第748話 上級〈勇銀装備シリーズ〉ついに完成!




「なあ兄さん、なんで頬を差し出してるん?」


「いやぁ、誰かにビンタして欲しくて」


「意味が分からん。いったい今度はどんな狂い方したんや?」


「いやあ、うん。すまん。思わずの行動だった。今のは無かったということで一つ」


「まあ、ええけど。兄さんの行動は今に始まったことでもないしな」


「それどういう意味?」


 え? 俺マリー先輩にどう思われてるんだろう。とても気になります!


 いやだってさ。見ろよこのレシピ!


〈慈愛聖衣シリーズ全集〉!

〈聖盾光鎧シリーズ全集〉!

〈貴装蒼鎧シリーズ全集〉!


 目的のレシピ版シリーズ全集が三つ! 1ヶ月でゲットできれば良いな~と思っていたレシピがダンジョン週間最終日にキタ!

 これは何ビンタもらえるか分かったもんじゃないドロップなんだぞ!?

 これを発表しようものならあまりの成果に「嘘付けー(ビンタ)」されること間違いなし。

 そして証拠のスクショを上げて本当だと知ってさらにビンタの嵐が降るだろう。


 これは256Hitを越えるか? 最高新記録出ちゃうかもしれない?

 そんな大当たりである。

 ラナが何かしたのだろうか? 全ては〈幸猫様〉と〈仔猫様〉のおかげ?

 とてもお高いものをお供えしないと!


 俺は密かに用意した〈芳醇な100%リンゴジュース〉を混ぜた焼肉のタレを使用した〈ゴールデントプル〉の特製焼肉の山盛りをお供えすることに決めた。後でミリアス先輩に依頼しないと!

〈幸猫様〉〈仔猫様〉最高のドロップをありがとうございます!


 そんなわけで、思わず頬をマリー先輩に差し出してしまったのだ。完全に無意識の行動だった。

 無かったことにして次へ行く。レシピアピールだ!


「見てくれマリー先輩!!」


「言われずとも見とるわ!! もう! 毎回毎回兄さんには驚かされっぱなしやけど今回は特大やわ! ビックリしすぎて過呼吸になりかけたわ!」


「分かるぞマリー先輩。俺も驚きすぎて足が震えたからな」


 この俺を震わせるとは、大したものだよ。


 とそこへ待ち人きたる。


「マリー先輩? 来ましたよ~」


「マリー姉いる~」


 ハンナとアルルだ。

 ここは〈ワッペンシールステッカー〉のマリー先輩工房。

 大量の素材を納品するついでにさっきのレシピを見せて作製を依頼するところ、やはり上級装備の作製にはハンナとアルルの協力が不可欠なので2人を呼び出したのだ。


「あ、ゼフィルス君、もう来てたんだ!」


「おう、ハンナ、アルル、早速だがこれを見てほしい、……マリー先輩? 手を離して?」


「はっ!? 思わずレシピを掴んでしもうた。なんちゅう魔力や。きっとうちのせいやない」


「マリー先輩が珍しくネタに走ってる!」


 うむ、マリー先輩がレシピ3枚を掴んで離さなかった。

 前にもあった気がする。

 そして、はっと気が付き俺と同じようなことを口走って誤魔化そうとしていた。少しほっこりした。

 まあ、問題は無い。気持ちは分かる。これほどの品、思わず無意識に身体が動いてしまうのだ。恐ろしいことだよ。


 そんな恐ろしいレシピを軽くハンナとアルルにピラリと見せる。

 それを覗き込んだハンナとアルルが、次の瞬間には跳び上がったほど驚いた。


「え? わ、わわわ!? 何これ!? え、これも!? 全部!?」


「なんやこれ!? 上級レシピが三つも!? しかも能力値高っ!? なんやこれ!?」


 アルルが「なんやこれ」を二度言った。

 俺はうむうむと頷いてやるのだ。


「本日俺たちがレアボスを下して手に入れてきた成果だ。早速だが、3人にはこの装備を作ってもらいたいと思っている。全部女性用で、装備するのはラナ、シエラ、エステルだ」


 俺は順番にレシピを指差しながら誰の装備にするかを説明する。

 このレシピ全集は当然女性用を作ってもらう。

 間違わないようにしないといけない。


 まさか1ヶ月を見越していた装備更新が速攻で終わるイリュージョン。

 いや、幻ではないんだけどな。


 これが完成した暁には上級ダンジョンへ足を踏み入れても良いだろう。


「はぁ、やっと兄さんの装備が仕上がったと思ったら、またとんでもないものが来たなぁ」


「ですね~」


「いや、ちょっと待とうかマリー先輩にハンナ、何が出来たって?」


 うっかり右から左に聞き流しそうになってしまったそれを捕まえて頭の中に戻し、意味を完全に理解する。

 え? 出来たの? 本当に!?


「ふっふっふ。うちにハンナはん、そしてアルルの合作にして最高傑作や!」


「大変だったけどなんとか出来たんだよ~」


「マリー姉が買い集めてきてくれた上級素材を惜しげも無く使い切ったかんなぁ、正直性能がもんのすんごいことになっているで」


 そうしてアルルが持っていた〈空間収納鞄アイテムバッグ〉から、高級そうな紙の箱を取り出し作業台へと置く。

 まだ中身が開かれていないのに箱だけでドキドキとテンションが上がる!


「おおお、こ、これが!」


「ゼフィルス兄さんと会ったとき渡そうと思うて、うちが預かってたんや」


 そう言ってアルルは箱の蓋を外すと、中からは俺の〈天空の鎧〉にも似た、しかしさらに強力な雰囲気を醸し出す装備が出てきた。


 ――〈勇銀装備ブレイブミスリルシリーズ全集〉。

 マリー先輩が手がけたと思われる、ベースとなる衣装、それにアーマーなどのパーツが組み合わされた鎧。両手に装着する手甲、両足に装備するグリーブ、頭に装備するサークレットにも似たヘルムが次々取り出されていく。


「んでしまいに、コレや!」


「おお! 〈勇銀の盾〉かっけぇー!!」


〈勇銀装備シリーズ〉は六つの装備で構成されている。

 すなわち、盾、頭、体①、体②、腕、足だ。

 剣だけはシリーズに入っていないが、すでに〈陽聖剣・ガラティン〉がドロップしているので問題は無し。


 ドドンと出されたそれに俺は目を輝かせて感動した。


「す、すげぇ!!」


 もう人が本当に感動したときは難しい言葉なんて出てこないんだな。安直なセリフしか言えない。


「ふっふっふ、兄さんに喜んでもらえてよかったわぁ」


「うん! 生産頑張った甲斐があるよ~」


「そこまで喜んでもらえると生産職冥利に尽きるわぁ」


 俺を囲うようにして見守ってきたマリー先輩、ハンナ、アルルが口々に俺のリアクションに満足げにしていた。


 ええいもう我慢できん!


「着替えてくるぜ!」


 試着室なんて場所は承知済みなのですぐに俺は装備を抱えて走り、すぐに装着。

 今までお世話になった〈天空の鎧〉と〈天空の盾〉を筆頭とした装備たちに別れを告げて〈空間収納鞄アイテムバッグ〉へと戻し、新しく〈勇銀装備シリーズ〉を装備する。ついでに〈陽聖剣・ガラティン〉も装備しちゃう。


 姿見で自分の格好を見て思わずニヤける。


 早速マリー先輩たちの元へお披露目に向かう。

 工房へと向かう道がなんだか輝いて見えた。


「待たせたな。どうだ!」


 じゃじゃじゃん!!

 そんなテロップが脳内でこだまする。

 俺は工房へと入るとじゃんと、剣を抜き上へ掲げる、勇者の決めポーズを作った。

 視線を剣へ向けるのも忘れない。決めポーズは目線が大事!


「「「おおおーー!!!!」」」


 それを見たであろう3人の声が見事にハモった。


「ゼフィルス君すごくかっこいいよ! うん! わー!」


「ええやん兄さん! バッチシきまっとるで!」


「自分で作っといてなんやが、これはかっこええわ~、これギルドの子より先に見てよかったんやろうか?」


 三者三様で褒める3人。

 ああ、なんだか注目されるのがちょっと気持ちいい。


「というかその剣どうしたの!? 新しい剣だよね!?」


「さすがハンナ、気が付いたか」


 俺はふっふっふと自慢げに背中の鞘を外して剣を収納しながら見せる。

 そうしてレシピ三つだけではなく、この〈陽聖剣・ガラティン〉もドロップしたのだと告げた。

 そう四つ超大当たりだったからこそのビンタ最高記録更新である。(未定)


 とはいえ今は生産組の合作を見せる場だ、〈ガラティン〉はすぐに背中にしまう。


 そしてマリー先輩の〈幼若竜〉が『解析』してくれた装備の性能を見させていただいて唸った。


「いやあ、しかしこれはスゲえぜ。性能が、ビックリするほど高い! これは最高だ!」


「せやろ~。うちらも驚いたわ。下級職と上級職の生産品ってこんなにも違うのな。今まで生産職が上級職にならなかったのがアホらしいわ。まあ〈上級転職チケット〉自体生産職は普通手に入らんのやけど」


「はっはっは」


 マリー先輩の言うとおり、装備の数値は、これまで出回っている既存の上級装備の性能を大きく超えている。

 何しろ素材からしてハンナによって本当に上級ボス素材と同じ品質にしたのだから強力な装備が出来上がるのも分かるだろう。


 素材は最高級、本当に最高級の素材を贅沢に使った装備だ。ドロップ品の装備と比べるとその性能の差は歴然。これが生産品の実力!

 生産職3人の顔はかなり晴れやかに、いや、その視線はすでに俺ではなく、3枚のレシピに向かっていた。


 こ、こいつら、すでに次に食いつこうとしている!? 俺は!?


「こ、こほん。素晴らしい装備をありがとうな3人とも。おかげで上級ダンジョンへ挑むその大きな一歩を踏み出した」


「うちらこそおかげさまや。上級装備の本当の作り方も分かったしなぁ。――なあハンナはん、アルル?」


「うん! 次も頑張るよ! シエラさんたちの装備も任せておいて」


「新しいことにチャレンジするんはほんま楽しいわぁ。次も任せときゼフィルス兄さん」


 おおう。完全に意識が次に行っておられる。

 まあ良いんだけどな。俺もそれを推し進めるし、手助けもする。


「3人とも、次の装備も全力で頼むぜ!」


「「「おお~!」」」


 こうして上級攻略メンバーの装備が一つ完成した。

 生産職3人の意識は高く、すぐにラナ、シエラ、エステル、カルアの装備は揃うだろう。


 そうなれば、上級ダンジョンに挑むのはすぐそこだ。

 ああ、楽しみだなぁ。


 俺たちは来るべきその時を思い、それぞれで胸を高鳴らせたのだった。



 第十四章 -完-




 ――――――――――――

 後書き失礼いたします。


 ご愛読ありがとうございました。第十四章も無事-完-いたしました!


 また、昨日は多くの感想をいただきありがとうございました!

 作者、仕事から帰ってさあ感想返しをしようとパソコンを開けた段階で感想数が200を突破。おかしいな、作者の目が数を一桁多く見せてくるよと、目薬点眼してもう一度確認、やっぱり200を突破していてびっくりしました。


 多くのビンタありがとうございました! 現在の時点で273ビンタいただきました! 最高記録更新です!

 こんなにビンタをいただけて〈ダン活〉は愛されているのだなと実感しました!


 また、今日の更新のお知らせです!


 いつも通り12:10頃にステータスと登場人物紹介を投稿いたします!


 また、お待たせいたしました。コミカライズ第5話(前半)の更新も本日11時に行なわれるとのことです!

 漫画家さん、やはり書籍化作業は忙しかったらしく、また今回はカラーもあったので時間が厳しかった模様。

 マリー先輩カラーなので是非読んでみてください! 面白いと思いましたら是非GOODをお願いします!

〈ダン活〉コミカライズはTOブックス コロナEXにて連載中です!



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