第715話 徘徊型〈亡霊リンゴ〉は幽霊のリンゴである。
「ホホーイ、ホホホーイ、ホホホホーイ!」
「シエラいけるか!?」
「!! 大丈夫、行くわ――『挑発』! 『
俺の言葉にハッとしたシエラが『挑発』スキルと『
相手が幽霊だから大丈夫かと思ったが、相手は所詮リンゴの亡霊。ビジュアル的にギリギリセーフ? もし何かあったら俺がフォローしようと思う。
シエラは幽霊が苦手なんだ。
〈亡霊リンゴ〉はいかにも〈
身体に青白い
タダでさえ宙に浮くリンゴってなんだか怖い感じがするのに、幽霊オーラがバンバン出ているのだ。さらには身体が大きいのもちょっと怖い。
しかし、なんだかちょっと明るい声が色々台無しにしていた。
だがこれに心構え無しで突っ込めというのも酷な話なのでシエラにいけるか聞いたのだが、シエラの選択は空中に浮かぶ自在盾を前に出し様子を見るだった。
いいね、それなら幽霊が苦手なシエラでも近づかずに対処できそうだ。
「ホホーイ! ホホホーイ!!」
「む、来るぞ!」
俺の言葉と共に〈亡霊リンゴ〉の裂けた口っぽい空洞から笑い声が起こり、真っ黒なオーラが辺りを包み込んだ。
「きゃあ! これなんなの!?」
「何も見えないわ」
「落ち着け、カルア、ボスを抑えてくれ! ラナ、『浄化の祝福』を!」
「ヤー! 『64フォース』!」
「! 『浄化の祝福』! 見えたわ!」
「ホホーイ!?」
全体を闇の衣で包み込むスキル『闇の誘い』。
これはパーティ全体を物理的に〈暗闇〉の体外状態異常にしてしまうスキルだ。体内状態異常の〈盲目〉とは違い、物理的なのが厄介なところでこれは環境に近い。
そのため『状態異常耐性』でも防げない。周りが真っ暗だからだ。
しかし、ここで活躍するのがカルアの装備している〈自然適応ペンダント〉。これならば闇の中の環境でもハッキリ見える。急いでカルアに足止めを指示し、その間に『闇の誘い』の解除を狙う。
パーティ全体の状態異常を回復するラナの『浄化の祝福』が発動すると『闇の誘い』自体が払われた。よし、リカバリー成功。
『闇の誘い』はパーティ全体の状態異常回復を使うと解除される特性があるんだ。
「シエラ、守陣形からのカバー準備! ラナは
「『
「『病魔払いの大加護』! 『耐魔の大加護』!」
「ホホホホーイ!」
「『カバーシールド』!」
言ったそばから〈亡霊リンゴ〉が『ファイヤーボール24連発』をばら撒いた。
狙いはシエラだが、やや範囲攻撃気味で放たれているため俺たちも攻撃範囲内だ。シエラが『カバーシールド』で盾を操り俺たちの間に割り込ませる。
「シエラは……〈亡霊リンゴ〉相手でも行けそうだな。カルア、〈氷属性〉で切り込め! 俺も続く、エステルも〈光属性〉で攻めろ!」
「ヤー。『メガアイス・スラッシュ』!」
「了解いたしました! 『ドライブ全開』! 『プレシャススラスト』!」
「『サンダーボルト』!」
「ガシャシャ!」
「おう、『すり抜け』で回避しやがった。みんな今みたいに攻撃するとき、相手の姿が消えかけているくらい透けているときは攻撃してもすり抜けるから注意な!」
「ちょっとそれどうやって倒すのよ!?」
「ずっと『すり抜け』は出来ないんだ。相手の存在感が増したタイミングを見て攻撃するんだ!」
「結構無茶言うわね! 遠距離だとタイミングが掴みづらいわよ!?」
そう、この〈亡霊リンゴ〉は幽霊の十八番、攻撃がすり抜けたを発動することがある。
これは身体が濃くなっているときに攻撃すれば別に物理攻撃でも当たるが、身体が薄くなっているときに攻撃すると何にも当たらない無敵状態なのでマジ注意。とはいえ『すり抜け』中は他に〈スキル〉〈魔法〉を使ってこないのでただの時間稼ぎだ。待ち構えていれば良い。
しかし、遠距離攻撃担当だとその消えるタイミングと現れるタイミングを計ることが難しい。現れている時に攻撃しても当たる直前に消えることがよくあるからだ。
とはいえ対処法がある。
「ラナ、〈亡霊リンゴ〉が『すり抜け』モードになってから5秒後に攻撃してみろ、それで当たるぞ」
「そんなことでいいの!? 分かったわ―――今よ! 『聖光の耀剣』!」
「ホホッ!?」
「やったわ! 命中よ!」
あの〈亡霊リンゴ〉の攻略法は簡単だ。一度消えると、再び消えるまで10秒のクールタイムがある。
消えてから現れるまでの時間はランダムだが、消えていられる時間は大体2秒から7秒くらいだ。だから消えてから5秒でラナが攻撃魔法を発動すると、発動→発射→命中で約3秒後に着弾するので必ず命中するのである。
まあ、近距離メンバーたちはそもそもこんなタイミングを計ることもしなくて良いんだけどな。現れたら攻撃、消えれば再び現れるまで待つ。その繰り返しだ。
しかし、ダンジョンの階層をすり抜けてこられるように、こいつがすり抜けられるのは別にスキルや魔法だけではない。
「ホホホーイ!」
「く、木の裏に!」
「あふっ!?」
「エステル、カルア、あまり追いかけようとするな!」
ここは農園であり果樹園だ。
つまり樹木がそこら中にある。
そしてその樹木だって当然のように〈亡霊リンゴ〉はすり抜けてしまう。
しかし、エステルの槍はそうは行かず、すり抜けながら逃げる〈亡霊リンゴ〉を追いかけて木を叩いてしまった。
さらにカルアが突撃しようとして樹木に顔面から強打していた。あれは痛そうだ。短剣はリーチが短いから接近する必要がある。気をつけないと。
「『回復の祈り』! カルア大丈夫!?」
「痛た……、なんとか。――このリンゴ、食べられないくせに、なまいき!」
おお、カルアが珍しく気炎を吐いていた。
「ホホホホーイッ!」
「『カバーシールド』!」
「追いかければ木を盾にして逃げ、追いかけなければ魔法攻撃ですか。さらに近づけて攻撃してもすり抜ける! 厄介な敵ですね!」
まったくエステルの言うとおりだ。
こんな行動が出来るのも徘徊型ボスだからだな。
カタリナやシャロンがいれば逃げ道を塞いで簡単にボコボコに出来るのだが、無い物ねだりをしても仕方ない。
徐々にダメージは蓄積出来ているが、俺たちの攻撃のリズムは崩されているためなんだか厄介に感じるのだ。
エステルに攻撃の狙い目を教えておく。
「〈亡霊リンゴ〉は攻撃している最中に『すり抜け』は使えないからな。敢えて誰かに攻撃させてから一気に攻めるのがいいだろう」
「囮作戦ですね。シエラ殿、近づけませんか?」
「いいわ。やってみる。――『シールドバッシュ』!」
狙われる担当と言えばタンクだ。つまりはシエラ。
シエラは覚悟を決め、盾突撃である『シールドバッシュ』でアタックする。
「ホホホーイ!」
当然のように突撃してくるシエラに〈亡霊リンゴ〉は魔法で迎撃する。闇の光線を放つ『リンゴ
「今よ!」
「はい! 『プレシャススラスト』! 『閃光一閃突き』!」
「『
「『聖剣』!」
「ホホホーイッ!?」
シエラを攻撃中、すり抜けることは出来ない。
機会を窺っていたエステルはそのまま突っ込み攻撃を加えていく。
カルアも武器のスキルである〈氷属性〉をフルに使っていた。
〈亡霊リンゴ〉はすでに生身を捨てている幽霊なので〈氷属性〉に耐性は無い。〈幽霊特性〉は無属性のダメージをかなり軽減してしまう効果があるが、属性攻撃は逆にダメージが増すからだ。
さらに、
「いっけぇ『大聖光の四宝剣』! 『聖光の宝樹』!」
〈光属性〉〈聖属性〉魔法攻撃はもっとダメージが増す。
「ホホ!? ホホホホーイッ!?」
こりゃ大量のダメージが入ったな。
「ホホ……ホホイ……」
「あ、逃げるぞ!」
徘徊型ボスはHPが多く減ると逃げる。
逃がさん!
「逃がさないわよ!」
「ラナ、あいつの足元、地面に向かって『聖守の障壁』を張れ!」
「え? どういうことよ」
「あいつはHPがレッドゲージになるとすり抜けを使って49層に逃げて体力を回復するんだよ。だから地面に結界を張って通行止めにするんだ!」
「! そういうことね! 『聖守の障壁』!」
「……ホ?」
勇者からは逃げられない。
ラナが張った見事なバリアが、地面にレジャーシートを敷くように張られた。
そこへ身を地面に沈めようとした〈亡霊リンゴ〉が入っていけなくて困っていた。
この『すり抜け』は万能では無く、光属性や聖属性の結界や壁なんかは通過できないのだ。同じ属性の攻撃はすり抜けるのに!
【結界師】系を連れているとできる徘徊型を逃がさない作戦であるが、ラナも障壁使えるしイケるかと思ったが、見事にイケたようだな!
「そこへ『属性剣・光』! からの~『ライトニングバニッシュ』だ!」
「ホホホホーイッ!?」
逃げ出そうとしていると見破っていた俺が真っ先に追いつき、強力な一撃をプレゼントした。
これがいい感じに決まり、クリティカルが発生。
〈亡霊リンゴ〉はクリティカルダウンしてしまう。
「よっしゃチャンスだ! 総攻撃!」
「いっくわよー!」
「ここで決めます!」
「食べられないリンゴはここで、倒す!」
こうして逃げようとしてクリティカルダウンを取られてしまった〈亡霊リンゴ〉は、俺たちの総攻撃を受けてHPがゼロになり、膨大なエフェクトの海に沈んで消えた。
そしてその後には金色に光る〈金箱〉が残されていたのだった。
――――――――――――
後書きでお知らせを失礼いたします。
本日12時より、近況ノートの方で重大な告知があります。
よろしければ見てくださると嬉しいです。
https://kakuyomu.jp/users/432301/news/16817139558191482631
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