第730話 〈妖精女王・シーズン〉戦、ボス本体を倒せ!




「『ああ! 私の眷属たちが! もう許さないんだから!』」


 4体のお供を倒したところで〈妖精女王〉が怒り状態になった。攻撃力が五割増しになり、攻撃の頻度が上がる。

 その手に握る樹木系の両手杖が振られると、魔法攻撃がシエラに向かって飛びまくった。


「『オーラポイント』! 『シールドフォース』! 『ディバインシールド』!」


 シエラは上手く自在盾で防ぎつつ、お供妖精がいなくなったことで解禁した全体挑発スキルでヘイトを稼ぎ、デカい攻撃には強力な防御スキルでガードする。完璧な対応で防ぎきる。


 この〈妖精ダン〉のレアボス〈妖精女王〉は、レアボスでは珍しい眷属を従えるボスだ。

 レアボスは単体が普通なのだが、ここの〈妖精女王〉はお供を持っている分、やりにくいボスと言われている。

 しかし、お供を全て撃破してしまえばこちらのものだ。

 お供がいる分、単体であれば〈妖精女王〉の能力は他のレアボスより格段に弱い。


 しばらく魔法攻撃でシエラを攻撃しつつ、色々と巻き込む範囲系の魔法攻撃を繰り返していたが、時間経過で〈妖精女王〉の怒り状態が収まったところを見計らい、距離を取っていた俺たちも攻撃に出る。


「まずは空中から叩き落とすぞ。ラナ、撃っちまえ!」


「任せてよ! 『聖光の耀剣』!」


「『! キャー!?』」


 ズドンッと一発。

 ラナの特大の光の剣が〈妖精女王〉に突き刺さる。

 おいおい、一発かよ。命中率良いなラナ!?


 これが怒り状態だと飛行速度も増しているのでマジ当たらない、だから怒り状態が消えてから撃ち落とすのが正解ではあるのだが、それでも飛んでいる相手に遠距離からズドンッと決められるのはすげぇ。

 まあ『聖光の耀剣』がそもそも追跡機能付きではあるんだけどな。


 なんにしても直撃したのは良いことだ。

 おかげで〈妖精女王・シーズン〉がフラフラと力なく高度を下げる。すぐにハッとしてシエラに攻撃を再開するが、低くなった高度は元に戻っていない。これなら軽くジャンプで届く。

 そこへすぐにカルアが切り込んだ。


「『ソニックフォース』! 『鱗剝ぎ』!」


「私も加わります、『騎槍突撃』! 『閃光一閃突き』!」


「『キャー! こんのう! うっとしいわ!』」


「シエラカバー!」


「『カバーシールド』!」


 カルアとエステルによってダメージを受けた〈妖精女王〉が周囲範囲攻撃の爆風で吹き飛ばそうとするが、そこへ割り込むのはシエラの小盾。

 小盾がダメージを緩和し、吹き飛ばされずカルアもエステルもその場に留まった。

 つまり、反撃のチャンスだ。


「俺も加わるぜ、――『勇気ブレイブハート』! 『ソニックソード』! 『勇者の剣ブレイブスラッシュ』!」


「『キャー! キャー!』」


 ステータス上昇の特大バフを掛けて一気に斬り込みダメージを与えると、カルアとエステルも負けじとそれに加わってくる。

 相手の身体はボスにしては小さいが、俺たちは幾度も連携してきたメンバーたちだ。阿吽の呼吸で位置が他のメンバーと被らないようにし、攻撃を加えていく。

 ラナは遠距離攻撃をやめ、バフと回復で援護に専念してくれているようだ。


「『も、もう! 怒ったんだからね!』」


「! ユニーク来るぞ! 『妖精女王流:女王のイタズラ』だ! シエラ!」


「『インダクションカバー』!」


「ラナは状態異常回復準備!」


「任せて!」


 瞬間、目の前が真っ白になるほどの光、いや羽が飛び交った。妖精の物では無い、羽毛の羽だ。


 これが〈妖精女王〉ユニークスキル。物量による攻撃。

 この羽に触れると様々なデバフやランダム状態異常に襲われる、非常に危険な全体攻撃だ。

 これによって全員が〈気絶〉の状態異常になって全滅した例もあるのだから恐ろしい。


 しかし対処法はある。

『状態異常耐性』のレベルを上げておく事や状態異常の耐性を上げる魔法をあらかじめ掛けておくなどの対処法、そしてドロー系防御スキルなどでタンクに引き寄せることも非常に有効だ。

 シエラが先ほど全体ドロー系スキルの『インダクションカバー』を発動していた事により、一瞬後には全ての羽が吸い込まれるようにシエラの元へ向かって行った。


 これにはダメージはほとんど無いので全部吸い寄せてもタンクは何も問題は無い。

 たださすがの『状態異常耐性LV10』のシエラでも、ユニークスキルの攻撃では低確率で状態異常が発生してしまう。

 シエラは俺たち全員を庇った事で〈毒〉〈鈍足〉〈麻痺〉〈混乱〉の状態異常に陥ってしまった。しかし透かさず俺とラナが回復する。


「『浄化の祈り』!」


「〈毒〉が残ったか――『リカバリー』!」


「! ありがとう、助かったわ」


「お互い様よ!」


 ラナの元気な声が響く。

 さすがに四つも状態異常になると『浄化の祈りLV1』での全回復は難しいため俺も『リカバリー』でシエラを回復、これで状態異常は全部消えたが、デバフは残る。

 シエラは素早さ以外全部にデバフを食らったようだ。

 これは時間経過で元に戻すしか無い。


 とはいえシエラが稼いでくれた俺たちの健康、有効に活用するぜ。


 ピンチがあればチャンスもある。

 ユニークスキル発動後はクリティカルダウンを取りやすい、俺とラナがシエラを回復している間にすでに〈エデン〉のトップスピードを誇るカルアが切り込んでいた。


「『急所一刺し』! ぶすり」


「『ちょ、なんでー!?』」


 カルアがエージェントな行動力を発揮して背後からぶっすり刺すと、〈妖精女王〉の悲鳴が轟いた。

 なるほど、ユニークスキル発動後にサクッとやられるボスの心境ってこんな感じなんだな。

 カルアの『急所一刺し』は相手がノックバックしている時に当てるとダウンを取りやすくするスキルであるが、これはユニークスキル発動後の硬直状態も適用される。


 悲鳴を上げるしかできない〈妖精女王〉はなすすべ無くダウンした。


「ダウン! カルアナイス! 総攻撃行くぞ! ぶつからないように注意しろ! 『ソニックソード』! 『ライトニングバニッシュ』だ!」


「了解です! 『ドライブ全開』! 『戦槍せんそう乱舞』!」


「勝ってカレーを食べる! 『鱗剝ぎ』! 『64ろくじゅうよんフォース』!」


「なら俺は勝ってレシピを解読するー! 『聖剣』! 『ハヤブサストライク』!」


「『きゃー』!」


 総攻撃が炸裂。残念ながら対象が人並に小さいので俺とカルア、エステルしか参加出来なかったが〈妖精女王〉に大ダメージが入った。


 その後復帰した〈妖精女王〉が放った幾度の攻撃もシエラに防がれ、イタズラによる状態異常も回復され、デバフによる能力低下状態でもラナが回復とバフで援護してシエラを支える事で乗り切り、ユニーク二回目も無事防いで再びダウンを奪って総攻撃をしたところで〈妖精女王〉のHPがゼロになり、エフェクトの海に沈んでいった。


「『覚えていなさいよー』」


 そうして後に残ったのは銀色に光る〈銀箱〉二つだった。残念。


「ああ、会話出来るか試すのを忘れた」


 そんなことを思ったが後の祭り。

 やっぱり強敵のレアボス相手だったから気が抜けなかったな。

 まあいい、次で試そう!


 そんな事を考えていると手の中にいつの間にか硬貨に似た感触。

 手のひらを広げてみれば、そこには〈四季の妖精ダンジョン〉の証があった。


 中級上位ダンジョンの〈攻略者の証〉四つ目、ゲットだぜ!


 これで上級下位ジョーカー入ダンまで、証は残り一つだ。




 その後は時間のあるかぎりレアボス周回に励んだ。

 早速言葉が通じるか話しかけてみたのだが、これは失敗に終わる。

 会話ができないのだ。

 意外な事に妖精はしゃべり、俺たちの行動によって反応はするが、言葉には反応しないという、よく分からないことが分かった。

 しゃべりかけても完全スルーだった。むむむ、難しいな。


 それでも俺の〈ダン活〉欲が満たせたので良しとしよう!


 そのまま夕方になるまで周回した後、いつも通りマリー先輩の店へ向かったのだった。

 さあ、『レシピ解読』の時間だ!



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