第634話 なぜか話し合いの場に学園長とユーリ先輩がいる




 カサンド先輩に誘われたが時刻も時刻だったので話は翌日の放課後ということになった。

 なんだかチャットが届いたカサンド先輩に急用ができてそうなったとも言える。何やら血相変えて帰っていったが、どうしたのだろうか?


 そして翌日。

 はて? どうしてこうなったのだろう。現在俺が居るのは円卓会議で使われるようなイメージの、というかまんま円卓の間だった。

 そこに〈エデン〉の代表として俺とシエラ、そしてセレスタンが出席し、向かいの席には〈テンプルセイバー〉から代表としてギルドマスターレナンドル先輩、サブマスターのタバサ先輩、そしてカサンド先輩が座っている。レナンドル先輩とカサンド先輩は何やら顔色が悪い。


 そして〈エデン〉と〈テンプルセイバー〉の間、〈エデン〉から見て右側の席、出入り口からもっとも遠い位置にはなぜか見覚えのありすぎる王太子のユーリ先輩と、学園長が座っていた。どうしてだろうね?


 反対に〈エデン〉から見て左側、出入り口に近い席には、これまたよく知る〈ホワイトセイバー〉のギルドマスター、ダイアス先輩とサブマスターのニソガロン先輩が座っている。


 タバサ先輩の実力を見るためにダンジョンに入った翌日の放課後、俺たちはこうして〈テンプルセイバー〉のギルドハウスへと集まっていた。


 会議場には一言では言い表せないような空気が流れているな。


 そして全員が揃ったのを確認した所でユーリ先輩が立ち上がる。


「これより〈テンプルセイバー〉と〈エデン〉の〈決闘戦〉についての摺り合わせを行ないたいと思う。進行は〈キングアブソリュート〉のギルドマスターである僕ユーリと学園長が務め、公正に判断するので安心してほしい」


 その言葉を聞いた〈テンプルセイバー〉の男たちがさらに顔色を悪くしているがいいのだろうか?


 どうしてこんな大事になったのか、俺は記憶を遡る。


 うむ、あの果たし状を学園長室に落としてしまったのが原因らしい。


 予想通りというか、俺はあの果たし状を学園長室で落としていたようで、それを見つけたユーリ先輩が学園長に相談。

 宛名が無かったので中身を見る、なんてお行儀の悪いことは行なわず、学園長がわざわざ〈テンプルセイバー〉の元へ確認に向かったらしい。


 へ? なんの確認かって?

 そりゃあ、この果たし状がいったいどちらにユーリor学園長向けて届けられたのか確認するためだ。いや、冗談だ。


 実際は元Aランクギルドの急な転落を心配した学園長の訪問、という建前のアポ無し視察であった。そりゃあ〈テンプルセイバー〉も震えるだろう。

 しかも今は上級ダンジョン攻略で多忙なはずのユーリ先輩まで来ちゃったのだから大変だ。だって〈テンプルセイバー〉が求めているはずの〈白の玉座〉って今はユーリ先輩の妹であるラナが使っているんだから。不用意な一言でどうなるか、震えが2倍である。


 そうして〈テンプルセイバー〉はとても隠しきれず、元AランクギルドがCランクギルドまで転落した理由、そして今抱えている問題を全てさらけ出したらしかった。


 当然学園長はこれに厳しい意見を言わざるを得ず、〈テンプルセイバー〉の学園からの評価はかなり下がったらしい。


 一発逆転を狙ったという〈決闘戦〉の招待状が巡り巡って首を絞めることになるとは、因果はめぐるのだなぁと実感した。


 すみません。俺が果たし状を落としたせいです。なので若干責任を感じてます。


 さすがに恨まれても困るので、内容を聞いた所で俺が少し待ってほしいと告げたのだ。


 ここからはなんやかんやあったので省略し、結局〈テンプルセイバー〉の要望、〈決闘戦〉のお誘いを〈エデン〉が受諾することで合意した。

 もちろんこれには意味がある。

 以前〈天下一大星〉にリーナがしたように、〈決闘戦〉の勝者になると敗者はまったくと言っていいほど手が出せなくなるからだ。要望に応えるという建前もあって相手の顔を立てるという意味合いもある。

 要は綺麗に終わらせるには、〈決闘戦〉で勝ってしまう方が手っ取り早かったのだ。


 ということで、今ここでその〈決闘戦〉についての摺り合わせの場が用意されている、というわけである。


 ちなみに、ユーリ先輩の活動は俺の意見アドバイスを大々的に取り入れ、まずは〈ランク1〉の〈嵐後の倒森ダンジョン〉を攻略することにしたようだ。今はその準備中ということで、逆に時間が空いているのだという。

 握手をしながらお礼を告げられたよ。ついでに、今回の円卓の会議で借りを少しでも返そうとしているそうだ。


「まずこの〈決闘戦〉だが、ルールに違反した所は無く、両ギルドの了承もあるため恙無つつがなく開催出来ることをここに表明する」


「うむ、元AランクギルドとDランクギルドでは力の差もあり、いくらCランクギルドとDランクギルドとの〈決闘戦〉でも普通ならば教員の審査も受けねばならんところじゃが、今回は〈エデン〉の要望もあり、ワシの権限で許可しよう」


 ユーリ先輩が上げ学園長が許可したのは〈決闘戦〉のルールの一つ、〈決闘戦〉ではランクが1ランク上下のギルドにしか提案できないというものだ。つまりCランクギルドであればDランクからBランクまでしか〈決闘戦〉を申し込むことはできないということである。

 ただ、上位ギルドが下位ギルドに〈決闘戦〉を仕掛ける場合は学園の審査が必要になる、これは過去〈決闘戦〉を悪用して下位ギルドから搾取した例があったためだ。


 しかし、今回はそもそも学園長が直々に公証人の立場になっているので、学園長が許可を出せば通る。その確認だった。


「続いて。まず一番重要な、何を賭けるのか、そのレートの摺り合わせを行なおう。〈テンプルセイバー〉、どうぞ」


「……失礼する」


 ユーリ先輩に振られ、ゴツい騎士鎧を着た大男レナンドル先輩が答える。


「我々は〈白の玉座〉を希望したい。それ以上は求めない」


 若干、ゴツい体格の割には覇気の無い声でレナンドル先輩が言う。


「ギルド〈エデン〉、〈白の玉座〉を賭けることに同意するか?」


 ユーリ先輩が確認してくる。公証人のユーリ先輩はいつもの柔らかい表情が取れ、きりっとした態度だ。上の立場の人間、という雰囲気を感じる。

 ここで俺が首を振るとご破算になるので頷かなければならない所だが、ユーリ先輩の目が微妙に笑っていないように見えるのは気のせいだろうか?


 うむ。心当たりがある。

 話をぶった切ってごめんだが、〈白の玉座〉を賭けるには解決させなければならない問題が二つあった。


 一つは現在の所有者であるラナの許可だ。

 まあ当り前の話だが、〈テンプルセイバー〉はこれで失敗した。ちゃんと所有者に許可は取らなければならない。そして現在の使い手はユーリ先輩の妹であるラナである。ちゃんと許可を取らないと大変な事になるよ。


 しかし、俺に死角無し。あれから1日も時間があったのだ。ちゃんと根回し済みである。


「まずラナの許可はこうして取ってある」


「そ、それは!?」


 ラナからの手紙を見せるとユーリ先輩の纏っていた雰囲気が霧散してしまった。

 ユーリ先輩、とても驚愕しているところ悪いが、残念ながらユーリ先輩宛ではないよ。ここには〈白の玉座〉を賭けても良い旨が書かれている。


『〈白の玉座〉を私から手に入れようなんて良い度胸ね! 返り討ちにしてあげるわ!』


 要約するとこんな感じのことが書かれていた。さすがラナだ。負けるとは1ミリも考えていない様子だ。

 さて、これでラナは〈決闘戦〉を受けることに同意した。


 もう一つが問題だな。これを解決させないと〈白の玉座〉は賭けられない。


「あとこの〈白の玉座〉だが、実はAランクギルド〈獣王ガルタイガ〉に所有権が残ったままで、俺たち〈エデン〉はまだ正式に受け取っていない状態なんだ」


「ん? ゼフィルス君、詳しく話してくれ」


 俺は〈獣王ガルタイガ〉と交渉し、とある装備と引き換えに〈白の玉座〉を正式に受け取る事、それまでの期間は対価を支払ってレンタルしていることを説明した。


「ということで、〈白の玉座〉を賭けるには〈獣王ガルタイガ〉から正式に所有権を受け取らなければならない」


「そうだね。今のままでは確かに〈決闘戦〉を成立させることはできないね」


「そんな」


 ユーリ先輩の発言にカサンド先輩が震え声を出す。


 いやいや震えるにはまだ早いよ。間違えた。安心してほしい、ちゃんと考えはある。


「まあ待ってくれ、要はその〈獣王ガルタイガ〉が欲している物を手に入れれば良いということだ」


「ふむ、何か宛てはあるのかいゼフィルス君?」


 ユーリ先輩の期待を込めた視線に頷く。


「学園長、よろしいでしょうか?」


「うむ。何かなゼフィルス君」


「例の貸しを、返して貰えますでしょうか?」


「ほう」


 そう、俺の考えとは、例の俺が二学期も臨時講師を続けることを引き換えに〈獣王ガルタイガ〉が欲している装備、〈放蕩ほうとう獣鉄剣じゅうてつけん〉を学園長から手に入れようという案だった。


「〈放蕩獣鉄剣〉か、確かに学園にはある」


「おお!」


 カサンド先輩から期待の声がした


「では――」


「しかし、〈放蕩獣鉄剣〉はかなり価値の高い品じゃ。いくらゼフィルス君が臨時講師をしてくれるとはいえ、さすがにほいと渡せる物じゃないの」


 まあそうだろう。多分臨時講師で得るお給料の数十倍数百倍、いやもっとかもしれない品だ。周りの目もあるし、タダでくれと言うには高望みが過ぎると思っていた。大丈夫、想定内だ。


「では格安で売ってくれることはできますか?」


「ほう」


 タダがダメならお金を払えば良いじゃない。タダより高い物は無いとも言うしな。

 金で解決出来るのであればする。〈白の玉座〉ゲットだぜ!


「ふむ、ゼフィルス君には大きな借りがあるしの、ワシの権限で売ることを許可しよう。しかし、安くできたとしてもこれくらいじゃぞ?」


「って高っ!」


「そりゃ上級装備の中でも強力な能力を秘めた剣じゃからのぉ」


 学園長が提示してくれた額は、なんだかゲーム時代より10倍くらい高かった。確かに無茶苦茶強い装備だけども。

 そういえばこの世界って上級装備高いんだっけ? え? これで安くなってるの?

 獣王子め、そりゃ〈白の玉座〉を交換に出せるわけだよ。まさか〈放蕩獣鉄剣〉までこんな高くなってるとか!


「どうするのじゃ?」


「買います」


 だって買わないと〈決闘戦〉が終わっちゃうし。


「そうか、では」


「あ、でもちょっと待ってください。買うのは〈決闘戦〉の当日までに〈放蕩獣鉄剣〉が手に入らなかったらでもいいですか? ちょっと高いので、自力で取りに行ってみようかと思います」


 うん。買うとは言ったがちょっと待ってくれ。やっぱ自力で取りに行った方がいいわこれ。学園長から買うのはマジで最後の手段にしたいぞ。


「ほ? ほっほっほっほ。そうかそうか。あい分かった。少ない日数しか無いが、頑張りたまえ」


「はい!」


 よし、紆余曲折うよきょくせつあったが、これで〈白の玉座〉が正式に〈エデン〉の物になる手配が整った。

 とりあえずドロップを狙いに行こう。手に入らなかったら最悪学園長から購入するとして、どっちみち〈白の玉座〉は手に入ることになった。


 これでようやく問題解決だ。別の問題も出来てしまったが……、後でニーコに頼ろう。


「よろしい。では〈テンプルセイバー〉の求める物は〈白の玉座〉。これを認める。続いて〈エデン〉は何を求める?」


 ……さて、とうとうこっちの番だ。どう切り抜けようか?

 俺はシエラをチラッと見る。

 シエラは俺をジーっと見つめていた。ジト目じゃないシエラだ、恐ろしい。


 はい。〈決闘戦〉を決めたのは俺なので頑張ります。


 正直、これを俺が言うのって凄く恥ずかしいんだけどな。

 しかし言わねばなるまい。俺は覚悟を決めて自分に活を入れて言った。


「〈エデン〉は、タバサ先輩が欲しい。タバサ先輩が身に着け使用している〈テンプルセイバー〉所有の装備、アイテムごと、タバサ先輩の移籍を求める!」


 ガタッ!!


 隣の席と前方のタバサ先輩の席で何やらガタッの音が。


 少し、熱を入れすぎたかも知れない。

 見ろ、いや見たくない。シエラが俺の方を凝視しているのを感じる。


 そしてタバサ先輩はというと、一度立ち上がりかけた体を座り直し、冷静に瞼を閉じてすまし顔を作っている所だった。しかし、頬がとても赤くなっている。

 横に座っているカサンド先輩が顎をガクガク震えさせながらタバサ先輩を見ていた。


 いやうん。だって仕方なかったんだ。〈決闘戦〉で賭けたものは負けて取られた場合、相手に交渉することはできない。〈決闘戦〉のルールの一つだ。

 これには人も含まれる。そして人材を取られたからと言って文句を言うことはできないのだ。まあ、賭けられた本人は脱退自由なので嫌なら自分で帰れば良い。それをしないということは、そういうことになる。


 タバサ先輩自体、上級職で実力も問題無いため、〈エデン〉は大歓迎だ。

〈上級転職チケット〉はこの世界ではとんでもない価値が付いている、前に聞いたときは100億で落札されたこともあったそうだ。

 それを使用した上級職【メサイア】のタバサ先輩、そして装備している上級装備シリーズ、そして上級武器ならそれなりのレートになるだろう。


「ふむ、それだとレートとして〈エデン〉側が要求する物がとても弱いな。もっと他の物も上乗せしてほしい。〈テンプルセイバー〉は〈決闘戦〉に出せる品の目録を提示しなさい」


 ユーリ先輩は普通にもっとを要求した。




 ―――――――――――――

 後書き失礼します。お知らせ。


 コミカライズ第2話、本日11時更新です!

 TOブックス コロナEX にて連載中、よかったらGOODをお願いします!



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