。もう大丈夫です」


「よろしい。3人とも、後悔はしないようにね!」


「「「頑張ります!!」」」


 エリサが横から近づくとサチ、エミ、ユウカが尊敬の目を向けていた。

 先ほどのエリサの活がよほど効いたようだ。


「姉さま、そろそろ配置に就きませんと、もう残り3分で開始です」


「あ、フィナちゃん。――それじゃ、あなたたちも頑張ってね。こっちは私に任せておきなさい」


「はい! エリサ先輩、東側をよろしくお願いします!」


 エリサがクルリと回れ右してかっこよく歩き出すと、キラキラした憧れの目をしたサチが体育会系のノリを言いだし始めた。

 すごい影響だった。


 試合開始まで残り3分。

 10人のメンバーはそれぞれ5人ずつにメンバーを分け、二つの巨城を狙う構えだ。

 このフィールドの戦法としてはメジャーとなる。


 今回の〈四角形〉フィールドは中央付近に本拠地が有り、真西と真東に一つずつ、ちょうど相手と争う位置に二つの巨城〈中央西巨城〉と〈中央東巨城〉がある。


 距離的に同じなので同時に攻めなければならず、また相手も二つとも攻めてくるだろう。

 そこでチーム分けだ。


〈中央西巨城〉にはAチーム、リーダーであるサチ、エミ、ユウカと、トモヨ、そしてオリヒメが担当。


〈中央東巨城〉ではBチーム、カタリナ、フラーミナ、ロゼッタ、そしてエリサ、フィナリナが担当することになっている。


 レベルで見れば、高レベルのサチ、エミ、ユウカ、トモヨが偏って配置されているように見えるだろうが、それで間違っていない。

 今回の狙いは〈中央西巨城〉の先取だからだ。


「ゼフィルス君は言ってたもんね。片方だけは絶対に取得することって」


「イメージは出来てるよ! 相手の上級職が出てきた場合はトモヨっち、お願いね!」


「トモヨ、負担の多い作戦だが、頑張ってほしい」


「ふふ、任せて! 何しろクラス対抗戦では上級職のエステルさんを止めた実績があるんだからね。あの時は回復が無かったから押し負けたけれど、回復があればもうちょっと粘れた自信があるよ。オリヒメさん、私が抑えるから回復じゃんじゃんかけて」


「任せてくださいませ。トモヨさんを退場にはさせません」


 作戦は単純だ。

 やはり、一番に警戒すべきは相手の上級職であるギルドマスター。

 ギルマスが東に行った場合は全力で〈中央西巨城〉を落とす。レベルの高いメンバー達で一点集中攻撃だ。


 ギルマスが西に来た場合はトモヨとオリヒメで全力で抑えに行き、その間に3人が全力で〈中央西巨城〉を落とす作戦だった。

 では〈中央東巨城〉はどうするのか、そちらはまた別の作戦を用意している。

 とはいえ不安要素は大きい。しかし、上手くいけば二つの巨城を獲得することもできるし、上手くいかなければ全部持っていかれる。

 出来れば西だけでも獲得したいところだ。


「問題はトモヨのAGIだね」


「う、うん。ゼフィルス君に言われて少し伸ばしたんだけど、やっぱり少し遅いかもしれない」


 トモヨはタンクだ。そしてVITとRESを重点的に育てているガッチガッチの装甲を誇るのだが、〈エデン〉に入るまでそれ以外のステータスをあまり育ててはいなかった。

〈エデン〉に入ってゼフィルスに言われ、AGIを伸ばしたが、それでも130しかない。


「でも靴は良い物を貸してもらえたんでしょ? ならなんとかなるよ」


「〈レースターボシューズ〉ね。〈エデン〉ってこんな物も持ってるんだね……」


 サチの言うとおり、その代わりトモヨの今日の靴は〈エデン〉からの貸与品で、AGIや素早さが非常に高い〈レースターボシューズ〉という装備が着けられている。

 これはAGIが脅威の40上昇するほか『移動速度上昇LV10』を内包する〈ブモル〉からドロップした上級の足装備だ。


 ゼフィルスから言わせればギルドバトルは初動こそ重要であり、素早さこそ命である。そのためこのように素早さ特化装備という物を集めるのには余念が無かった。

 何しろ、最高で〈50人戦〉もあり得るのだ。今から素早さを上げる装備を集めておかないと50人分を良装備でなんてとても集めきれない。


 今回は〈エデン〉が保有する中でも一番良い装備をトモヨに渡していた。

 装備でイニシアチブを取る。

 これも〈エデン〉の大きな力の一つだ。


 そうしているうちにカウントダウンが始まる。


「行くよユウカ!」


「うん。先行する!」


 この中で一番早いのはAGIが200を超えているサチとユウカだ。

〈エデン〉お得意の〈スタダロード戦法〉で、道を作る。


 ブザーが鳴り、試合が今、開始された。



 まず飛び出したのはサチ。

 ユウカは『魔装武装』を発動しながら一歩踏み出し、隣のマスに踏み込んだ直後に『魔弓・パワーショット』で小城周りにいた防衛モンスターを即排除し、サチを追いかける。


 1マス目はサチがタッチ。ここで『魔装武装』を纏い、2マス目にダッシュ。

 ユウカの方が足が速いため2マス目突入時にはサチへ追いついている。

 そこからサチが遠距離斬撃の『魔剣・波斬』でモンスターを一掃。

 2マス目の小城をユウカが流れるようにタッチした。


「2人とも、速い!」


 トモヨが驚愕の声を上げる。

 トモヨ、エミ、オリヒメは先行した2人が作ってくれた道を追いかけるだけだ。

 しかし、全力で追いかけているのにアクティブスキルを使ったり、遠距離攻撃を狙ったりする先行の2人にはまったく追いつけない。むしろどんどん離されていた。

 エミはその感想にニヤリと笑いながら言う。


「これでも私たちは〈エデン〉の一員よ。ギルドバトルの練習は超必須だからって、ゼフィルス君にはたくさん仕込まれたんだから」


 これはちょっとした自慢。

 では終わらない。むしろ3人は、ゼフィルスによって仕込まれたことにより、下手な3年生よりもギルドバトルの事が分かっていた。ルールもさることながら、こうして〈スタダロード戦法〉にしても、しっかりとこの戦法を理解出来るまで練習させられたのだ。

 おかげでぶっちゃけると〈ファイトオブソードマン〉のメンバーよりもギルドバトルの理解度は上だったりする。


 なお、〈エデン〉としかギルドバトルをした事の無かった仲良し3人娘は自分たちがどれほどの実力を持っているのか気づいていない。

 全てはゼフィルスのせい。


 しかし、それに比べてトモヨを含む新メンバーたちはまだ〈エデン〉の薫陶を受けていなかった。ギルドバトルが禁止だったため、座学くらいしか教わっていない。

 故に初めて〈エデン〉の戦法に触れ、新メンバーであるトモヨとオリヒメは驚いていたのだ。


「ほら、ビックリしている暇は無いよ! あれを見て!」


「大量の剣を自分の体にくっつけた装備。相手の上級職、こっちに来たのね」


 そう〈ファイトオブソードマン〉の上級職が来たのは、西側だった。

 中央の観客席を西に抜けるとすぐに〈中央西巨城〉へとぶつかる。

 その前に相手の進行を阻止したかったが。


「思ったより、相手の動きが速い! サチっちたちじゃインターセプトしきれない!」


 以前同じ試験中にゼフィルスが使った、保護期間のマスで相手の進路を潰すインターセプト戦法をサチとユウカが行なうが、しかし、しっかり〈エデン〉のことを調べてきたようで、対策されていた。

 南西観客席の北側の道を走ることでサチ、ユウカとの距離が遠く、追いつけない。

 インターセプト戦法は不発に終わった。


 これが元Cランクギルドの実力。

 相手ギルドの対策は当然のように行なわれていた。


 しかも相手が行なっていたのは〈エデン〉と同じく〈スタダロード戦法〉。

 足の速い2人が先に先行する戦法だ。

 さらに先行する2人のうち1人は見覚えのある存在、〈ファイトオブソードマン〉の上級職だった。


 インターセプトに失敗したために、巨城隣接マスを確保したのは同時。

 相手が速すぎて、トモヨたちが追いつく前に隣接マスを取られてしまうのだった。


〈中央西巨城〉での巨城への攻撃が始まる。




 ―――――――――

 後書き失礼します。


 昨日イメージ図を近況ノートに貼り付けております!↓

 https://kakuyomu.jp/users/432301/news/16817330648775444112

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