第752話 ラナVSエイローゼル。団体戦、俺の相方はどこ




「私は1組のラナよ、模擬戦のお相手よろしくね」


「2組のエイローゼルです。よろしくお願いいたします」


 リラックスした様子のラナと、表情が堅いエイローゼル君、いや、あれが素なのかな?

 なんとなく重鎮を思わせる凄みのある表情だ。


「エイローゼルは村長となる家系に生まれましたからね。あの歳ですでにあの顔がデフォルトなんです。全然可愛くありません」


「いやシェリアよ、男に可愛さを求めちゃいけないぞ?」


 男ならかっこよさを評価してあげて。

 しかし、エイローゼル君は16歳にしてなかなかに貫禄があるな。いや、考えてみればメルトとかもそうだけど。

 おっと、表情の話は置いといて、今はスカウトの話だ。シェリアにその辺のことを聞く。


「それで、スカウトを断られているという話だが、原因は?」


〈エデン〉は自分で言うのもなんだが、とても人気のギルドだ。それは応募をしてきた人数を見ても明らかだろう。そんなギルドからの勧誘を断るというのだから理由があるはずだ。そしてもし問題が起こっていてそれを解決すれば良いだけならば、〈エデン〉は喜んで問題解決に協力しようじゃないか!

 と思って聞いたのだが、シェリアの答えは簡潔だった。


「いえ。ローゼルはBランクギルド〈新緑の里〉のサブマスターなんです。そして来年度にはギルドマスターになる事が決まっています」


「そっちか」


 ああ、これは引き抜きは難しい。

 ギルドマスターをするというのはとても重い立場だ。

 俺もギルドマスターだからよく分かる。

 ギルドマスターがそんな簡単に自分のギルドをやめてはいけない。 

 それはメンバー全員を捨てるのと同義だからだ。


「むしろシェリアはよくスカウトしてみたな」


「ダメ元でしたけどね。現在の段階で首を縦に振ることは無いでしょう」


「そっか。それは残念。また別の人を探すか」


「そうですね」


「2人とも話はそこまでです。始まりますよ」


 エステルの言葉に俺とシェリアが模擬戦場の方へ意識を移す。


「言っておくけれど私は上級職で攻撃魔法が使えるわ。油断すると一撃でやられるわよ?」


「ご忠告痛み入ります。胸を貸してもらう気持ちで挑むとしましょう」


 言葉使いも渋いなエイローゼル君は。

 いったい何歳なんだ? あ、16歳か。


「相変わらずフレッシュさが足りませんねローゼルは。もう少し子どもっぽくて良いと思うのですが」


「ローゼル、ラナ様の前です。もう少し表情を緩めてください」


 シェリアとエステルが無茶を言う。なんだかエイローゼルの表情がさらに堅くなった気がした。


「……外野がすみません。この顔は生まれつきなのです」


「別にあやまってもらうことじゃないわ。それより模擬戦よ! 準備はいいかしら?」


「……ふ、無論、いつでも構いません」


 ラナにとって模擬戦がなにより楽しみな様子だ。それ以外は些事扱いだった。

 それに打たれたのだろうか、エイローゼルが含み笑いをする。

 その手にはシェリアと同じく木製の両手杖が握られていた。

 ほほう、いい装備持ってるじゃないか。〈月桂樹の雷杖〉か。回復系と雷属性の性能が上がる良装備だ。


 2人の返事を聞いて白衣の研究員、ラミィエラスが模擬戦開始を告げる。

 って担当がラミィ研究員かよ!


「よーい、ドン!」


 マラソンか!


「まずは小手調べよ『聖光の耀剣』!」


「絶対ヒーラーの戦い方じゃないんだよなぁ」


 確かここに呼ばれたのは2人ともヒーラーのはず、しかしラナが使ったのはバリバリの攻撃魔法、〈三ツリ〉の宝剣だった。

 光の剣が1本、エイローゼルに飛ぶ。


「『アルフ小規模結界』!」


「おお!」


 アレは、ファンタジーなどでよくある恒例のエルフの結界術!

 エルフの長老といえば、エルフ族を守る結界を使えるというのがお約束だ。

【アルフの守り手】はその名の通り、守る系、結界術にも優れている。ミサトと方向性がかなり被っている職業ジョブなんだ。とはいえ【アルフの守り手】は高位職、高の中なのでミサトの【セージ】の方がバリエーションが豊富だ。


 そんなことを考えていたらラナの光の大剣が、エイローゼルが目の前に張った結界に直撃したところだった。

 結果、ほぼ相殺。


「む! まさか、アルフの結界で防ぎきれぬとは」


 ほとんど相殺だったが、わずかにエイローゼルのHPは削れていた。

 誤差のようなものだが、エイローゼルにとっては驚愕ものらしい。


「では次はこちらの番。『エルフの魔矢』!」


「『聖守の障壁』!」


 エイローゼルも攻撃魔法を持っていたようだ。

『エルフの魔矢』はいくつもの魔法の矢が光線のように発射される魔法、数が多く、回避が難しいが威力はさほど高くない。

 ラナが防御魔法のバリアを張ればヒビを入れることなく終わってしまう。


「私は無傷よ! 続いてこれはどうかしら? 『聖光の宝樹』!」


「ぐっ、『癒しの森力しんりょく』!」


 軽く攻撃を防ぎきったラナの反撃がエイローゼルに刺さった。

 下から木が生えるかのように攻撃してくる『聖光の宝樹』によってエイローゼル君は3分の1近いダメージを受け、後ろに下がって即座に自己回復を掛けた。


「『光の刃』!」


「『森緑の風撃』!」


 エイローゼルが迎撃魔法でラナの攻撃を防ぎに来たな。

 風の塊にぶつかったおかげでラナの光の刃があらぬ方向へと飛び消えてしまう。

 しかし、攻撃がいなされたというのにラナには何の動揺もなく魔法を繋げる。


「『光の柱』!」


「むっ!」


 攻撃を防いだ瞬間、足元からの攻撃、これは避けられないし、防げない。

 ダメージもそこそこ、攻撃を直撃させる腕はさすがラナだ。いい腕をしている。


「『アルフの癒し』!」


「『大聖光の四宝剣』!」


「!! これほどの差とは―――」


 やはりヒーラーは回復している間が大きな隙だな。

 エイローゼルが回復魔法を使った直後、ラナが流れるように〈四ツリ〉を発動していた。

 トドメだ。


 回復魔法を発動した直後なために次の行動に遅れるエイローゼルはこれを防ぎきれず直撃。

 HPが全て吹き飛び戦闘不能になった。


「さすがはラナ様です!」


「完全にプレイヤースキルで追い詰めたな」


「ローゼルはまだまだ甘いですね」


 今の模擬戦を見てエステル、俺、シェリアが評価した。

 しかし、あのエイローゼル君も普通の戦い方は出来ていた。経験不足と相手が悪かっただけだ。


「――見事でしたラナ殿下、また、何かの機会があればよろしくお願いします」


「いいわよ。でも私に勝ちたかったらあなたも上級職になりなさい。それでも簡単には勝たせてあげないけれど」


「ふっふ、これは手厳しい。精進いたします」


 その言葉を最後にエイローゼル君は【ドクター】シトラスの元に向かっていった。

 戦闘不能状態だと魔法は一切使えないので自分に復活の魔法を掛けることも出来ない。

 誰かに掛けてもらうしかないのだ。


「お疲れ様ラナ、見事な腕だったぜ。あのトドメのタイミングが最高だった」


「そうでしょ! 私も日々成長しているのよ! 今回良い感じに決まったわ!」


「とても凛々しいですラナ様」


 エステルのよいしょが留まるところをしらないな。

 しかしその通り、今回のラナはとてもかっこよかった。

 俺もたくさん褒めた。


 ちなみに他の模擬戦場では、

 2組ジェイ× 対 3組のゴウ○

 2組のカジマル○ 対 3組のコブロウ×

 1組のキール○ 対 2組のレミ×

 1組のハク○ 対 3組のハイウド×

 こんな結果になったらしい。1組強いな。


「次、1組ゼフィルス対―――」


「おっと俺の番だ。ちょっと行ってくるぜ」


「私も見学に行くわね!」


 個人の模擬戦授業はこうして進む。

 俺も4度、知らない2組の学生と2回、知らない3組の学生と2回模擬戦を行なった。

 さすがに俺に勝てる相手はいない。

 悪いが4人とも1分以内に片が付いてしまった。

 しかし、めぼしい人材だらけだ。

 ふっふっふ、将来これが良いライバルになったりするんだな~。

 そう思うとワクワクしてしまうな。


 そうして個人戦が終わると次はパーティ戦だ。


「次は5人対5人のパーティ戦だよ。班分けはこっちで適当に決めたから、呼ばれたら集まりな」


 今回のパーティ戦はなんと2組と3組合同。つまり1組だけでパーティを組むのではなく、2組と3組の人も混ぜてパーティを作るということだ。一クラスからは最大2人出す形らしい。

 そのパーティ分けは先生方で行なうようだな。


 早速パーティが発表されていく。

 しかし、俺の名は中々呼ばれず、どんどん1組からクラスメイトたちが呼ばれていく。


「き、キール君、同じパーティですか。よ、よろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いするよラクリッテ君。君みたいな強い盾士がいると百人力だ。僕に使ったあの技も使う予定なのかい?」


「え、えっと、機会があれば」


 キールとラクリッテ、妙な組み合わせだが、中々に話が弾んでいるようだ。


「そ、そんな! メルト様は私よりハクの方が良いって言うの!?」


「何を言っているんだミサトは。先生に決められただけだろうに」


「ああん、うちもミサトはんと離れるんは辛いわぁ。でもミサトはん安心しぃな、メルトはんはうちがしっかり支えるわぁ」


「むむむー!」


 あっちはメルトとハクが呼ばれたようだ。ミサトは1人違うパーティに行くことになって唸っていた。


「あら、ラムダさんも同じパーティですのね。クラス対抗戦以来になりますわね、よろしくお願いしますわ」


「こちらこそよろしく願うよヘカテリーナ殿。あなた以上に心強い存在はいない」


「ふふ、後衛の指揮は任せてくださいな。前衛はラムダさん、お願いしますわね」


「承知した」


 む、リーナとラムダが同じパーティだと? やだ、そっちに俺も加わりたい!


「私と組むのは――セーダンか、クラス対抗戦では敵同士だったが、頼りにしているぞ」


「こちらこそリカさん。それに一度リカさんとは話してみたいと思っていた。俺は〈千剣フラカル〉に席を置かせてもらっているのだが、リカさんはサブマスターたちの妹だと聞いてな」


「そういえばクラスで自己紹介の時言っていたな、姉さまたちはお元気か?」


「とても活発だ。俺がリカさんとの勝負に負けて以降、指導が厳しくなり毎日のように扱かれている」


「ははは、キリエ姉さまたちの地獄の扱きか、それはご愁傷様だな」


 リカとセーダン! 話が弾みまくっている! そろそろ俺も呼ばれない?


「ヘイ、セレスタン。一緒になれて俺の筋肉たちが嬉しがっているぜ!」


「よろしくお願いしますねアラン」


 うむ。


 それで俺の相方は誰だ!?


「最後のパーティは1組ゼフィルス、ミュー、2組アディ、レミ、3組ハイウドだよ」


 俺の相方は【ハードレンジャー】に就くスナイパー。ミューだった。




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