第十四章 上級へ進む道。生産職は覚醒する!
第706話 マリー先輩への突撃依頼!上級レシピはいかが?
「マリー先輩いるか~」
「いるで~」
もう俺たちにとって当たり前になりつつあるいつものやり取りが店に響く。
ここはCランクギルド〈ワッペンシールステッカー〉の店の中だ。
相変わらず売り子のマリー先輩が、その小さな体にツインテールを揺らしながらぴょこんと店の奥から出てきた。
相変わらずツインテールがよく似合うこと似合うこと。
「…………」
「どうしたんや兄さん?」
「ああ、いや、そういえばマリー先輩はいつも売り子をしているなって気になってな。物作りとかっていつやってんだ?」
ツインテールがマリー先輩の体型によく似合うと思っていたとは口が裂けても言えない俺は、前から気になっていたことを口にして誤魔化した。
なんだかマリー先輩がうっすら疑いの目で見ていたような気がしたが、何とか納得してくれたようで話を進めてくれる。
「別にいつもここで売り子してるわけやあらへんよ。放課後は夕方だけやしな。休みの日は朝と夕にここにおんねん。兄さんが来るのは大体朝と夕方やからな、それでうちが担当の時が多いだけや」
「あ~、なるほど」
そう言われて思い出す。俺って効率を求めるあまりタイムスケジュールが大体決まっていて、ここにはその時間にしか来てなかったなと。
例えばダンジョン行けば帰って即素材を売る、これが俺の中にはインプットされているわけだ。〈ダン活〉の世界に来てからは女子もいるしとのことで日が沈む前にはダンジョンから引き上げるという生活をしていたが、つまり毎回同じような時間にマリー先輩の店を訪ねるからその時間を担当するマリー先輩と多く当たってただけの話らしい。
思い返してみれば休みの日だと大体日中はダンジョンにいるか、色々してるから店に来るのは朝か夕方だけだった。なるほどな~。
「しかしいったい何や、藪から棒に」
「いや、普通にマリー先輩以外の売り子を見かけないから気になっただけ」
「あれだけ店に来て、うち以外が売子の時に現れなかったんは偶然やったんか……」
なぜだか知らないがマリー先輩がおののいていた。
どうしたのだろう?
「まあ、ええわ。兄さんが持ってくる素材の山、大体うちが捌くことになってたんは単に偶然やったと知って少しダメージを受けただけや。今度から他の奴らに振る舞うで」
「お、おう。頑張ってくれ?」
「全部兄さんの話なんやけどな!」
マリー先輩のツッコミ! ありがとうございます!
ツッコミを入れて少し落ち着いたマリー先輩が一息入れてから再度聞いてくる。
「それで今日は何の用や兄さん?」
「おおっとそうだった、実は俺のギルド〈エデン〉がCランクギルドになったという話は知ってるだろ?」
「それ結構前の話やん。もちろん知っとるで、あれだけ話題になれば知らないもんなんているはずないやん」
「そうだろう。あれは結構頑張ったからな。まあそれでCランクになったということは、ギルドハウスをゲットしたというわけだ」
「ご近所さんやな」
「マリー先輩とは今後もご贔屓に」
「……まあ、ほどほどに頼むで? ほんで?」
「ほら、Cランクギルドって店出せるだろう? ここみたいに。だから店だそうと思うんだよ、〈エデン〉にも生産職はいるし」
「知っとるよ。というか生産職で知らない人なんかいないんやないの? 生産職唯一の上級職はん」
まあ、ハンナの装備はマリー先輩が手がけているからな。知らないはずがない。
ハンナもここにはたまに来るみたいだし。
「ということで、お店を出したいんだがちょっと内装なんかが良く分からなくてな。マリー先輩売り子歴長いし、ちょっと店についてアドバイスが欲しくて」
そう、今日俺が〈ワッペンシールステッカー〉ギルドを訪ねた理由は、店を出すので内装のアドバイスを貰えないか、といういつもとは変わった依頼だった。
俺はゲーム〈ダン活〉時代の内装なんかは知っているが、その内装が売り物に響くことはゲーム時代はなかったのだ。つまり、どんな奇抜な内装、例えばリアルでこんな店にしたら絶対に人来ないだろ、というようなホラー系にしてもゲームでの売り上げは変動しなかった。
だからどんな内装にすればいいのか俺はいまいち分からなかったのだ。主に女子目線が気になります。
そこで売子の道のプロ(?)であるマリー先輩に売子の何たるか、ではなくて内装や客の来る店、売子の働きやすい店をアドバイスしてほしかった。
そう説明する。
「ほぉ~なるほどなぁ。しかし、そりゃあタダっちゅうわけにはいかんなぁ」
「もちろん報酬はたっっっっぷり用意してます! ということでどうか一つ」
「たっぷりの量が問題なんに気付いて兄さん?」
ギルドメンバーが周回頑張ってるので素材を始め、〈銀箱〉の装備やアイテムもそれなりの数卸しているのだが、なぜかマリー先輩の頬が引きつるんです。
どうやらマリー先輩に量はダメのようだ。
なら、やはり質かな?
「それなら上級装備のレシピでどうだ? もちろん〈金箱〉産だ」
「マジで!?」
ほら、マリー先輩が食いついた。
――レシピ。特に上級装備レシピを生産職がゲットするには戦闘職の人に売ってもらうか交渉して手に入れるなどしか無いが、当然そう簡単には手に入らない。戦闘職でも中級上位ダンジョンのレアボスを倒せる人材は少ない上に、レシピは貴重な物なので売るという選択をする人が少ないからだ。
生産職の方々はその数少ないチャンスに目を光らせ、ゲットできる機会は決して逃さない。それはマリー先輩も同じのようだ。
「ええで、ええで。で、どのレシピなんや。まず物を見せてほしいで!」
見ろ、このマリー先輩の食いつきを。これが上級のエサだ。食いつきも上級です。
しかし、残念ながら今は持ってない。
「ギルドに置いてあるな」
「んなら行くで! 今すぐや!」
「おお! 了解了解」
マリー先輩が右手を上に上げてゴーサインを出した。
すごいやる気です。
マリー先輩はすぐにギルド内に引っ込み、眠たげな、というかすでに夢の世界に旅立っている例の先輩をその辺に立たせて素早く出かける準備をすると声をかけてきた。
「準備オーケーや!」
「本当にオーケーなのか?」
俺の視線は立ったまま寝ている女子の先輩に釘付けだ。本当に準備オーケーでいいの?
「大丈夫や。――メイリーうちちょいっと出かけてくるから店番頼むで!」
「むにゃ……」
「ほらな?」
「……そっか。んじゃ、行くか!」
「おっしゃ! あの〈エデン〉が取ってきた〈金箱〉産上級装備レシピ、くっくっく、これは楽しくなってきたで!」
マリー先輩のテンションがいつになく高いぜ。
後、あの眠たげな先輩の名前、メイリー先輩って言うんだって俺はこの時初めて知った。
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