第631話 タバサ先輩の実力は優秀。よしレアボス行こう!





「【メサイア】、ヒーラーなのよね?」


 戦闘終了後、シエラが首を傾げて聞いてきた。

 うむ。その疑問も分かる。

 今の戦闘を見ただけではちょっとヒーラーっぽくなかったな。俺がタバサ先輩に実力を見たいのでなるべく出来ることを多く見せてほしいとお願いしていたから。


 シエラの疑問に答える。


「もちろんヒーラーだ。ラナとは出来ることが結構違うけどな。味方を回復しつつ召喚獣でサポートと援護をこなす、とても強力な優良職だ」


 ヒーラーとしてももちろん強い。今回はただの状態異常解除と回復だけだったが、また見せる機会もあるだろう。


 また、ギルドバトルでは召喚獣はマス越えの威力減退に引っかからない。

【メサイア】が〈白の玉座〉を使えばギルドバトルでマス越えの遠距離攻撃から、支援、そして回復までこなせてしまう。

【大聖女】の次に〈白の玉座〉との相性が良いと言われる所以ゆえんだ。


 さらに上級職の【メサイア】は召喚獣だけではなく、一発で戦況を変える『神降ろし』や、敵モンスターを一時的に味方へ心変わりさせる『憑依』も使えるようになり、援護サポート力に磨きが掛かるのだ。

『神降ろし』は六段階目ツリーなので今は秘密だけどな。

 強いんだぜ?


「ゼフィルスさん、それで私の戦いぶりはどうだったかしら?」


「良い感じだ。さすが元Aランクギルドのサブマスター、素晴らしい判断力だったぜ」


 タバサ先輩的に一番気になる所はやはり俺の評価のようだ。ストレートに聞いてきた。

 俺も今の戦闘の評価を何一つ偽らざる気持ちで答える。何一つ問題は無い。


 とはいえ切羽詰まっていない普通の戦闘でヒーラーの真価は測れない。

 他のゲームでは「全滅しそうなとき、立て直せるかがヒーラーの真骨頂だ」なんて言う人もいるくらい、ヒーラーはパーティを支えることに重きを置かれている。

 つまりはボス戦こそがヒーラーのヒーラーたる実力を見ることの出来る場であり、ボス戦でパーティを支えられるかが重要ということだな。


 とりあえず、タバサ先輩の通常時の戦闘は問題無さそうだ。

 次はMPを節約した環境や、連続エンカウントした時の対応なんかも見ていこう。

 それが終われば戦闘参加の人数を減らしたり、タンク無しでの戦闘の様子を見たりと、色々とタバサ先輩にはヒーラーとしての実力を見せてもらおう!


 そして数十分後、タバサ先輩はその全てを完璧にやりきっていた。


「いやあ、さすがだなタバサ先輩は。ギルドバトルでギルドメンバーの回復係を1人でこなしていた実力者、強ぇぜ」


 上級職のステータス持ち、というのも少なからずあるかも知れないが、タバサ先輩は今回四段階目ツリーのスキルを使わず、全て三段階目ツリー以下の下級職に合わせてスキル回しを行なっていた。それでいて〈カウントダウン即死デス〉を10秒以内に必ず対処している。HPの管理も素晴らしく、一定以上のダメージを受けたら即回復すると、とても手際が良かった。


 さすがAランクギルドを支え続けたヒーラーだ。


「これで私も〈エデン〉に入れるかしら?」


「もう一つだタバサ先輩。最後の難関が待ってるぞ」


 そうして俺たちが来た場所は最奥、第40層のボス部屋の前救済場所セーフティエリアだった。

 これから俺たちはボスへと挑む事になる。

 ひょっとすれば徘徊型フィールドボスとかち合うかな? とも思ったのだが、ここまでエンカウントはしなかった。残念。まあ39層まで一気に突き進んだからな。こういうこともある。


 というわけで、いきなり最後の難関です。

 でもなぁ。今までのタバサ先輩の動きを見ていると、難無く皆と連携して軽くボスを屠ってしまうようにしか思えない。

 タバサ先輩は中級上位ダンジョンのレアボス撃破経験もあるからな。

 ただの中級中位ダンジョンボスなんて物足りないだろう。


 ということで取り出したるは我らが〈笛〉。

 レアボスを呼び出すための〈レアモンの笛〉である!


「ということで、レアボスやってみようぜ!」


「何が、というわけかは分からないのだけど? でも構わないわよ。こっちには上級職が3人いるし」


 さすがはシエラだ。いつも俺のやりたいことを推奨してくれる!(いつもではありません)


「私は構わないわ」


「はい。私は中級中位ダンジョンのレアボスは初めてですが、全力を尽くします」


「そもそもゼフィルスがいる時点で普通に終わるわけがない」


 タバサ先輩はまったく動揺せずに頷き、アイギスも槍と盾を構える仕草で答え、レグラムも長剣を抜いて口にする。


「皆やる気満々だな! んじゃ吹くぜ、ピ――――♪」


 誰一人として気負いしていないというのは素晴らしいことだ。

 ということで早速〈笛〉を吹くとタバサ先輩が少し驚いた顔をしていた。


「普通はレアボスに挑むというのは深い考慮と熟考を重ねた末に対策をいくつも重ねてから口にするもの、なはずなのだけれど。〈エデン〉の皆さんはこんなノリで決めてしまうのね」


「これがうちのギルドよ。合わなそうなら今から考え直すかしら?」


「いいえ。〈テンプルセイバー〉よりずいぶんと気が楽よ。あそこは熟考を重ねていた時期もあったけれど、中級上位ダンジョンレアボスを倒してから変わってしまった。ただ報酬目当てで考慮を片隅において挑み、そして最近は何度も負け続けているのよ」


 シエラとタバサ先輩の話を聞くに、〈テンプルセイバー〉はレアボスの〈金箱〉でこの世界に数少ない上級装備を当ててしまったせいで、宝箱しか目に入らなくなってしまったようだ。

 まあ、良くある話だな。


 そしてゲームではトライアンドエラーも普通のことだ。

 しかし、ここ現実リアルでは危険極まりない行為である。

〈救護委員会〉への迷惑も掛かる。レアボスに挑むのは構わないが、俺のように〈レアモンの笛〉を使ってレアボスを呼び出して負けると、そのレアボスは消えずに残り続ける。

 誰かが倒すか、アイテムを使ってボスをチェンジしなくてはならない。

 レアボスがいたせいで進めず、攻略できなくて引き返すしかなかった、という話もあるのだ。


〈レアモンの笛〉は成功し続ければ富を呼ぶ最高のアイテムだが、失敗すると多くの人に迷惑を被らせてしまう、そのため使うには絶対勝つという確信を得なくてはならなかった。費用もたくさん掛かるしな。

〈テンプルセイバー〉はその考慮を捨てて、報酬欲しさで〈笛〉を使い続けてしまったらしい。

 ちょっとドキッとする話だが俺は問題無い。


 レアボスなんて勝ったことしかないからな!


 だからシエラはこっちに視線を向けるのをやめような?


「さて、ではレアボスのお時間です! それでは説明しましょう。ここのレアボスは〈邪球根・ネネネバナ〉。ネが三つで通称〈スリーネ〉だ。見た目は邪に犯された巨大チューリップみたいなやつだが、ダメージを負うごとに成長し、最後は植物のオバケみたいな状態になる……邪悪な花だな」


「色々考えたけどいい言葉が思い浮かばなくて最後ストレートに言ったわね」


「こほん。こいつはレアボスだからな。そりゃあ驚異的な能力をいくつも持っている。特に様々な状態異常にしてくる根の攻撃に加え、単体〈カウントダウン即死デス〉も使ってくるのが脅威だな。ヒーラーの腕が試されるぞ。まあ間に合わなければ俺も『リカバリー』する」


「ふふ。ゼフィルスさんの出番が来ないよう頑張るわね」


「おう。フォローは出来るから気楽にな。それと攻撃方法だが――」


 レアボスは情報大事。

 扉の向こうにレアボスがポップしていなければ残念以外の何物でも無いが、俺はレアボスがいると信じて情報を皆に共有していったのだった。


 そして扉を開けると、しっかりボスが消えていた。


 そしてボス部屋の奥にレアボスポップのエフェクトが溢れた。



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